がんばることをやめられない

コントロールできない感情と「トラウマ」の関係
未読
がんばることをやめられない
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コントロールできない感情と「トラウマ」の関係
未読
がんばることをやめられない
出版社
出版日
2023年10月02日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

人生の手綱を自分で握る。一見当たり前のことのようだが、それが「できていない」と感じる読者は決して少なくないだろう。ついキャパシティ以上にがんばってしまったり、他人の顔色をうかがったりしてしまうなど、自分が心から望んでいることではないとわかっていても行動してしまうことはよくある。それらは、自分の性格や気質のせいなのだろうか?

本書の冒頭では、ひとつの事例が紹介される。本来の人格である「私」のほかに、競走馬のように全力疾走する「わたし」がいて、その「わたし」に引っ張られるようにして、がんばらざるを得ないという状況に陥ってしまうFさん。自分でコントロールできない「わたし」の存在に振り回されて苦しんでいるのに、それ以外の生き方ができない……。心療内科医である著者は、自分が引き裂かれるようなその感覚には「トラウマ」が関係していると指摘する。

トラウマとは、生死を分けるような重大な経験でなくとも、育っていく過程で「誰もが持ちうるもの」である。本書では、トラウマ体験によって生まれるコントロール不能な「わたし」と、今、ここを生きる「私」を区別したうえで、どのような考え方がその改善につながるのかを、マンガを用いながら解説する。

人間の脳は、つらい出来事に遭っても、日常でそれを思い出さなくて済むような構造になっている。もしあなたが「がんばることをやめられない」なら、明確に傷ついた記憶がなくても、きっと“何か”があるはずだ。自分の人生を取り戻す術を、本書で掴んでいただきたい。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

鈴木裕介(すずき ゆうすけ)
内科医・心療内科医・産業医・公認心理師。
2008年高知大学卒。
内科医として高知県内の病院に勤務。研修医時代に経験した近親者の自死をきっかけに、メンタルヘルスに深く携わるようになる。一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。
2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを開院、院長に就任。身体的な症状だけではなく、その背後にある種々の生きづらさ・トラウマを見据え、心と身体をともに診る医療を心がけている。その実践で得た知見をより社会に活かすために起業し、企業のメンタルヘルス対策のコンサルティングや執筆・講演活動も積極的に行っている。主な著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    がんばりたくないのにがんばってしまうような「自分の分裂」には、「トラウマ」が深く関わっている。
  • 要点
    2
    トラウマによって生じる強烈なネガティブ感情は、心の中の「壁」の向こうで、本来の「私」の身代わりとして「わたし」というパーツが引き受けている。しかし「危機」に似た状況に遭遇すると、壁から「わたし」があふれ出し、コントロール不能になる。
  • 要点
    3
    あまりにつらい体験をしたら、脳は「心」と「身体」の接続を切ってやり過ごす。これは大きな苦痛を避けるための生存戦略である。

要約

【必読ポイント!】「 がんばることをやめられない」のはなぜ?

自分が「分裂」してしまう理由

がんばりたくないのにがんばってしまう。本当は断りたいのに、笑顔で引き受けてしまう。ときどき人が変わったように怒りを爆発させ、後悔する……。こうしたことは日常のさまざまな場面に存在する。自分でもコントロールできない感情に苦しみ自己嫌悪に陥ってしまうのは、つらいことである。

自己矛盾や葛藤は誰にでもあるが、自分が「分裂」してしまうかのような葛藤は、通常の葛藤とは異なるものだ。たとえば「ラーメン食べたいな、でも太るからやめようかな」と悩む「通常の葛藤」は、揺れる2つの気持ちをそばで眺め、その気持ちを自分で把握できている状態だ。

一方の「自分が分裂する葛藤」は、「シーソーの片側に正体不明の気持ちがドーンと乗っかってきて、大きく揺らいでしまう状態」にたとえられる。「恋人を大事にしたい」と思っているのに、急に怖くなって「別れたい!」と思うのはこのケースだ。突然不可解なものが現れて、パニックを起こしている状態である。

「私」と「わたし」
Afry Harvy/gettyimages

「自分の分裂」が起きる原因には、「トラウマ」と「生存戦略」が関わっている。

自分の心身に多大な影響を与えた出来事を「トラウマ」というが、トラウマ体験は、受け止められないほどの強烈な悲しみや怒り、恐怖などの感情を植えつける。だが、その感情を抱えたままでは日常生活に支障が出るため、自分のなかに「壁」をつくり、意識できない場所に封じ込めておくのである。

壁の向こうでは、本来の「私」に代わって別の「わたし」が生まれる。壁の向こうの「わたし」は「トラウマ担当のパーツ」として、おぞましい感情を一手に引き受けて、本来の「私」を守ってくれるのだ。これは、人間が自分を守るために無意識に生み出した「生存戦略」といえる。

「わたし(パーツ)」は、危機的な状況が過ぎたあとも風化せずに存在し続ける。そして、どこかで「危機」に似た状況に直面すると、「わたし」の感情が「壁」を超えてあふれて、理性で自分をコントロールできない状態に陥ってしまう。

「わたし(パーツ)」とは、本来の「私」の日常を守るためにつくられた「身代わり」のような存在なのである。

トラウマのない人はいない

トラウマはどんな人でも持っている。トラウマとは「生命を脅かされるような出来事」だといわれることもあるが、それは間違いだ。トラウマにはさまざまなレベルがあり、日常生活で起こる傷つきもトラウマなのである。

生死に関わるトラウマを「ビッグT」と呼ぶのに対し、いじめやパワハラ、離婚などの日常的なトラウマを「スモールt」と呼ぶ。多くのスモールtは養育者(親)との関係に起因し、その関係性で得た対人関係のパターンは、その後の人生に大きな影響を与える。仮に今は親と関係が良好でも、トラウマがないとはいえない。今のあなたと「パーツ」は別の存在で、子どもの頃に受けた感情は現在も「壁」の向こうで眠っているからだ。

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要約公開日 2024.04.12
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