本書の要点

  • 19世紀半ば、アメリカ南部ジョージア州の大農園の娘として育った、スカーレット・オハラが主人公。黒人奴隷たちにかしずかれ、生気あふれる魅力で男たちを骨抜きにしていたが、南北戦争が勃発。激動の戦中、戦後を、浅ましいまでの現実主義、荒々しいまでの生命力で生き抜いていく。

  • 1936年に発表された『風と共に去りぬ』は、初版から大ベストセラーとなり、映画化作品でもよく知られている。今でも世界中で衰えぬ人気のある、アメリカの大河ロマン。本書は荒このみ氏による新訳。

1 / 3

華やかなりし日々

南部のレディ、スカーレット・オハラ

スカーレット・オハラは、いわゆる美人ではなかった。が、フランス上流階級の血を引く母とアイルランド移民の父から受け継いだ、繊細な目鼻立ちと活力をあわせ持つ、じつに魅力的な顔をしていた。偉大なレディである母と黒人乳母マミーによって厳しくしつけられ、おとなしげな立居振舞をしていても、緑色の目は意志と生命の貪欲さで光っていた。こんなスカーレットに、たいていの男は夢中になった。スカーレットの父親はかつて、政治をめぐる口論に激情して殺人を犯し、アメリカへ逃亡してきた。持ち前のポーカーの腕を活かして賭けで土地を手に入れ、黒人奴隷を買い集め、南部ジョージア州に綿花の大農園を一代で築いたのだった。その農園はタラと呼ばれた。

ウィルクス家のパーティー

Jupiterimages/PHOTOS.com>>/Thinkstock

大きな館で、ほとんどのことは思い通りに過ごしてきたスカーレットだったが、あるとき不愉快な情報を聞きつけた。自分のことを愛していると思っていた、金髪の優雅なアシュリー・ウィルクスが、パーティーで別の女との婚約を発表するというのだ! やせっぽちで地味なメラニー・ハミルトンとの婚約を! 自分が愛していることを伝えられさえすれば、アシュリーはきっと自分と結婚しようと思うはず。スカーレットはウィルクス家のパーティーへ、とびきり自分が美しく見える、緑色のひだ飾りがついたドレスを着て乗り込んだ。若い客人たちと挨拶をかわすなか、スカーレットは自分を見つめる不遜な視線に気づく。浅黒くがっちりして、抜け目ない大胆な雰囲気をまとった男性は、レット・バトラーといい、名家の出身だが女性とのトラブルで勘当されている評判の悪い人物だという。スカーレットは、女性だけの集まりを抜け出し、体よくアシュリーを書斎へ誘いこんだ。いぶかしむアシュリーに、スカーレットは、レディの教えをすっかり忘れて、「愛している」と何度も言いつのった。しかしアシュリーは、スカーレットのことは好きだが、自分と同じく本や音楽を愛するメラニーを結婚相手として決めたのだと告げる。それを聞いたスカーレットは、怒りにまかせてアシュリーを平手打ちし、彼が出ていった後に花入れを暖炉に投げつけた。すると、なんとソファの陰から「昼寝をしていた」というレット・バトラーがぬっと現れた。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3242/4196文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2016.07.18
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

国宝消滅
国宝消滅
デービッド・アトキンソン
日本人の知らないHONDA
日本人の知らないHONDA
依田卓巳(訳)ジェフェリー・ロスフィーダー
バリアバリュー
バリアバリュー
垣内俊哉
デミアン
デミアン
ヘルマン・ヘッセ実吉捷郎(訳)
宋名臣言行録
宋名臣言行録
朱熹(編)梅原郁(編訳)
民主主義を直感するために
民主主義を直感するために
國分功一郎
男性上司の「女性は気がきくね」はなぜ地雷なのか?
男性上司の「女性は気がきくね」はなぜ地雷なのか?
齋藤直美
ENIAC
ENIAC
ThomasHaighMarkPriestleyCrispinRope土居範久(監修)羽田昭裕(訳)川辺治之(訳)

同じカテゴリーの要約

大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる
大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる
井堀利宏
忘我思考
忘我思考
伊藤東凌
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
榎本博明
すばらしいクラシック音楽
すばらしいクラシック音楽
車田和寿
すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる
すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる
荒俣宏
教養主義の没落
教養主義の没落
竹内洋
現代語訳 福翁自伝
現代語訳 福翁自伝
福澤諭吉齋藤孝(編訳)
町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
飯田一史
君たちはどう生きるか
君たちはどう生きるか
吉野源三郎
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
三宅香帆