アグリ・ベンチャー

新たな農業をプロデュースする
未読
アグリ・ベンチャー
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新たな農業をプロデュースする
未読
アグリ・ベンチャー
出版社
中央経済社
出版日
2013年11月27日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

ベンチャーといえば、ITベンチャーやバイオベンチャーのイメージが強く、アグリというキーワードとの組み合わせは、まだほとんど浸透していないであろう。「アグリ・ベンチャー」は、農業とベンチャーを結び付ける理論と実践を取りまとめた、初の書籍である。

現在、日本の農業は大きな岐路に立たされている。経済発展に伴い、一次産業から三次産業へと、就業人口と生産額の割合が推移することは、ペティ・クラークの法則として一般的に知られるところではある。しかし、現在の日本の場合、担い手の高齢化に始まり、国内マーケットの縮小、近年では環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への交渉参加など、その展望は他の先進国と比較しても暗く、産業として維持するために大きな変革が求められている。

本書では、経済学、経営論、アグリビジネス実践者といったスペシャリストが著者に並び、理論編と実践編の2部に分け、国内農業の特徴から課題、ベンチャー関連知識、アグリビジネス分野での新たな取り組みを紹介されている。本書のアグリ・ベンチャーに焦点を絞った記載は、これからアグリ分野でビジネスを始めたいと考える人や、農業分野で既にビジネスを行っている人にとって、経営の教科書として参考になろう。

著者

境 新一 (成城大学経済学部/大学院経済学研究科 教授)
1960年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、筑波大学大学院ならびに横浜国立大学大学院修了、博士(学術)。専門は経営学(経営管理論、芸術経営論ほか)、法学(会社法ほか)。株式会社日本長期信用銀行・調査役等(1984~1999)、東京家政学院大学/大学院助教授(1999~2007)を経て現職。生活協同組合パルシステム千葉理事(有職者、2006~2009)、厚木農商工連携推進会議委員長ほか公的職務、桐朋学園大学、筑波大学大学院、法政大学、中央大学大学院、フェリス女学院大学の各兼任講師(歴任を含む)。日本公益学会・理事(歴任)、国際戦略経営研究学会・理事。主著に『現代企業論』(2000)、『企業紐帯と業績の研究』(2003)、『法と経営学序説』(2005、以上、文眞堂)、『アート・プロデュースの現場』(論創社、2010)ほか。

齋藤 保男 (学校法人東京工芸大学総務・企画課長)

加藤 寛昭 (食と農研究所代表(中小企業診断士)・6次産業化ボランタリープランナー)

臼井 真美 (株式会社クリアリンクファーム代表取締役。ハレニワ農園代表)

丸 幸弘 (株式会社リバネス 代表取締役)

本書の要点

  • 要点
    1
    現在の農業は、日本の気候や地形といった制約を受けていることや、経営体が分散していることにより、他産業と比べて利益率が低く、成長性が低い。そのため、他産業と同様に事業として農業を位置づけ、発展させるためのイノベーションが求められている。
  • 要点
    2
    経営資源が限られ、かつ地域や産品の制約も受けやすいアグリ・ベンチャーにおいては、必然的に他者との「連携」を推進することが求められる。
  • 要点
    3
    農業分野のイノベーションとして、フランチャイズビジネスの概念の導入、新たなマーケティングの活用等、ビジネスとして新しく捉え直すケースと、先進技術を農業に取り入れるケースの両面が存在している。

要約

アグリ・ベンチャーの重要性

日本農業の現状打破の鍵はアグリ・ベンチャーのプロデュース力
Karin Dreyer/Blend Images/Thinkstock

アグリ・ベンチャーの理論編として、本書では、まずアグリ・ベンチャーの重要性について記載されている。

日本の農業経営は、他産業とは大きく異なる特徴がある。まず、生き物と自然を相手としているため、気候によって生産物にばらつきがあり、計画生産や品質管理が難しい。そのうえ、土地の大きさに制約を受けるだけでなく、土地が分散しており経営母体の多くが家族単位と小規模だ。結果として移動や輸送でロスが出やすく、土地利用効率が低いことから、資本の回転や投資回収が遅い。

その一方で、農業は他産業を下支えする最も基礎的な産業と言え、生命を維持するために必要不可欠な産業である。日本の農業が衰退し、かつ担い手の高齢化、国内マーケットの縮小、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への交渉参加など、取り巻く状況が悪化する中、新たなイノベーションを起こす必要がある。

境氏は、日本の農業が生き残るためには、「農産業」として確立することが必要不可欠であり、そのためにはステークホルダーの満足度を高め、適正利潤を確保することが必要であるという。そのためには地域に潜在する資源やニーズを掘り起こし、新規性の認められる製品やサービスを展開する先駆的な農業が今後望まれるとしている。

本書では、「農業を中核とした総合産業の創造」をアグリ・ベンチャーと命名している。それには、2つのビジネス分野を挙げている。1つは、農産物の加工や貯蔵・流通を行う食品関連ビジネスである。現在は、IT技術も普及し、流通チャネルをかえるだけでも、変革を起こすことができる。オイシックスの取り組み等は、その好例だろう。もう1つは育種や新品種の開発、飼料や農機の開発など、農業用資材に関連するビジネスである。最新の商工業の技術と視点を加えていくことが、農から農産業への変換を生むと期待される。

また、アグリ・ベンチャーが果たすべき社会的役割についても言及している。食の安全性と安定供給を確保することに加え、食育も意識する必要があろう。また、地域に根ざした活動が必須であることから、農村の景観維持や水源の涵養などの多面的機能を維持・活用することや、地域文化の維持・地場産業の振興への寄与・人材育成にも努めるべきだとしている。地域性とは切っても切り離せない農業において、社会的意義も十分に踏まえた上で、ビジネスをプロデュースすることが求められるのである。

また、理論編においては、足早ではあるが、ベンチャー企業にもとめられる人材像や経営戦略などについても概観しているので、これからベンチャーを立ち上げたいという読者は特に参考となろう。

アグリ・ベンチャーのためのフレームワーク

アグリ・ベンチャーには、地域内外の組織との連携が必須
Jani Bryson/iStock/Thinkstock

アグリ・ベンチャーにおいては、地域性や主軸となる生産物の制約を大きく受けるため、戦略的に展開するには、地域内での連携や他社との連携が不可欠となる。

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要約公開日 2014.01.27
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