「学力」の経済学

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ジャンル
出版社
ディスカヴァー・トゥエンティワン

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出版日
2024年06月29日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

教育とは誰もが出入りできる聖域だ。大抵の人は教育を受けた経験があるから、皆それなりの持論を持っている。一方で、「これはすべきではない」というようなタブーも非常に多い。

教育に実験やデータの概念を持ち込む。これもどちらかというとタブーに近く反感が強い。子どもという生きた存在や集団をデータで語る。それは「冷たい」のではないか、というような指摘である。

果たしてそうだろうか。たとえばプロ野球はデータがモノを言うスポーツだ。スコアラーが相手選手の能力や傾向を常に分析し、それを基に選手や指揮官は戦略を組み立てる。野球中継を見てもOPSや防御率といった統計は頻繁に目にする。しかし、引退試合で打った感動的なホームランを「冷たい」という人はいない。そのホームランだって、スコアラーからのデータを基にしている可能性が高いのに。

本書は教育をデータで分析する教育経済学の本だ。少人数学級は費用対効果が悪い。教師の研修は効果が薄い。教員免許が参入障壁になっている。こういった、教育関係者にとっては衝撃的な主張が並ぶ。だからといって、これは教育現場を混乱させようというものではない。こうした主張の背景には、数字に基づいた確たる根拠が示されている。教育経済学という視点から、教育をどう良くするかという意志で貫かれた本書からは、子どもたちへの温かな眼差しが感じられる。

本書の分析には恣意的な解釈の余地がない。新しく、そして根拠が明確な主張ばかりである。

著者

中室牧子(なかむろ まきこ)
慶應義塾大学総合政策学部教授。慶應義塾大学卒業後、米ニューヨーク市のコロンビア大学大学院でMPA,Ph.D.を取得。専門は教育経済学。日本銀行等を経て、2019年から現職。デジタル庁シニアエキスパート(デジタルエデュケーション担当)、東京財団政策研究所研究主幹、経済産業研究所ファカルティフェローを兼任。政府のデジタル行財政改革会議、規制改革推進会議等で有識者委員を務める。日本学術会議会員(第26期)。テレビ朝日「大下容子ワイド!スクランブル」コメンテーター(木曜隔週)。朝日新聞論壇委員。著書に『原因と結果の経済学』(ダイヤモンド社)がある。最近の論文には、Takahashi, R., Igei, K., Tsugawa, Y., & Nakamuro, M.(2024). The effect of silent eating during school lunchtime on COVID-19 outbreaks. Social Science & Medicine Sato, K., Fukai, T., Fujisawa, K., & Nakamuro, M. (2023). Association between the COVID-19 pandemic and early childhood development. JAMA Pediatricsなどがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    教育評論家や子育ての専門家は、ときに根拠に乏しい主張を展開する。一方、データによって教育や子育の分野で新しい発見をするのが教育経済学である。
  • 要点
    2
    子どもの教育におけるご褒美は経済学的にも効果がある。では、「宿題をすること」と「テストでいい成績をとること」、どちらにご褒美を与えるのがより効果的だろうか。
  • 要点
    3
    「少人数学級」や「子ども手当」など、他国では費用対効果が低い、もしくはないと示された教育政策が、日本では採用されている。今後は効果測定によるエビデンスに基づいて、教育政策のあり方を議論していくべきだ。

要約

教育経済学とは

「データ」に信頼を置く

教育経済学とは、教育を経済学の理論や手法を用いて分析する応用経済学の一分野だ。この教育経済学を学んだ著者が、教育を議論するときに絶対的な信頼を寄せているものがある。それが、「データ」である。大規模なデータを分析することで、子育て中の保護者や学校の先生が見えていないことがわかることがあるのだ。

教育評論家や子育ての専門家と呼ばれる人達の主張は、科学的な根拠に乏しいことがある。そのために「なぜその主張が正しいのか」という説明が十分になされないことが多い。

経済学の知見を取り入れた教育にかんする発見は、そうした評論家や専門家の指南やノウハウよりもはるかに価値がある。本書ではそうした「知っておかないともったいないこと」を紹介していく。

個人の体験と、大勢から生まれた規則性
Hakase_/gettyimages

子育てに成功した母親の体験談は多くの人に好まれる。そうした体験談ではほとんど触れられていないが、多くの研究で子どもの学力に大きな影響を与えると示された要因がある。それが親の年収や学歴である。

文部科学省の調査によると、親の学歴や収入は子どもの学歴に強い影響を与え、東京大学ともなれば親世帯の平均年収は約1000万となっており、世帯収入が950万円以上の学生の割合は約57%を占めている。2012年の「民間給与実態調査」における給与所得者1人あたりの平均年収が408万円、「家計調査」の2人以上勤労者世帯の平均年収が623万であることを考えれば、東大生の親の収入がいかに突出して高いかがわかる。

子どもを全員東大に入れた、というような話は例外中の例外であるが、そういう例外ほどかえって注目されてしまう。教育経済学が信頼を寄せるのは、こうした一人の個人の体験記ではなく、膨大な個人の体験から得られた規則性なのである。

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要約公開日 2024.11.08
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