バカになれ!

カリスマ・エンジニア「ゼロからの発想術」
未読
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カリスマ・エンジニア「ゼロからの発想術」
未読
バカになれ!
出版社
文藝春秋
出版日
2014年11月30日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「バカになる」―といっても、何も考えないことではない。むしろ、考えに考え抜いて、本当に大切なことを見抜くために必要な姿勢であるということが、本書を読むとよくわかる。その根底にあるのは、「人のため、社会のために自分に何ができるかを、真剣に考える」という、誠実さである。

仕事で成果を出したいと思うとき、目標として「自分がこれを達成したい」「こんな製品を作ってみたい」「今までにない新しい売り方を考えたい」という言葉が出てくることはよくあるだろう。しかし、それらはすべて「自分」や「自分の会社」が出発点になっているということに気づかされる。「バカになって」考えるべきは、そこではない。「お客様がどんな気持ちになるか」「お客様の生活がどう変わるか」。あくまで買う人、使う人の「心」が主語になってこそ、新しい価値を生み出すことができるのだ。

本書では、著者が世界一のスーパーカー、日産GT-Rを作り上げるまでの仕事術や発想法が具体的に書かれているが、すべては「人の心」をしっかり見据え、考え抜いたからこそ、物事の本質にシャープにたどりつけたのである。また、自分が触れる多くの情報をどうやって自分のものとし、物事の本質を見る目を鍛えていくか、考え方を知ることができる。その考え方は、仕事のみならず、私生活での人間関係、人生そのものにも十分応用することができるだろう。

著者

水野 和敏(みずの・かずとし)
1952年長野県千曲市生まれ。工業高等専門学校時代に自動車部を立ち上げレーシングカーを設計。1972年、日産自動車に入社するが知識を持て余してふてくされ、販売店へ出向。お客さまの言葉から車づくりの本質に目覚める。本社へ戻り、R32型スカイライン、初代プリメーラ(P10型)車両パッケージ設計を担当。
1989年NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)に出向、レーシングチームの監督兼チーフエンジニアに就任。国内グループC耐久レースで3年連続チャンピオン、92年にデイトナ24時間総合優勝獲得(92年は参戦レース全勝)をなしとげる。
1993年に日産自動車へ復職し、CVE(チーフ・ヴィークル・エンジニア)としてV35型スカイライン、ステージア、Z33型フェアレディZなど、乗用車系・スポーツ車種を中心に開発責任者となる。
とくに日産GT‐Rではカルロス・ゴーンCEOから「ミスターGT‐R」として企画・開発・生産から販売まで全権を委任され、カリスマ性を発揮。「ヒト・カネ・時間は通常の半分」というポリシーのもと、「街乗りでもサーキットでも通用するマルチ・パフォーマンス・スーパーカー」としてGT‐Rを世界トップブランドに育て上げた。
2013年3月31日の日産自動車退社後、セミナー講師、「生きる力プロジェクト」の発起人として活動。本音の自動車評論も人気に。
2014年後半、台湾の自動車メーカーの全車の開発をまとめる上級役員に就任。日本支社を拠点に先行開発をおこなう。
著書に『非常識な本質』(フォレスト出版)、『プロジェクトGT‐R 常識はずれの仕事術』(双葉新書)、共著『16歳の教科書2』(講談社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    物事を考えるとき、仕事に取り組むとき、大切なのは「本質を見る」ことだ。「人の心」を中心に本質を見ていくことで、価値のあるモノ作りができる。
  • 要点
    2
    失敗を恐れてはいけない。失敗から何を学ぶかが最も重要だ。一度自分をゼロにして、フラットな状態で物事を真剣に考え、分析すれば本質が見えてくる。
  • 要点
    3
    自分の欲を捨て、「人に尽くす」「社会に尽くす」ために仕事をすれば、自分の力を存分に発揮することができる。ある意味で「バカになる」ことで、仲間を通じた人の輪も広がり、結果としていい仕事ができる。

要約

世界一のスーパーカー「GT‐R」はこうして生まれた

GT‐Rが世界に与えた衝撃

日産GT‐R。センセーショナルにポルシェのタイムを抜き、世界中のセレブがそのファンとなったスーパーカー。その開発は、実に一年半という短期間で成し遂げられた。期間だけではない。開発チームの人数は通常の半分以下であり、販売価格800万円という低価格を実現した。そこには、「高性能のモノを作ればトップになれる」という技術中心の考えではなく、お客さんに感動を与えたいという想いから生まれた、数々の工夫があった。

マーケットは「作る」もの。ブランドは「続く」もの
axel2001/iStock/Thinkstock

車は「モノ」であるといえばそれまでだが、「モノ」には必ずそれを使う人の「気持ち」がついてくる。世界のトップブランドとなる車を作るときに考えたのは、「人の心」だった。世界を代表する富裕層であるアラブの王族に、特別な仕様のモデルを一般市民に先駆けて売り出したり、世界のメディアを巻き込んでポルシェとのタイム勝負を演出したりするなど、「この車はすごい」「どうしてもほしい」と思わせるような特別感を高める戦略を実行していった。人がほしいと思う心がすなわち、マーケットとなったのである。

それだけではない。一流のブランドとは、「時間が経過しても価値が変わらないもの」。だから中古車でも値下がりしないことを念頭に、メンテナンスの基準を厳しくするなど品質の向上を目指した。そのような努力の結果として、GT-Rは世界のトップブランドへと登りつめたのである。

同じ夢に向かって協業するパートナーたち

低価格を実現したGT‐Rであったが、部品には世界の名だたるメーカーのものが使われ、タイヤはGT‐Rのために3000種類もの試作を経た高性能のものが使われた。そこには、「一緒にいいものを作りたい、夢を実現させたい」という、各メーカーとの強いパートナーシップがあった。世界の一流メーカーといえども、そこにいるのは「人」。相手を知り、気持ちに訴え、心を動かすことができれば、どんな相手とでも協業できるのだ。自分の欲のためではなく相手のことを考え、目標を共有できたとき、「一緒に世界一の車を作ろう」という絆と、いい仕事が生まれるのだ。

フラットな組織で一人ひとりの力を最大限に発揮させる

GT‐Rの開発チームは、通常の所属組織を離れて特別に編成された。組織の中での利害関係から切り離され、意思決定のスピードも速くなるからだ。一人あたりの責任を大きくすることでパフォーマンスもよくなる。コンパクトなチームは全体が見通しやすく、今どこで何が起きているのかわかり、すぐに調整や交渉ができる。

リーダーの役割は、ゴールを明確にし、その道のりを示すこと。ギャップを感じたら軌道修正し、「ここまでやってダメだったら引き返す」というポイントも考えておく。チームのメンバーは定期的に入れ替え、風通しをよくする。時には自分の立ち位置をあえて下げることで、メンバーから率直な意見や現状を聞き出す。チームの士気を上げるため、試乗会を開いてお客さんの声を体感させる。そうしてメンバーの心をしっかり見つめて舵をとった。

現場や工場、部品メーカーとも、打ち合わせに出向き「こういう車を作りたい」という想いを共有する。一緒に車を作るパートナーにも同じ志をもってもらうことで、生産段階においても高い質を保つことができたのだ。

人の心を動かすモノ作りとは

「アメリカ型のモノ作り」から脱却せよ
pierrephoto/iStock/Thinkstock

今「日本のモノ作り」は危機にあると言える。機能は多くても、本当に使う人のことを考えているのか疑問に感じるモノばかりなのだ。

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要約公開日 2015.08.20
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