ソーシャル・ビジネス革命
世界の課題を解決する新たな経済システム

未 読
ソーシャル・ビジネス革命
ジャンル
著者
ムハマド・ユヌス 岡田昌治(監修) 千葉敏生(訳)
出版社
早川書房
定価
2,160円
出版日
2010年12月22日
評点(5点満点)
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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レビュー

「ソーシャル」という言葉は最近ビジネスのいたるところで耳にするが、本書のテーマである「ソーシャル・ビジネス」は流行りのGREEやDeNAなどの「ソーシャル・ゲーム」やFacebookのような「ソーシャル・ネットワーク」とは全く関係ない。ソーシャル・ビジネスとは、端的に言うと「貧困や環境問題などの社会目標を追求する出資者への配当がゼロのビジネス」だ。ユヌス氏の提唱するソーシャル・ビジネスにおいて、投資家は投資元本以上のリターンを得ることは許されていない。また社会目標を達成するといっても、寄付で成り立つのではなく、しっかりとビジネスとして成り立っているという点において、既存の非営利組織との枠組みとは一線を画している。

果たして、そんな形態のビジネスが成り立つのだろうか。従業員や投資家は集まるのだろうか。そんな疑問を感じてしまうのも無理はない。しかし私が本書を読んだ結果、どうやらそれは杞憂だったようだ。それは、ユヌス氏当人が食糧・インフラ・医療など、さまざまな分野でいくつものソーシャル・ビジネスを立ち上げており、既にいくつもの成功事例が存在していることに裏付けられる。本書ではその事例が豊富に紹介されている(ハイライトではその一部を紹介するに留まっているが)。

ユヌス氏は単にノーベル平和賞を受賞した大学教授というよりも、シリアル・アントレプレナー(連続企業家)と呼ぶのにふさわしい存在と言えるのではないか。ユヌス氏の経営スタイルは、現在のシリコンバレーで主流となっている起業手法「リーン・スタートアップ」に他ならない。起業を志す人にとって大いに参考になるだろう。さらに言えば、ユヌス氏のビジネスモデル構築手法を、従来通りの枠組みである利潤最大化を目的として用いた場合、価格破壊をおこし業界を一変させることすら可能かもしれない。ユヌス氏のビジネスモデル構築はソーシャル・ビジネスに限らず、通常のビジネスを行う上でも非常に参考になる。本書のテーマはソーシャル・ビジネスだが、語っている内容は他でもなく「新規事業戦略」なのだ。

著者

ムハマド・ユヌス
1940年、バングラディシュ・チッタゴン生まれ。チッタゴン・カレッジ、ダッカ大学卒業後、チッタゴン・カレッジの経済学講師を経て、米ヴァンダービルト大学で経済学博士号を取得。1972年に帰国後、政府経済局計画委員会副委員長、チッタゴン大学経済学部学部長として教鞭を執る。しかし、1974年の大飢饉後に貧しい人々の窮状を目の当たりにして、その救済活動に目覚め、1983年にグラミン銀行を創設。マイクロクレジット(無担保少額融資)で農村部の貧しい人々の自立を支援し、同国の貧困軽減に大きく貢献。社会問題をビジネスの手法で解決する「ソーシャル・ビジネス」を提唱し、貧しい人々の住宅、教育、医療などを支援する事業を次々と立ち上げている。
「アジアのノーベル賞」といわれるマグサイサイ賞、世界食糧賞、日経アジア賞、福岡アジア賞など数々の国際的な賞を受けており、2006年にはノーベル平和賞を受賞。主な著書に「ムハマド・ユヌス自伝」、「貧困のない世界を創る」がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    ソーシャル・ビジネスは、現代の経済理論に欠けている「他社の役に立つという喜びに専念する」新しいビジネスの枠組みだ。
  • 要点
    2
    ソーシャル・ビジネスは社会的目標を達成することが目的であるが、ビジネスとして持続可能であることが大前提であり、寄付で成り立っているような多くの非営利団体や社会的起業などと一線を画す。
  • 要点
    3
    ユヌス氏は非営利組織も営利目的の企業も否定していない。社会問題を解決する一つの手段としてソーシャル・ビジネスという枠組みが存在し、それは誰からも強要されるものではないと主張している。

要約

【必読ポイント!】 なぜ今、ソーシャル・ビジネスなのか?

iStock/Thinkstock
ソーシャル・ビジネスとは何か?

