なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか

サウンド・マーケティング戦略
未読
なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか
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サウンド・マーケティング戦略
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なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2016年02月11日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

色々な音が身のまわりにあふれているために、音には大きな力があることに気づいていない人も多い。しかし、音のスペシャリストである著者に言わせれば、「ちょうどいいタイミングで聞こえたいい音は1000枚の絵に値する」という。

本書の目的は、一般の人々が音の訴求力をうまく利用して、自分や他人の人生をより豊かにする手法を伝えることにある。そして、満足のいく顧客体験を提供するには、音と静寂をいかにうまく組み合わせるかがポイントとなってくる。ディズニーのテーマパークは、音と静寂のバランスが絶妙に保たれている好例だ。そこで流れる音を聞いた瞬間、ゲストは期待に胸を膨らませる。音だけでなく、ゲストが目にする色彩やキャストのコスチュームといったものすべてが相乗効果を生み出しているのだ。こうした多様な要素がうまくかみ合うと、音は音単体として顧客の耳に残るのではなく、感動的な体験を構成する要素の1つとして作用するようになり、真に満足度の高い顧客体験を提供できる。

しかし残念なことに、すべての企業がディズニーのテーマパークのように音を駆使して素晴らしい顧客体験を生み出しているわけではない。著者は、人々が音の訴求力を味方につけることで、人生の目標を達成しやすくなると説き、正しいサウンド・マーケティングが企業に多大なメリットを与える点についても、実例をいくつも挙げながらわかりやすく解説してくれる。音が持つインパクトの大きさを知るのに最適な一冊であろう。

ライター画像
和田有紀子

著者

ジョエル・ベッカーマン
作曲家、テレビプロデューサー。音楽・広告業界で数々の受賞歴を誇る。米誌ディテールズが「現代音楽の巨匠フィリップ・グラスと敏腕広告クリエーターのドン・ドレイパーに匹敵する才能の持ち主」と絶賛。サウンド・マーケティング戦略を専門とするマンメイド・ミュージック社の創立者。米誌ファースト・カンパニーが選ぶ「世界で最もクリエーティブなビジネスパーソントップ100」の1人。

タイラー・グレイ
世界最大のPRコンサルティング会社エデルマン、ニューヨーク支店編集ディレクター。米誌ファースト・カンパニーの元編集ディレクター。著書にThe Hit Charadeがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    その場にふさわしい音や音楽は、私たちに多くの情報を瞬時に伝え、感情を動かして記憶を呼び起こし、新たな体験を生み出す。この瞬間を著者は「ブームモーメント」と呼んでいる。
  • 要点
    2
    音には消費者とブランドをつなげる強力な力があり、ブームモーメントを生み出すことで、ブランドへの良いイメージを醸成できる。
  • 要点
    3
    身のまわりの音や音楽は、個人的な空間を生み出す重要な要素だ。
  • 要点
    4
    音は、人の生産性や創造力を大いに左右する。また、声の調子や話し方は、言葉の中身以上に大きな影響を聞き手に与える。

要約

【必読ポイント!】 「音」で感情を揺さぶる

看板料理ファヒータの秘密

音の訴求力をうまく利用している一例として、世界に1500店舗を展開するレストランチェーン、チリーズを紹介したい。チリーズは、「ファヒータ」という料理で有名である。日本人にはあまり馴染みがないかもしれないが、豪快に焼かれた牛のハラミ肉がアツアツの鉄板の上に載ったまま提供されるこの料理は、誕生以来、アメリカでは絶大な人気を誇っている。看板料理ファヒータの秘密に迫っていく。

ファヒータが生まれたのは1969年。肉屋のファン・アントニオ・サニー・ファルコンという人物が考案した。彼は調味料と焼き方を工夫することで、固い牛のハラミを柔らかく美味しく焼き上げることに成功した。そして、これを小麦粉のトルティーヤに乗せ、メキシコの独立記念日を祝う週末行事にて初めて販売した。

このファヒータと名付けられたシンプルな料理はどこへ行っても大人気で、地元紙は彼をファヒータ・キングと呼ぶほどだった。しかし、しばらくすると、サニーのレシピを真似てファヒータを出すレストランが現れ始めた。

音こそ重要なレシピ
Elenathewise/iStock/Thinkstock

数あるレストランの中でも、ファヒータのパイオニアとして名高いのが、テキサス州オースティンにあるハイアット・リージェンシーにあるレストランだ。1982年、このホテルの総料理長だったワイドマンがレストラン「ラ・ビスタ」で初めてファヒータを高級料理として提供し、大好評を得た。ところが、ファヒータは他のハイアットのレストランにはなかなか広がらなかった。というのもワイドマンは、ファヒータの人気の秘密は彼の特製スパイスにこそあると信じており、このスパイスを大量につくることができなかったからだ。

一方、同時期にチリーズの23店舗でオリジナルのファヒータが販売され、たちまち大人気となっていた。チリーズのファヒータと聞いて思い浮かぶのは独自のスパイスでもなければ、高級な柔らかい牛肉でもない。チリーズがファヒータを一番人気のメニューに育てることができたのは、とにかく効果音の使い方がうまかったからである。最初のテレビCMには、ジュージューという音が使われた。美味しそうな音で客の関心を引き、料理を五感で楽しませる作戦で客の心をつかんだ。このように、適切な効果音を使用することで、チリーズの客はファヒータという料理だけでなく、チリーズというブランドが提供する顧客体験そのものを味わえているのである。

ブームモーメントが生まれる瞬間

チリーズの例のように、その場にふさわしい音がちょうどいいタイミングで聞こえると、ストーリーのすべてが聴き手に伝わる。この瞬間を、著者は「ブームモーメント」と呼ぶ。ブームモーメントは、計り知れないほど大きな成果を企業にもたらす。

その理由は、人が本来、音と深くつながっているからである。もともと、人は音に驚くという性質を持つ。人間の脳は常に聞き耳を立てており、危険を回避するために、普段と違う音に一早く反応するようになっている。何か異常な音を検知したときには、まばたきの30倍の速さでシナプスから細胞間に情報が伝達される。その結果、脈拍や血圧が急上昇し、場合によっては認知や自意識に関する脳の部位への血流が活発になるという。

また、五感の中でもっとも素早いのは実は聴覚である。視覚の情報処理能力が1秒間に25コマ程度であるのに対し、聴覚は1秒間に200コマの情報を処理できると言われている。ファヒータのジュージューという音にまず私たちの聴覚が反応するのはこのためだ。その後、作りたてのファヒータから立ち上る湯気と炒めた玉ねぎの香ばしい匂いが私たちの食欲をかきたてる。これこそがブームモーメントである。同時に、店の雰囲気やチリーズへの期待感といった情報が客の記憶に深く刻み込まれるのだ。

消費者とブランドをつなげる音
DragonImages/iStock/Thinkstock

チリーズ以外にも、音を効果的に使うことで消費者の行動を変えることに成功した例はいくつもある。その1つがアイスクリーム移動販売車だ。

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要約公開日 2016.09.28
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