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イマココの表紙

イマココ

渡り鳥からグーグル・アースまで、空間認知の科学


本書の要点

  • アリやハトのような動物は、目印を記憶したり、特殊な感覚を組み合わせたりして使うことで、目的地までの道を見つけている。

  • 人間であっても、北極や砂漠など極限状況で暮らしている人々は、周囲のわずかなシグナルを感知できるようになる。だが、現代人は自然とのつながりが断ち切られ、こうしたスキルを失っている。

  • 現実を「外」から眺められる能力が、人間の空間認知の最大の特徴である。この能力を駆使して、人類は都市計画から光速コミュニケーション技術まで、周囲の物理的空間を自由につくりあげてきた。

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なぜ人は道に迷うのか

人間の方向感覚は、他の動物に比べ未熟である

gpointstudio/iStock/Thinkstock

道に迷った経験がない人は、とても珍しいのではないだろうか。小さいとき、買い物をしていた両親とはぐれてしまったり、遠足のときに同級生たちと歩いていたはずなのに、いつの間にか違う場所へ迷い込んでしまったり、という経験が、だれしもあるのではないだろうか。

人間は、空や海の広さを理解し、高度な測定器で測って地図を作り、人工衛星を打ち上げて飛行機や自動車をナビゲートすることもできる。しかし、小さな森でいとも簡単に迷子になってしまう。あなたは、都会生活に慣れ過ぎた人間が、本来備わっていた方向感覚を失ったのだ、と想像するだろうか。しかし、じつは人間の方向感覚は、もともと他の動物に比べて未熟だということが、研究によって明らかになっている。

森に棲むクマは、何百キロも離れた自分の巣に戻ることができる。渡り鳥も、何千キロも離れた目的地へ旅をする。人間は、そうしたナビゲーション能力の秘密を探ることはできるけれども、近所でいとも簡単に迷ってしまう。

まずは、人間を含む生き物が、空間にまつわるどんな情報を得て、どのように道を探し出すのか、挙げてみたい。

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ランドマークを探す

目印をたよりに巣を探すハチ

位置を示す、という文字通りの意味の「ランドマーク」を使って、動物が自分の居場所を判断する研究を初めて行ったのが、ニコラス・ティンバーゲンだ。

ティンバーゲンが観察したジガバチは、地中の小さな巣に、幼虫に食べさせるための昆虫を運び込む。そのために、何度も出かけては戻り、見えにくい巣の入り口を探すことになる。

ティンバーゲンが、ハチの巣の周囲にあったものを動かしてしまったところ、戻ってきたハチは入口を見失ってしまった。さらに、巣の周囲のものをどけて、松ぼっくりで入口をぐるりと囲むと、ハチの混乱が収まったころに松ぼっくりを別の場所へ移した。戻ってきたハチは、移動させた松ぼっくりの輪の中心近くを飛んでいた。

昆虫の認知能力はたいへん高い。飛ぶ昆虫の類は、後で戻るつもりの場所を発つとき、その場所に顔を向けて、何度も下向きに弧を描いて飛行する。位置の周りにあるものをランドマークとして記憶するためだ。そして、その記憶をたよりに戻ってくる。

目印を言葉に託す人間

jamenpercy/iStock/Thinkstock

イヌイットたちも、ナビゲーションに関する卓越した能力を持っているが、彼らもランドマークを使っている。苛酷な土地で生き残るために、彼らは物体や景色を観察する能力を磨きあげた。

彼らの言語には、土地を説明する、方向性や大きさを含んだじつに豊かな語彙が使われている。また、炉辺で語られる一族の物語には、土地や、その景色のことが織り込まれている。言葉や物語という形で、位置を記憶するのだ。

また、イヌクシュクという大きなランドマークは、彼らがナビゲーション能力を発揮する際に欠かせないものだ。それは、人間の形をした石の建造物で、高台に建てられており、その腕が人の住むところや釣り場を示している。道しるべや、狩猟の助けになり、その像は離れたところに住む家族の象徴としての意味合いも持つ。本来は道を知るために作られたものだが、それ以上の文化的な役割を、イヌクシュクは背負っている。

オーストラリアの原住民アボリジニーも、生き抜くために、土地を記憶するための術を編み出していた。

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要約公開日 2014.12.26
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