ダイエットの科学の表紙

ダイエットの科学

「これを食べれば健康になる」のウソを暴く


本書の要点

  • 腸内細菌の多様性が減ってきていることが、肥満をはじめとする現代病の主原因である。

  • 特定のダイエットが効く人と効かない人がいるのは、腸内細菌の個人差で説明できる。

  • カロリーの摂取量を消費量より少なくすれば痩せるというわけではない。摂取するものの質にこだわることが重要だ。

  • 運動だけで痩せるということはほとんどない。しかし健康になるうえで、運動は非常に有益な手段である。

  • 栄養面に配慮しつつ、継続可能な方法によって体重を少しずつ減らしつづけることが、ダイエットにおいては重要である。

1 / 4

ダイエットという神話

ダイエット法と肥満の爆発的な増加

Delpixart/iStock/Thinkstock

どのダイエット法が良いのかを判断することはむずかしい。それは専門家にとっても同じことだ。ダイエットに関する書籍の数は数多くあるが、現実として食事の質は世界全体で低下しつづけている。2014年の時点で、アメリカでは2000万人の子どもが肥満とみなされ、人口に占める割合は30年間で3倍になった。イギリスでも成人の3分の2が過体重か肥満だし、メキシコでは肥満率がアメリカを上回っている。中国とインドの肥満率も、この30年間で3倍になった。さらに驚くべきことに、痩せている人が多いと言われている日本、韓国、フランスのような国でも、子どもの1割以上が肥満だとされている。この流れが続けば、イギリスとアメリカでは、2030年までに新たに7600万人、合計すると人口の半分近くが肥満になってしまう計算になる。すなわち、糖尿病などの患者がさらに数百万人増えるということだ。当然、そこには天文学的な医療費が発生することになる。

世間のダイエット法は問題だらけ

世の中に出回っているたいていのダイエット法は、科学的な素養のない人によって考案されている。さらに、評判の高い医師ですら、自説の正当性にこだわるあまり、矛盾する新たなデータを無視してしまうことが少なくない。ダイエットという分野は、科学というよりは宗教に似ているのである。これはそもそも、栄養学という分野が抱える問題でもある。栄養学では、大規模な共同研究やプロジェクトがほとんど見られない。専門家が常に互いに敵対しあっているからだ。その結果、栄養学の研究水準はほかの研究分野と比べるとかなり遅れており、ほとんどの研究は、ある一時点の状況だけを調べる横断的かつ観察的な研究にとどまっている。被験者に対してひとつの食品、あるいはひとつの食事法を無作為に割り当てて長期にわたり追跡するような、信頼性の高い無作為化比較試験はわずかしかないのが現状だ。

遺伝がすべてではない

Steve Margala/iStock/Thinkstock

同じ量の食事をとっていても、太る人と痩せる人がいる。こうした違いが生まれる原因のひとつは「遺伝子」だと考えられる。遺伝子は、食欲と最終的な体重の両方に影響する。実際、個人差の60~70%は遺伝的要因で説明できるという。とはいえ、ある形質が60~70%「遺伝によるもの」だからといって、それが運命として決まっているわけではない。たとえば、遺伝子がまったく同じ一卵性双生児なのに、ウエストサイズがかなり違うこともある。また、1980年代のイギリスだと肥満は人口全体のわずか7%だったのに、今では24%にまで増加している。こうした年代的な変化も、体型が遺伝的要因だけで決まるわけでないことを示している。そもそも、遺伝子が自然選択による適応を起こすには、最短でも約100世代かかる。したがって、ここに遺伝以外の要因が絡んでいるのは明らかである。その要因とは、私たちの腸内にすむ小さな微生物(腸内細菌)である。

2 / 4

【必読ポイント!】カギは微生物にあり

人間は微生物とともに生きてきた

現代の食生活を理解するうえで、微生物はきわめて重要である。微生物はまだまだ新しい研究分野だが、体と食べ物の関係についての理解を根本から変えつつある。これまでのダイエット法では、栄養や体重を、エネルギーの摂取と消費という観点からしか考えてこなかった。しかし、それこそがダイエットの失敗を招いていたのだ。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2535/3944文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2017.10.01
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

シンキング・マシン
シンキング・マシン
ルーク・ドーメル新田享子(訳)
新・新装版 トポスの知
新・新装版 トポスの知
河合隼雄中村雄二郎
お茶の科学
お茶の科学
大森正司
アメリカ経済政策入門
アメリカ経済政策入門
上原裕美子(訳)スティーヴン・S・コーエンJ・ブラッドフォード・デロング
スマホでサンマが焼ける日
スマホでサンマが焼ける日
江田健二
マストドン
マストドン
小林啓倫コグレマサトいしたにまさきまつもとあつし堀正岳
インターネットは自由を奪う
インターネットは自由を奪う
アンドリュー・キーン中島由華(訳)
バッド・フェミニスト
バッド・フェミニスト
ロクサーヌ・ゲイ野中モモ(訳)

同じカテゴリーの要約

ハーバードの心理学講義
ハーバードの心理学講義
ブライアン・R・リトル児島修(訳)
一流の研究者たちが教える 快眠の科学
一流の研究者たちが教える 快眠の科学
伊藤和弘三島和夫(監修)
新版 科学がつきとめた「運のいい人」
新版 科学がつきとめた「運のいい人」
中野信子
スマホ脳
スマホ脳
アンデシュ・ハンセン久山葉子(訳)
最強に面白い 睡眠
最強に面白い 睡眠
柳沢正史(監修)
なぜゲームをすると頭が良くなるのか
なぜゲームをすると頭が良くなるのか
星友啓
新版 「空腹」こそ最強のクスリ
新版 「空腹」こそ最強のクスリ
青木厚
科学的に元気になる方法集めました
科学的に元気になる方法集めました
堀田秀吾
スタンフォード式 最高の睡眠
スタンフォード式 最高の睡眠
西野精治
FACTFULNESS
FACTFULNESS
ハンス・ロスリングオーラ・ロスリングアンナ・ロスリング・ロンランド上杉周作(訳)関美和(訳)
無料