プロ野球の経済学の表紙

プロ野球の経済学

労働経済学の視点で捉えた選手、球団経営、リーグ運営


本書の要点

  • プロ野球選手は球団に雇われている被雇用者ではなく、球団と年ごとに契約を結ぶ自営業者である。よって働き方や報酬制度が一般の労働者とは全く異なる。また年金に加入していない選手も数多く存在する。

  • ドラフト制度は選手の職業選択の自由に多少は反するものの、経済学の見地からは容認できる制度である。機会平等性と経済効率性はトレードオフの関係にあり、ドラフト制度により選手の機会平等性が小さくなる一方で、プロ野球界の経済効率性は高まり収益が上がる。そしてプロ野球界の繁栄は選手の年俸にも反映されるのだ。

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プロ野球の経営側と選手側を評価する

経営側の評価

block37/iStock/Thinkstock

現在の日本のプロ野球は、セントラル・リーグとパシフィック・リーグそれぞれ6球団からなり、約7か月のリーグ期間に試合を行う。この全12球団のうち11球団が登録法人名として企業名を冠している。唯一の例外の読売巨人軍も、「読売新聞巨人軍」ではないにせよ、「読売」が新聞名のため実質的にはすべての球団が企業名を用いていると考えてよいだろう。また通称に限って言えば、巨人と広島を除く10球団で企業名が用いられている。千葉ロッテマリーンズは「ロッテ」、福岡ソフトバンクホークスは「ソフトバンク」といった具合である。このことは球団がどうしても親会社の意向に左右される面があるということを意味している。親会社はそもそも広告・宣伝の材料として球団を保有しているのであるし、球団経営が苦しくなったときには親会社の財政支援なくしては存続できない。そのこともあって、球団における管理部門の人事は親会社がかなり影響力を有していると考えられるのである。ところで日本のプロフェッショナル野球組織は3つの機関を持つ。「オーナー会議」「実行委員会」「コミッショナー」である。オーナー会議は各球団のオーナーが出席するもので大きな案件が裁かれる。ただし通常オーナーは多忙であるため、小さな案件は各球団から送られてきた実行委員による実行委員会にて決議される。オーナー会議にて選ばれるコミッショナーは組織を代表する人であり、すべての球団・個人はコミッショナーが下す裁定に従わねばならない。コミッショナーは公平性を求められるため、裁判官や検事、警察上がりの人などが多い。しかし日本の場合、規則上はコミッショナーが最高責任者であるにもかかわらず、実質的な決定はオーナー会議でされてきており、コミッショナーが飾り物になっているイメージが強い。アメリカにも同じコミッショナー制度があるが、アメリカの場合コミッショナーはかなりの権限を保有して、制度改革にイニシアティブを発揮している。

選手側の評価

Donald Miralle/DigitalVision/Thinkstock

選手と球団の契約については、日本のプロ野球制度を規定している野球協約に明記されている。選手と球団との間で交わされる書類は統一契約書と呼ばれ、種々の労働条件が記されている。日本のプロ野球の場合は単年契約が一般的であり、選手は毎年球団と契約を更新する必要がある。選手と球団の関係を雇用者と被雇用者と見る向きもあるが、労働統計上選手は自営業者として扱われている。その理由は3つある。1つは、一般企業であれば労働組合の代表が雇用者と賃金交渉を行うのに対し、選手は個々に球団と年俸を交渉するからである。2つ目は、サラリーマンの場合、雇用契約は無期限であることが暗黙のうちに了解されているが、選手の場合原則的に契約は1年ごとであるためだ。そして3つ目は年金の観点だ。以前はプロ野球選手にも企業年金制度が適用されていたが今では加入しておらず、かつ厚生年金にも加盟していない。また、従業員5人未満の企業や個人商店などの自営業者は国民年金に加入するのが普通だが、プロ野球の場合加入していない選手が多い。

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要約公開日 2016.10.22
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