ネガティヴ・ケイパビリティを発揮するために
「淀み」があるから生きやすくなる

「ケイパビリティ」とは、目標を達成する、行動に出る、問題を解決するといった積極的な能力を意味する言葉として使われる。一方で、「ネガティヴ・ケイパビリティ」は、「消極的能力」と訳されることもあるように、そういった押しの強さはない。ネガティヴ・ケイパビリティとは、謎や問題に直面したとき、安易な解決や納得に走らずに、「物事を宙づりにしたまま抱えておく力や姿勢」のことを意味する。難しい事態に対して、「即断せずにわからないままに留めながら、モヤモヤを抱えておく姿勢のこと」とも言える。だが、これを大事なことだと即断できるほど、単純にはいかない。
たとえば、会社の新しい企画が前向きに進んでいるのに、なんだか不安を抱えているメンバーがいるとする。そこで何らかのビジネスのフレームワークを使ったところ、素早くまとまっていった。しかし、早々に現状を定義して解決策を決定したことで、不安について参加者たちがもっと慎重に観察し、会話を交わす機会は失われている。ネガティヴ・ケイパビリティが発揮されないままになってしまうのだ。
社会で大きな事件が起きたとき、同僚が大きな失敗をしたとき、身近な人に裏切られたと感じたとき、私たちは性急に判断、解決しようとする。学校や企業などの小さな世界で「一番」になるには、積極的で素早い実践が有効だからだ。こういったことを徹底的に遠ざけようとするのがネガティヴ・ケイパビリティといえる。
現代では、多くの人が余計な時間やコストを削減して即断即決し、悩みや疑いのないスピード感のある生き方を求める。わざわざ立ち止まってモヤモヤした状態でいるためのネガティヴ・ケイパビリティは、リスクや不確実性に満ちた濁流に、「淀み」を作るようなものだ。川の「淀み」があるからこそ、水生生物は暮らしやすくなる。変化の激しい私たちの社会に「淀み」が増えると、社会の可能性や多様性が増して、もっと生きやすくなるのではないだろうか。




















