バッド・フェミニスト

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バッド・フェミニスト
出版社
出版日
2017年02月11日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「フェミニズム」と聞いても、イメージがわきにくいだろうか。もしくは、怒りっぽい女性を想像して敬遠してしまうだろうか。どちらの方にも、本書『バッド・フェミニスト』をぜひ開いてみていただきたい。

著者は、1974年生まれの、ㇵイチ系黒人女性だ。現代アメリカに生きるアラフォー女性であり、作家、大学教員として活躍している。新聞や雑誌への寄稿も多い。女性を不利な立場に置く現実に敏感に反応して抗議するが、女性蔑視に満ちたラップを爆音で聞くし、男嫌いではまったくない(むしろ、「男が大好き」)。だからこそ、「よいフェミニスト」でない「バッド・フェミニスト」を名乗る。

本書は、さまざまな媒体に発表された彼女のエッセイを集めたものである。アメリカのエンタテインメントや、社会の中に隠れた、性や人種の問題をすくいとり、シニカルなユーモアたっぷりに、知的に語る。本書は刊行後アメリカで大きな話題を呼び、現時点のAmazon.comにはおよそ400件ものレビューが投稿されている。彼女の、意志的でありながら、現代的で柔軟なスタンスが、それだけ共感を呼んだということだろう。

男女間の摩擦、性差の問題は、男女ともに日常では伝統的な価値観や感覚で語ってしまうことも多いが、1人の大人として自由や平等を大切なことと考えているのならば、紋切型を超えて自分なりの意見を持ちたいところではないだろうか。本書のものの見方に触れることは、あなたの人間性を一段深めてくれるはずだ。

ライター画像
熊倉沙希子

著者

ロクサーヌ・ゲイ
1974年ネブラスカ州生まれ。2011年に短編小説集『アイチ』を上梓。2014年、初のエッセイ集『バッド・フェミニスト』(本書)と長編小説『アンテイムド・ステイト』で人気作家に。「ニューヨーク・タイムズ」に寄稿。マーベル社のコミック『ブラックパンサー:ワールド・オブ・ワカンダ』の原作者でもある。2017年には体重と自己イメージの問題をテーマにつづったエッセイ集『ハンガー』、短編小説集『ディフィカルト・ウィメン』を刊行。

本書の要点

  • 要点
    1
    フィクションの世界に登場する女性たちについては、男性たちと違って、好感度がクローズアップされてしまう。
  • 要点
    2
    巷にあふれるポップ・ソングにも、女性蔑視や、性暴力が隠れていることがある。
  • 要点
    3
    フェミニズムという運動にはあまりに多くのことが背負わされ、フェミニストを名乗る人にも多くのことを期待されてしまう。著者は、フェミニストの主流から外れた関心や意見も持っているし、フェミニストの看板は背負えないが、それでもなおフェミニストでいたいと思う。だからこそ「バッド・フェミニスト」を名乗る。

要約

ジェンダーとセクシュアリティ

ミス・アメリカ
eskaylim/iStock/Thinkstock

ヴァネッサ・ウィリアムスは、1984年に黒人女性として初めてミス・アメリカになった人物だ。彼女は、著者をはじめとする黒人少女たちに、自分たちだって美しくなれると夢を与えた。

一方で、典型的なアメリカン・ガールのイメージは、明るい南カリフォルニアのブロンドの少女だった。それが描かれていたのが、著者が小さいときに読んだ、『スイート・ヴァレー・ハイ』シリーズだった。主人公は、対照的な性格をした双子で、ブロンドでやせていて、みんなの人気者だ。

著者の実際の学校生活は、物語の逆だった。著者は教室で唯一の黒人で、見た目はさえなかった。ハイチ訛りの英語もクラスメイトのからかいの種になっていて、校内の階層の最下層近くにいた。クラスの人気者たちのグループと仲良くなりたくて、自分もクールだということを示すため、ある日いじめられた著者はこう叫んだ。「いまに見てろよ。私はミス・アメリカになるんだから」。ミス・アメリカというのは、母親が著者を呼ぶあだ名だった。母親にとって、著者は大事な長女、アメリカで生まれた最初の子どもなのだった。人気者の子たちは笑いころげ、長いあいだ「ミス・アメリカ」とからかい続けた。

しかし、それでも著者はヴァネッサ・ウィリアムスがミスになれるなら自分もなれると信じていたし、『スイート・ヴァレー・ハイ』シリーズにも熱中し、双子の、反抗的で賢くセクシーな方に自分を重ねていた。スイート・ヴァレーの物語が、ブロンドのやせた白人を美しいとしていて、異人種がほとんど登場しないことを不自然には感じていた。けれど、著者は物語に熱中して新刊を待ち望み、大人になって、続編が刊行されると知ったときはカレンダーに印をつけて発売日を待った。

ハイチ系で黒人の女の子である著者は、物語の中に自分自身を見出すことを期待されていなかった。けれど、著者はそうしていたし、物語から慰めや静かな喜びを得ていた。

好感問題
Avosb/iStock/Thinkstock

著者は幼い頃から知っていた。女の子が好感を持たれない場合、その子が問題児といわれることを。正直である、人間でいる、ということは、めったに女性の好ましい性質とはされない。

『ヤング≒アダルト』という映画で、シャーリーズ・セロンが演じたメイヴィスという女性は、キャラクターとしての「好感の持てなさ」を、映画評で称賛された。計算高く、自己陶酔的で、無神経、という彼女の性質は、つまり人間的な性質にほかならないが、それはそのまま観客に受け入れられるのではなく、あえてクローズアップされて説明されるべきことだったということだ。

しばしば、似たような反応は文芸批評の中にもある。フィクションの女性は、現実の人生を生きる女性と同様に、ある規範を守るよう求められている。そして彼女らの好感度の低さは、小説のクオリティに関わるかのように、論点になってしまう。一方で、アンチヒーローとして活躍する感じの悪い男や、規範から逸脱した男は、『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンにはじまり、作品の中に多々登場する。

好感度についての問いかけがあることは、私たちはフィクションに、人々が理想的にふるまう理想の世界を求めているのではないか、と考えさせられる。

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要約公開日 2017.09.23
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