日本の人事を科学する

因果推論に基づくデータ活用
未読
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ジャンル
出版社
日本経済新聞出版社

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出版日
2017年06月14日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

女性の管理職育成が遅々として進まないのはなぜか。採用時の情報はその後のパフォーマンスを予測できているのか。優秀な社員の定着率を上げるには何が必要か。こうした課題に頭を悩ませている経営者、人事部は少なくないだろう。働き方改革や女性活躍推進、メンタルチェック導入などにより、人事部は数値目標を立て、組織変更や人事施策の効果を検証、改善することが、これまで以上に求められるようになった。

こうした戦略的人事設計に伴走してくれるのが本書である。ビジネスでは客観的なデータをもとにPDCAサイクルを回すのが常である。しかし、こと人事領域になると、評価と改善活動が欠けており、実務家のための体系的な方法論も確立されていないと著者はいう。そこで、本書は科学的なフレームワークで人事データを分析し、その結果を適切に解釈するための方法を、データ分析の豊富な実例とともに解説する。読みやすさを担保しながらも、統計学、計量経済学に明るい読者に向けた専門的な解説が各章に盛り込まれているという充実ぶりだ。

人事データは施策の効果検証を下支えするだけではない。それらを定点観測することで、予想外の新たな気づき、セレンディピティが誘発されるという。データは組織変革における「宝の山」であり、それを駆使するための統計的センスを磨くことの重要性は計り知れない。

人事部の役割自体が問い直されている今、率先して会社の課題解決を図っていく戦略人事へと変貌を遂げたいのなら、本書を読まない理由はない。

ライター画像
松尾美里

著者

大湾 秀雄(おおわん ひでお)
東京大学社会科学研究所教授。1964年生まれ。東京大学理学部卒業。(株)野村総合研究所勤務を経て、留学。コロンビア大学経済学修士、スタンフォード大学経営大学院博士(Ph.D. in Business)。ワシントン大学オーリン経営大学院助教授、青山学院大学国際マネジメント研究科教授を経て、2010年から現職。(独)経済産業研究所ファカルティフェロー兼任。専門は、人事経済学、組織経済学、および労働経済学。実務家向けに、経営課題解決のために自社人事データをどのように活用したら良いかを指導する、人事情報活用研究会を主宰する。
本書は、(独)経済産業研究所におけるプロジェクトの研究成果、および株式会社ワークスアプリケーションズと共同開催した人事情報活用研究会における分析活動の成果を、実務家、学習者向けに、実践的にまとめたものです。

本書の要点

  • 要点
    1
    これまで人事データがPDCAサイクルの評価や改善に活かされることは少なかった。今後は、施策の導入や制度変更の影響を評価する際に、蓄積された人事データを活用すること、統計センスを身につけることが、いっそう重要となる。
  • 要点
    2
    データを視覚化することで、より説得力の高い改善提案を経営陣に投げかけられるようになる。
  • 要点
    3
    一元管理されたデータ、統計スキルの蓄積、業績指標の考案、気づきを得るための問題意識などを通じて、エビデンスに基づく施策立案や制度設計を行うことが人事に求められている。

要約

【必読ポイント!】 なぜ人事データの活用が必要か

PDCAサイクルのない世界

企業ではさまざまな情報に基づいて意思決定がなされる。採用では適性検査の結果や面接で得られる情報が、入社後には人事考課、従業員満足度調査などと、その種類は多岐にわたる。

しかし、使用した情報がどれくらい有用だったのか、最終的な決断が適切だったのかを検証している企業は限られている。しかも、人事データがPDCAサイクルの評価やそれに基づく改善に活かされることはめったにない。

例えば、ある企業では、採用時の面接やグループディスカッションのアセスメントの評点と、入社数年後の活躍ぶりを示す評価との間には、統計的に有意な相関が何も見られないことが判明したという。本来なら企業は、採用時の情報と入社後のパフォーマンスを定期的に検証することで、必要な人材をスクリーニングする能力を高められる。

データを人事施策の評価に活用していることで有名なのはグーグルだ。例えば、中間管理職が部下の離職や生産性に与える影響を測定し、良いと評価される管理職の行動特性をまとめ上げ、管理職の育成に活かしているという。また、採用プロセスの見直しや新たな人事施策の導入においてもPDCAサイクルを回すことが当然となっている。

より重要性を増す、人事データの活用
littlehenrabi/iStock/Thinkstock

では人事領域でデータ活用が進まないのはなぜなのか。それは、人事部に配属される人の多くが文系で、統計リテラシーが高くないからである。また、新卒採用一辺倒、社員の一元管理という日本企業の特殊事情により、経験や勘に基づく運営で成り立ってきたことも、理由の1つといえる。

しかし、グローバル化や働き方改革といった変化のうねりの中で、既存の人材開発はもはや機能しない。今後は、利用可能な人事データが多様化し、情報収集・集約がより簡単になるに伴い、施策導入や制度変更の際の影響を評価するというように、蓄積されたデータを活用することが、いっそう重要になっていく。

著者が推奨するのは、意思決定に用いたデータをすべてデジタル情報として保存し、一元管理を図ること、統計リテラシーの高い人材を人事部に配置すること、そして統計ソフトを購入することなどである。ただし、問題意識がなければ、人事データは活用できない。問題点に気づけるかどうかがデータ活用の成否を分けるといってもよい。

統計的センスを身につける

視覚的に捉えることの重要性
marekuliasz/iStock/Thinkstock

人事部に配属された社員は、情報収集力に長けているケースが多く、自社の問題の所在に早くから気づきやすい傾向にある。現在は、ICTの発達によって、組織内に散在していた断片的な情報を集約しやすくなった。そこでデータを視覚的に表現し、検証することによって、より説得力の高い改善提案を経営陣に投げかけられるようになる。

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要約公開日 2017.09.21
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