私は大学教授でありながら、バングラデシュの貧困に対して取り組む中で、「ソーシャル・ビジネス」という新しい枠組みを提唱してきた。それは、資本主義経済の枠組みを完全無欠な状態に近づけ、貧困などの社会問題や環境問題を生み出す基本的な欠陥を取り除き、資本主義経済の構造に根本的な変化をもたらす枠組みだ。

現代の資本主義理論の欠陥は、人間の本質を誤解している点にある。資本主義理論において、人間は利益の最大化という経済指標を一途に追い求めているとされている。これは歪んだ人間像だ。この歪んだ人間像という欠陥が積もり積もって、今日のさまざまな危機が生まれた。この理論の欠陥を認めれば、私たちのビジネスには以下二種類のビジネスの枠組みが必要であるといえる。

1.他者を犠牲にしてでも企業の所有者の利益を最大化するビジネス(これまでの資本主義理論の枠組み)

2.他者の役に立つ喜びに専念するビジネス(新しい枠組み)

この二つ目のビジネスこそが、私のいうソーシャル・ビジネスだ。現代の経済理論に欠けているのはまさしくこの概念である。ソーシャル・ビジネスは利益追求の外側に存在し、その目的は商品やサービスの製造・販売など、一般的なビジネスの手法を用いて社会問題を解決することにある。ソーシャル・ビジネスとは何か、それを定義するには随分と時間を要したが、以下の「七原則」をまとめた。

① 経営目的は、利潤の最大化ではなく、人々や社会を脅かす貧困、教育、健康、情報アクセス、環境といった問題を解決することである。

② 財務的・経済的な持続可能性を実現する。

③ 投資家は投資額のみを回収できるが、投資の元本を超える配当は行われない。

④ 投資額を返済して残る利益は、会社の拡大や改善のために留保される。

⑤ 環境に配慮する。

⑥ 従業員に市場賃金と標準以上の労働条件を提供する。

⑦ 楽しむ!

ソーシャル・ビジネスは多くの非営利団体や社会企業などとは異なり、寄付で成り立つものではなく、ビジネスとして持続可能なモデルとなっていることが特徴だ。私は利益の追求を否定するつもりはない。ソーシャル・ビジネスは消費者、労働者、起業家、投資家に新たな選択肢を与え、市場の幅を広げるものだ。あくまで社会問題を解決するひとつの手法がソーシャル・ビジネスなのだ。ソーシャル・ビジネスは誰にも強制されるわけではなく、自由選択の保証された解放経済のもとで営まれる。

そして今、私たちはワクワクするような時代に生きている。これまでの資本主義理論によって生み出されたさまざまな種類の現代の危機に対して、新しい解決策を大胆に試すチャンスがあるからだ。

私はグラミン銀行をはじめとして、様々な分野でソーシャル・ビジネスを行う会社を立ち上げてきた。次は具体的な事例を見てみよう。

iStock/Thinkstock
グラミン・ダノンの事例

「グラミン・ダノン」は一般のヨーグルト会社とほとんど味も形も変わらないヨーグルトを製造・販売・流通させている会社だ。グラミン・ダノンの目的は、バングラデシュの子どもに栄養豊富なヨーグルトを届けることだ。バングラデシュの子どもの半数は栄養不足に苦しんでいる。

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著者
ムハマド・ユヌス 岡田昌治(監修) 千葉敏生(訳)
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定価
2,160円
出版日
2010年12月22日
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