ネット炎上の研究

誰があおり、どう対処するのか
未読
ネット炎上の研究
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誰があおり、どう対処するのか
未読
ネット炎上の研究
出版社
出版日
2016年04月25日
評点
総合
4.7
明瞭性
4.5
革新性
5.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

ブログやTwitterなど様々なSNSが普及するのに伴って、ネットにおける「炎上」も広く知られるようになった。著名人のスキャンダルや不適切発言、企業のコンプライアンス、一般人の行動など、炎上の原因は多岐に渡る。ネットの炎上事件がテレビや新聞でも取り上げられ、さらに世間に周知されるようになり、事態が深刻化することも日常茶飯事だ。もし自分や自分の属する組織が炎上の対象になったら、と想像してぞっとしたことがある人も多いのではないだろうか。しかしこれまで、匿名性の高いネットの世界において、どんな人が批判的なコメントを書き込んでいるのかといった実態を、くわしく知る術はなかった。

本書は、数ある炎上対策本とは一線を画す、実証研究に基づいた「炎上研究書」である。驚くべきことに、著者たちの分析によれば、攻撃的な書き込みをする現役の炎上参加者は、ネットユーザ全体の約0.5%程度しかいないという。このことを踏まえて本書が提案する炎上防止策は、個人の情報発信力の濫用を抑制しつつ、SNSとしての情報発信力は維持する「サロン型SNS」というモデルだ。これは、今後のネット社会やSNSの発展例として、非常に興味深い発想といえるだろう。

炎上の実態を知り、対策をしたいのであれば、まず本書を読んでいただきたい。また、新たなネットビジネスを模索している人にとっても、役立つアイデアが得られる一冊となっている。

ライター画像
櫻井理沙

著者

田中 辰雄(たなか たつお)
1957年、東京都に生まれる。東京大学大学院経済学研究科単位取得退学。国際大学グローバルコミュニケーションセンター研究員、コロンビア大学客員研究員を経て、現在、慶應義塾大学経済学部准教授。専攻は計量経済学。
主要著作・論文『ゲーム産業の経済分析』(共編著・東洋経済新報社、2003年)、『モジュール化の終焉』(NTT出版、2007年)、『著作権保護期間』(共編著、勁草書房、2008年)、『ソーシャルゲームのビジネスモデル:フリーミアムの経済分析』(共著、勁草書房、2015年)ほか。

山口 真一(やまぐち しんいち)
1986年生まれ。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教。2010年慶應義塾大学経済学部卒。2015年同大学経済学研究科で博士号(経済学)取得。同年より現職。専門は計量経済学。研究分野は、コンテンツ産業、フリービジネス、ソーシャルメディア、プラットフォーム戦略等。
主要著作・論文『ソーシャルゲームのビジネスモデル:フリーミアムの経済分析』(共著、勁草書房、2015年)、「ネットワーク外部性の時間経過による効果減少と普及戦略――ゲーム産業の実証分析――」(『組織化学』49(3)、白桃書房、2016年)等がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    炎上事件に伴って直接何かを書き込む現役の参加者はインターネットユーザの0.5%程度である。
  • 要点
    2
    炎上によって攻撃された側は、最終的にブログ閉鎖やアカウント削除をして、議論の場から完全撤退するしかない。
  • 要点
    3
    炎上を恐れて社会全体の情報発信が萎縮してしまうことこそが、炎上の社会的コストである。
  • 要点
    4
    SNSとしての情報発信力を保ったまま、個人の情報発信力の濫用を抑える方法の1つとして、受信と発信の分離がある。その具体例として「サロン型SNS」を提唱する。

要約

ソーシャルメディアと炎上

そもそも炎上とはなんなのか

昨今におけるインターネットの急速な普及と多様なネットサービスの登場は、社会に大きな変革をもたらした。今やソーシャルメディアを利用すれば、不特定多数の相手に対して、個人が情報を発信することも容易である。コミュニケーションツールの利用率は、電子メールが約70%、ソーシャルメディアが約50%、無料通話アプリやメッセージアプリが約30%と伸びてきている。

しかしながら、コミュニケーションが活発になる一方で、1つの対象に誹謗中傷が殺到する、いわゆる「ネット炎上」が多発するようになってきている。本書では、炎上の定義を「ある人物や企業が発信した内容や行った行為について、ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象」とする。

発生件数推移と傾向
SIphotography/iStock/Thinkstock

2006年から2014年の炎上の発生件数をみてみると、2010年までは100件以下であったが、2011年には333件と急速に増えている。2013年の449件をピークとして、2014年には415件と減少しているが、これは炎上が社会的に注目されるようになり、一般人、著名人、法人関係がそれぞれ対策をとったり、より気をつけたりといった対応をとるようになったためではないかと考えられる。ただし、減少しているとはいえ下げ幅はわずかであり、今後増加に転じる可能性は十分にある。

また、炎上対象者を一般人、著名人、法人関係別の割合で見ると、法人関係が最も大きな割合であり、概ね50%程度を占めている。

さらに、Twitter、Facebook、その他(mixi、YouTube、価格.com、2ちゃんねる、その他のミニブログ)の割合では、2008年以降Twitterの割合が急速に伸び続け、2011年からは40%強で横ばいとなっている。FacebookよりもTwitterのほうが拡散力は高く、よりオープンなため炎上しやすい。したがって、炎上対策を考える際はTwitterを最も警戒すべきといえる。

炎上の分類と社会的コスト

炎上を分類する

本書では、(1)誰が、(2)何をしたか、(3)どういった対応をとったか、という3つの視点から炎上事件を分類する。

(1)については、「A:著名人」、「B:法人等」、「C:一般人」の3つに分ける。

また、(2)については、「Ⅰ:反社会的行為や規則・規範に反した行為(の告白・予告)」、「Ⅱ:何かを批判する、あるいは暴言を吐く、(政治・宗教・ネット等に対して)デリカシーのない発言をする。特定の層を不快にさせるような発言・行為をする」、「Ⅲ:自作自演、ステルスマーケティング、捏造の露呈」、「Ⅳ:ファンを刺激(恋愛スキャンダル・特権の利用)」、「Ⅴ:他者と誤解される」の5つに分けて考えた。

くわえて、(3)については「ア:挑発、反論、主張をとおす」、「イ:コメント削除」、「ウ:無視」、「エ:謝罪、発言自体の削除、発言撤回の発表」の4つに分けている。

炎上のパターン
Monkey Business Images/MonkBusiness/Thinkstock

(2)に注目すると、Ⅰ〜Ⅴの事例に共通しているのは、インターネットユーザの間にある規範に反した行為を行っているということである。批判、ステルスマーケティング、ファンへの刺激など、法律違反といえないような事象も、この規範に反していれば炎上対象となってしまう。

インターネットユーザへの批判、保守党への批判は特に炎上しやすい。また、食べ物・宗教・社会保障・格差・災害(不謹慎ネタ)・政治(特に外交)・戦争(安全保障)なども炎上しやすい話題といえる。

炎上の社会的コスト

炎上で行われるのは議論や生産的な対話ではなく、一方的な攻撃である。攻撃された側に有効な対処方法はなく、ただ傷つき、最終的にブログ閉鎖やアカウント削除して議論の場から完全撤退するしかない。

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要約公開日 2016.10.24
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