企業ではさまざまな情報に基づいて意思決定がなされる。採用では適性検査の結果や面接で得られる情報が、入社後には人事考課、従業員満足度調査などと、その種類は多岐にわたる。
しかし、使用した情報がどれくらい有用だったのか、最終的な決断が適切だったのかを検証している企業は限られている。しかも、人事データがPDCAサイクルの評価やそれに基づく改善に活かされることはめったにない。
例えば、ある企業では、採用時の面接やグループディスカッションのアセスメントの評点と、入社数年後の活躍ぶりを示す評価との間には、統計的に有意な相関が何も見られないことが判明したという。本来なら企業は、採用時の情報と入社後のパフォーマンスを定期的に検証することで、必要な人材をスクリーニングする能力を高められる。
データを人事施策の評価に活用していることで有名なのはグーグルだ。例えば、中間管理職が部下の離職や生産性に与える影響を測定し、良いと評価される管理職の行動特性をまとめ上げ、管理職の育成に活かしているという。また、採用プロセスの見直しや新たな人事施策の導入においてもPDCAサイクルを回すことが当然となっている。
では人事領域でデータ活用が進まないのはなぜなのか。それは、人事部に配属される人の多くが文系で、統計リテラシーが高くないからである。また、新卒採用一辺倒、社員の一元管理という日本企業の特殊事情により、経験や勘に基づく運営で成り立ってきたことも、理由の1つといえる。
しかし、グローバル化や働き方改革といった変化のうねりの中で、既存の人材開発はもはや機能しない。今後は、利用可能な人事データが多様化し、情報収集・集約がより簡単になるに伴い、施策導入や制度変更の際の影響を評価するというように、蓄積されたデータを活用することが、いっそう重要になっていく。
著者が推奨するのは、意思決定に用いたデータをすべてデジタル情報として保存し、一元管理を図ること、統計リテラシーの高い人材を人事部に配置すること、そして統計ソフトを購入することなどである。ただし、問題意識がなければ、人事データは活用できない。問題点に気づけるかどうかがデータ活用の成否を分けるといってもよい。
人事部に配属された社員は、情報収集力に長けているケースが多く、自社の問題の所在に早くから気づきやすい傾向にある。現在は、ICTの発達によって、組織内に散在していた断片的な情報を集約しやすくなった。そこでデータを視覚的に表現し、検証することによって、より説得力の高い改善提案を経営陣に投げかけられるようになる。
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