荘司雅彦の法的仮説力養成講座

事実認定の手法に学ぶ
未読
荘司雅彦の法的仮説力養成講座
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荘司雅彦の法的仮説力養成講座
出版社
日本実業出版社
出版日
2010年01月23日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

コンサルタントとしてのキャリアを築いていく中で、私はさまざまな職業の人に触れ合ってきたと思う。そんな中で、どうもコンサルタントと思考方法が極めて近いのでは、と感じた職業が2つある。ひとつが「医師」。そしてもうひとつは本書の著者の職業である「弁護士」である。物事を議論する流れが、コンサルタント、医師、弁護士の3者間では妙に合致するのだ。同じ順序で物事を捉え、同じ順序で深掘っていく。普段考えているテーマは全く違うのに、議論しているととても心地がいい。

それではこの三者間に共通している思考方法とはいかなるものか。私はその答えこそ、本書のテーマである「仮説思考」であると認識している。仮説思考に関しては様々な人が定義していると思われるが、その草分け的な存在であり、私が尊敬している経営コンサルタントである内田和成氏の著書「仮説思考(東洋経済新報社)」によれば、「仮説思考とは、物事を答えから考えること(同著P22より)」である。確かに、答えありきで物事を考えることに違和感を覚える方は多いと思われる。しかし、その方が物事を進めていく速度は圧倒的に早いのだ。

本書「法的仮説力養成講座」は、弁護士の視点から語られる実にユニークな仮説思考についての考察本だ。ビジネスの観点からは語られつくしたテーマではあるが、判例をもとに仮説思考が語られるというのには新鮮な感覚を覚えた。もっと言うと、ビジネスをテーマに仮説思考を語るよりも共感しやすいのではないかとすら思える点が、本書にはいくつも存在した。特に物的証拠などの客観的事実と、証言や自白といったある種曖昧な事実から、弁護士がいかにストーリーを構築するかという思考方法はビジネスパーソンにとっても一見の価値がある。

著者

荘司 雅彦
1958年、三重県生まれ。81年、東京大学法学部卒業、旧日本長期信用銀行入行。85年、野村證券投資信託入社、86年9月、同退社。88年、司法試験合格。91年、弁護士登録。2008年、平均的弁護士の約10倍の案件を処理する傍ら、各種行政委員会委員等も歴任。元SBI大学院大学教授。著書「男と女の法律戦略」(講談社)がドラマ「離婚弁護士II」の脚本に、弁護士の戦略として採用される。また、コメンテイターや出演者として、テレビ、ラジオに多数出演。

本書の要点

  • 要点
    1
    予め描いたストーリーをもとに、証言や自白を取ってストーリーの妥当性を検討していくのが法律家のアプローチである。このアプローチを用いると矛盾点や供述の食い違いは驚くほど浮き上がってみえる。
  • 要点
    2
    仮に到底信じられないストーリーが出来上がったのだとすれば、そのストーリーを作らざるを得なかった客観的な事実を提示し、客観的事実の積み重ねであることを説明する必要がある。
  • 要点
    3
    法的仮説力を飛躍的に高めるためには、①普段なんとなく頭の中で考えていることを、客観材料、主観材料、人間心理、行動のどの側面の根拠に根差しているか、②それぞれの素材の信頼性をしっかり意識しているか、という2つの点を常に留意する必要がある。

要約

「法的仮説力」とは何か

Fuse/Thinkstock
法的仮説力 = ストーリー構築能力

本書は、法律家が持っている「法的仮説力」とは、いかなるものであるかを語っているものだ。著者の荘司氏(弁護士)によれば、「法的仮説力とは、ストーリーを組み立てる力である」とのことだ。

裁判で行われる事実認定とは、主に裁判官が証拠などに基づき、過去にあった事実の中で、争いのある部分をできるだけ事実に近いストーリーとして再構成する作業である。もちろん、裁判官が実際に現場で状況を見たわけではないので、再構成されたストーリーは真実とは異なる。

法律家は、日常的にストーリーを構築することに長けており、著者によれば、その能力はビジネスの局面においても十分に応用が可能である、とのことだ。それは、法的仮説力を身につけることで、将来起こりうる事柄の予測が可能になるからである。

さらに、「将来予測というと、巨大コンサルティングファームの十八番だと思われる方が多いだろうが、法律家も決してその能力は劣っていない。もっと言うならば、以下二点の宿命から法律家の方がその能力に長けている。

1.構築したストーリーの結果が極めて重大な影響を及ぼす(極刑の可能性すらある)

2.法律家のストーリーは裁判において公の場で批判される

法律家はストーリー構築に際し、最大限隙のないものを作らなければならないのだ」と著者は主張している。

元コンサルティングファームの人間として反対の立場で述べれば、コンサルタントの最終報告は確かに人命に関わることはないのかもしれないが、大規模なリストラ施策など多くの関係者の人生に影響することも少なくない。また利害が一致しない組織からは批判の対象になることも当然多いため、先に挙げた2点に匹敵する宿命を負っている。著者の観点とは異なるが、法律家の仮説力と、コンサルタントのそれは、本来比べることのできないものということが事実ではなかろうか。

iStock/Thinkstock
法律家のストーリー構築の事例

本書では実際の裁判の判例(事実をやや脚色したもの)をもとに、ひったくりの事例、強姦事件の事例など実に多くのストーリー構築の実例が語られている。そのなかでも私が興味深いと感じたのは次の事件に関する記載だ。

髪の毛を金髪に染めた厚化粧の高校生が、道を歩いているときに突如転倒した。

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要約公開日 2013.11.07
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