突き抜けた人材 “異能ベーター”
突き抜けた人材 “異能ベーター”
ネスレ、トヨタ、DeNA
突き抜けた人材 “異能ベーター”
出版社
日経BP
出版日
2015年03月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

イノベーションを起こせと言われ始めて久しいが、あなたの会社にイノベーションを生み出せる土壌が整っているだろうか? 人とは違う発想と、並々ならぬ行動力を持ち合わせた「企業内イノベーター(異能ベーター)」が本領を発揮できるようにするには何が必要なのか?

本書はネスレ、トヨタ、DeNA、カルビーなどの多彩な業種の事例から、異能ベーターが企業内でどのようにイノベーションの種を見つけ、現場のニーズとすり合わせて、変革を実現していくかを追跡し、イノベーションに不可欠な要素をあぶり出していく。異能ベーターは、社内の「異端児」であることが多い。既存の物差しでは評価されづらく、社内で埋もれる可能性がある。そこで、彼らが能力を存分に発揮し、企業内で正当な評価を受けられる風土を作るための情報交換や交流の場として、2015年からイノベーションカフェが本格始動するという。カフェの発起人の一人であり、建設現場のIT化を進める田辺氏はこう語る。「イノベーションというと新規事業開発がイメージされやすいが、社内変革の領域こそ、はるかに重要でニーズが大きい。」

イノベーションの種を見つけているものの、変革の一歩を踏み出すかどうか迷っている人にはもちろん、事業開発や人材育成に関わる人にも、本書を創造的破壊のためのバイブルとしてお薦めしたい。

ライター画像
松尾美里

著者

本書の要点

  • 要点
    1
    社内業務を変革する「異能ベーター」は既存の物差しでは評価されづらく、社内で埋もれる可能性がある。「異端児」が能力を存分に発揮し、企業内で正当な評価を受けられる風土を作ることが大切だ。
  • 要点
    2
    イノベーションを起こすには、現場のニーズと分析のシーズ(種)をマッチングさせ、ビジネスになるまで後押しする存在が必要だ。
  • 要点
    3
    イノベーションを社内に波及させるには、いきなり独創的な改革に着手するのではなく、小さな改善を積み重ねて、現場の人からの信頼獲得が重要である。

要約

ネスレ日本の「発明」

社内転職でオフィス行脚の日々へ
Adam Radosavljevic/iStock/Thinkstock

ネスレ日本は、売上高に占める直販比率を2013年の8%から2020年には20%にまで伸ばすという。中核となる施策は、「ネスカフェアンバサダー」。職場でネスカフェを広めてくれる「大使」にコーヒーマシンの「バリスタ」を無料提供するかわりに、専用カートリッジを継続購入してもらい、コーヒーを飲んだ同僚から1杯20円の代金を徴収するというフリーミアムのビジネスモデルを採用している。アンバサダーの増加とともにカートリッジの定期購入が増えれば、マシンの先行投資を回収でき、安定した利益を見込めるという。

この新事業を担うのが、マシンの販売担当から異例の社内転職を遂げた津田匡保氏である。アンバサダーの人数を現状の3倍の50万人まで増やすべく、対象とするオフィスの規模の拡大と、オフィスという「定義」の拡大を考えている。

前者は、最も注力していた従業員20人以下の小規模拠点だけでなく、中規模拠点にも手を広げるという戦略だ。販路開拓のため、オフィス家具のイトーキとコラボし、アンバサダー新規登録者にマシン設置用のテーブル台を無料提供する試みも開始している。「マシンを置く場所がない」というアンバサダーの声に応えるためだ。

後者は、人が集う場所をオポチュニティー(機会)と見なし、公民館などの公共施設や、トラックの運転席にも販路を広げるという戦略だ。アンバサダーの半数が病院や学校、美容室などの想定外な職場だったことがきっかけだ。

アンバサダーの声に応え、全社での相乗効果をねらう

津田氏は、自動的にカートリッジが届く「ラク楽お届け便」というネット通販を始めるなど、アンバサダーの声にひたすら応え続け、定期購入の離脱者ゼロという結果をもたらした。

しかし、夏になるとコーヒー需要は減る。津田氏はこの事実を正直にアンバサダーに伝えて、代わりにペットボトルのアイスコーヒーを同僚に勧めるキャンペーンを始めた。ボトルコーヒーのサンプルを配布し冷蔵庫や製氷機まで作ったところ、ボトルコーヒーの販売が急増した。アンバサダーのビジネス単体では赤字だが、この事業が有料でのマシン販売に貢献し、バリスタが日本一売れているコーヒーマシンに成長するなど、会社全体での相乗効果を生み出している。

トヨタがITで農業を変える

農業でもトヨタ流の工程管理の出番
VvoeVale/iStock/Thinkstock

トヨタの新事業企画部の喜多賢二氏は、農業法人、鍋八農産の代表取締役八木輝治氏とともに、スマートフォンを活用した農作業のIT改革に乗り出した。農業法人では、農作業の進捗や作業すべき水田の管理に課題があった。

そこでトヨタは、自動車のテレマティクスサービスで培ったクラウド技術を農業の現場に持ち込み、農業支援を「情報サービス事業」の一つに育てようとしている。トヨタが開発したシステム「豊作計画」を使えば、スタッフはスマホで水田の位置と作業内容を確認でき、進捗をクラウドサービス上に反映して管理者に共有できる。育苗や田起こしといった作業を「工程」として定義し、それぞれの標準時間を決めて1日単位で仕事を割り振る。トヨタ流の工程管理により、管理者は高精度の計画立案ができるようになるのだ。

工程管理のヒントは現場にある

農業を理解するために、喜多氏は鍋八農産のスタッフと一緒に汗をかいて農業を体感した。トヨタ流の改善アプローチである現場のビデオ撮りで、イノベーションのヒントを探る。3年間の現場経験による大きな学びは、「農作業の流れは製造業と同じく工程として捉えられる」ということだった。

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要約公開日 2015.05.15
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