哲学入門

未読
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哲学入門
出版社
出版日
2014年03月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

科学を前にして哲学はいったい何をすべきなのだろうか。科学の進歩というのは、私たちの生活を便利にするだけでなく、人間観や世界観にも大きな影響を与えてきた。大宇宙のスケールはわれわれ人間の無力感を際立たせるし、脳科学の発展は人間の自己像を再考させる。普段難しいことを考えない人でもChatGPTの登場に際して、「人間の知能ってなに?」という疑問を大なり小なり抱いたはずである。知識を探究すれば真理に到達できる、という世界観が崩れて長い時間が経った。そんな神のいない世界で、科学だけは進歩を続けている。

本書は、哲学で扱われる「意味」や「目的」といったものを、科学の成果を踏まえた世界観の上に記述しようと試みる。よくある「入門」のように、哲学史に名を連ねるビッグネームはほとんど登場しない。けれども、ここで扱われているテーマはそれまでの哲学が取り上げてきた問題である。その意味で間違いなく本書は「哲学入門」といえよう。そして、ここでの問いは科学が成功を収めた現代に生きる私たちにもとても重要だ。たとえば、投薬によって性格まで変えることができてしまういま、「自由意志とはなにか」というトピックは意外と心に刺さるのではないだろうか。

普段素通りしてしまっている「大切なこと」を、もう一度深く、そして徹底的に考え、記述する。それが哲学である。本書を読めば、哲学が決して私たちの手の届かないところにあるものではないことがわかるし、心に描かれた世界や自分自身に新しい風を吹き込むこともできるだろう。

著者

戸田山和久(とだやま かずひさ)
1958年東京都生まれ。1989年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。名古屋大学教授を経て、現在、大学改革支援・学位授与機構教授。専攻は科学哲学。科学者と哲学者の双方からうさん臭がられながらも、哲学と科学のシームレス化を目指して奮闘努力中。著書に『教養の書』(筑摩書房)、『論理学をつくる』(名古屋大学出版会)、『知識の哲学』(産業図書)、『科学哲学の冒険』『最新版 論文の教室』(NHKブックス)、『恐怖の哲学』(NHK出版新書)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    科学の進歩を踏まえつつ、「ありそでなさそでやっぱりあるもの」を記述するのが本書の目的である。「意味」や「自由」などがそれだ。
  • 要点
    2
    自由意志というものはありえるのだろうか。あらかじめすべて決まっているという立場を決定論という。認知科学は、人間を一種の計算機ととらえる新たな決定論を生み出した。
  • 要点
    3
    実は決定論と自由意志は矛盾しない。あらかじめ決まっていることと、自由意志は両立すると考えることもできる。

要約

ありそでなさそでやっぱりあるもの

唯物論

「ありそでなさそでやっぱりあるもの」。それは、「哲学がずっと考え続けてきた中心主題」である。その意味で本書は哲学の長い歴史と共通の問題を追うが、有名な哲学者が紙面に登場することはほぼない。そうした人たちを解説するものはこれまでたくさんあったからだ。本書では、デネット、ミリカン、ドレツキ、ペレブームといった、あまり知られていない哲学者を取り上げている。

その哲学は、「科学の成果を正面から受け止め、科学的世界像のただなかで人間とは何かを考える」ことを推し進める。そうした同時代の哲学者たちの思考を手掛かりにして、哲学の中心問題に迫っていく。

では、そもそも「ありそでなさそでやっぱりあるもの」とは何なのだろうか。その代表である「意味」についてまずは考えてみよう。

私たちは自分の言葉に意味があると思っているし、「意味している」いろいろなものに囲まれている。しかし、「この世は究極的には何種類かの素粒子が相互作用しているにすぎない」などと教わったりもする。だから物質である脳の働き、心も、複雑な化学反応の現れにすぎないというように考える。これを唯物論、あるいは物理主義という。

唯物論の壮大な計画
imaginima/gettyimages

唯物論から世界を見てみると、物理的相互作用ではない「意味する」というものが疑わしくなる。日常的立場では当然に感じていたものが、唯物論で見つめ直すと「なさそうなもの」に思えてくるのだ。哲学はこうした「不思議をあらわにする問いを問う力」を持つ。

ありそうでなさそうなものは意味以外にもたくさんある。情報、目的、機能、価値、道徳、意志の自由、美、人生の意味などだ。これらは、岩や水のように質量のような物理量をもたないし、触れることもできない。では、それなしで済ませられるかというとそうでもない。このようなものを、ここでは「存在もどき」と呼ぼう。

この「存在もどき」の問題を扱う考え方としてかつてはよいものと思われていたものに、二元論がある。「物理的対象と物理的相互作用からなるモノの世界」と、「存在もどき」を含む世界を分けて、科学と棲み分けを図ろうとしたのだ。しかし現代は、科学が「ココロの世界」を浸食してきている。怒りっぽいという「性格」や「人格」も、ホルモンバランスなどの神経科学的な用語やゲノムレベルの話での説明ができてしまうのだ。

世界を交わらない2つのものと考えるのは思考放棄ですらある。著者は唯物論者として、存在もどきをモノだけの「一枚の絵」に描き込もうとしているのだ。そのために、「存在もどきはこの物理的世界に最初からあったわけではない」し、「この世界の中でだんだんに湧いて出てきた」という枠組みを採用する。

本書はこの議論のためにコアとなる、表象の進化を先に検討しているが、要約では、そのエッセンスを取り入れた描き込みの部分を紹介したい。すなわち、これまで科学では扱えないと思われていた「自由」「道徳」についての考察である。

【必読ポイント!】 自由

決定論は自由を脅かすか
francescoch/gettyimages

石やカエルに自由はない。しかし、人間には自由があり、それには価値がある。人はそう信じて疑わない。それは本当だろうか。そもそも「自由」とは何だろうか。どうして私たちにとって大切なのだろうか。

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要約公開日 2024.11.02
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