健康格差

あなたの寿命は社会が決める
未読
健康格差
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健康格差
出版社
出版日
2017年11月20日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「低所得者の死亡率は高所得者の3倍高い」。オビにあるこの一文が、本書タイトルでありテーマである「健康格差」の本質の一端を表している。

「格差の拡大は問題である」とはよく言われることだが、近ごろ注目されつつある新たな格差が「健康格差」だ。生まれ育った家庭環境や地域、あるいは雇用形態や所得によって、病気のリスクや寿命までも変わってくるという。自己管理能力にかかわらず、しかも気づかないうちに、個人の健康状態に格差が生まれてしまうのが「健康格差」と呼ばれる現象だ。

具体的な健康不安を抱えていない人であれば、対岸の火事と思うかもしれない。だが本書を読めば、「健康格差」は特定の人に限ったことではなく、すべての世代にかかわる社会全体の問題だとわかる。「子どもの貧困」や「下流老人」など、主に経済的な苦しさが注目される機会は増えてきているが、経済格差が「健康格差」に、ひいては「命の格差」に直結している点に、この問題の深刻さがある。

本書は、2016年9月に放映されたNHKスペシャル「私たちのこれから #健康格差 〜あなたに忍び寄る危機〜」をもとに、大幅な取材を加えて書籍化されたものだ。番組は大きな反響を呼び、放送中からツイッターなどのSNSには1万件近い声が寄せられたという。

深刻なテーマを扱ってはいるが、読後感は決して暗くない。国内外で既に始まっている打開策や処方箋が効果を上げている例も示されており、対策を講じさえすれば、格差解消に向けた道筋が見えてくる兆しも感じられる。

ライター画像
小島和子

著者

『健康格差』NHKスペシャル取材班
神原 一光(かんばら いっこう)
NHK放送総局大型企画開発センターディレクター。
1980年東京都生まれ。2002年入局。特番ドキュメンタリーや『トップランナー』『週刊ニュース深読み』などを制作し、NHKスペシャルでは『私たちのこれから』『18歳からの質問状』『AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン』などを制作。著書に『辻井伸行 奇跡の音色』(文春文庫)など。

平田 知弘(ひらた ともひろ)
NHK放送総局大型企画開発センターディレクター。
1978年神奈川県生まれ。2002年入局。『ハートネットTV』を中心に、介護・医療・認知症・自殺・震災などをテーマに制作。NHKスペシャル『認知症 その時、あなたは』『介護の人材が逃げていく』など。2017年4月、番組をきっかけに『認知症になっても人生は終わらない』(harunosora)の出版をプロデュース。

西村 敦子(にしむら あつこ)
NHK制作局生活・食料番組部ディレクター。
1981年東京都生まれ。2006年入局。松山局を経て、現所属では『あさイチ』を担当。生活情報や健康問題を中心に制作するほか『ファミリーヒストリー 尾木直樹』『マサカメTV』などの番組も担当した。

宮本 憲治(みやもと けんじ)
NHKエデュケーショナル生活部専任部長。
1968年北海道生まれ。全体を監修。1991年入局。NHKスペシャル『MEGAQUAKE 巨大地震』を制作し、『私たちのこれから』ではシリーズ制作統括を務めた。現所属では、暮らしの情報サイト『NHKらいふ』総合編集長。
http://www.nhk.or.jp/lifestyle/

本書の要点

  • 要点
    1
    「健康格差」と呼ばれる新たな格差が生まれている。自己管理能力にかかわらず、社会的な背景によって、個人の健康状態に格差が生じ、寿命までも変わってくる現象だ。
  • 要点
    2
    「健康格差」は、子どもや働き盛りの世代、そして高齢者まで、すべての世代に忍び寄っている。現状を放置すれば、日本の社会保障制度にとって大きな打撃になるだろう。
  • 要点
    3
    「健康格差」への対策として、東京都足立区の「ベジ・ファースト(野菜から食べよう)」という取り組みなど、健康リスクを抱えた人に限定しない包括的な施策が効果をあげている。

要約

【必読ポイント!】すべての世代に迫る「健康格差」

「貧富の差」が現役世代の健康をおびやかす
Ingram Publishing/Thinkstock

本書が扱う「健康格差」とは、自己管理能力にかかわらず、社会的な背景に左右されて個人の健康状態に格差が生じている現象だ。もともと病弱な人や高齢者ばかりでなく、その格差はあらゆる世代に広がっている。

例えば、糖尿病はこれまで若い世代には無縁と思われていたが、30~40代の現役世代に患者が増えてきている。その背景にあると考えられるのが貧困だ。長年の生活習慣が引き金となる「2型糖尿病」の患者782名を対象とした実態調査によれば、過半数の世帯年収は200万未満だという。

所得の低さは食生活や生活習慣に現れる。厚生労働省の調査でも、所得が低いほど米やパンなどの炭水化物の摂取量が増え、野菜や肉類が減ることがわかっている。まして非正規雇用であれば、長時間労働を強いられることも多い。結果的に食事の時間が不規則になり、栄養バランスを欠くことになりがちだ。

さらに非正規雇用者は、定期的な健康診断を受ける機会も少ないため、体の異常を早期発見しづらい現状もある。こうして職業や所得によって、現役世代にも「健康格差」が生じている。

生涯独身だと健康を損なう可能性が高まる

もう一つ、現役世代の「健康格差」に影響を与えている要素として本書が取り上げるのは、未婚率の上昇である。

既婚者と比べて未婚者は、大きな健康不安を抱えがちだという複数の調査結果がある。例えば、45〜64歳の未婚男性の死亡率は、同世代の既婚者の2・2倍に上る。精神面でも未婚者は問題を抱えやすく、未婚者の自殺率は既婚者の1・25倍だ。年齢別に55〜64歳に限って見ると、その差は実に2・4倍にもなる。

ただし、未婚女性の場合、既婚者との差はほとんどない。概して女性は、未婚であっても生活全般における自己管理能力が高いためだと見られる。精神面においても未婚女性は、趣味サークルのコミュニティに参加するなどして、孤独を抱えないで済む傾向にある。

乱れがちな食生活と孤独が、男性未婚者の健康を徐々に蝕んでいるのである。

「命の格差」に直面する高齢者

高齢になるにしたがって、独居であることによる健康リスクはますます高まる。全国では7人に1人がひとり暮らしをしているが、近年とりわけ増えているのが中年層や高齢者のひとり暮らしだ。

ひとり暮らしの高齢者は、転倒による骨折などをきっかけに、家に閉じこもりになってしまうことがある。そうなると、周囲とのつながりが薄れ、体の異変に気づいても自分ひとりで抱えて、重症になるまで悪化させてしまうケースも少なくない。頼る家族のいない高齢者が「健康格差」に陥れば、いとも簡単に「命の格差」につながり得る。

人生それぞれの段階に「健康格差」が忍び寄っている現状は、すでに逼迫している日本の社会保障費に追い打ちをかけるだろう。「健康格差」は生涯を通じて徐々に蓄積されていくため、問題が顕在化してから対策を講じようにも、もはや手遅れだ。「健康格差」研究の第一人者である近藤克則・千葉大学教授は、日本社会は「時限爆弾」を抱えているようなものだと指摘する。

地域による寿命の差

食習慣と医療格差が与える影響
GI15702993/iStock/Thinkstock

前項で所得や雇用形態、家族構成が「健康格差」につながっていることを紹介したが、次に、地域の違いによる「健康格差」を見ていこう。国土が狭く、生活習慣にそれほど大差がない日本においても、地域における「健康格差」がある。

全国で2番目に平均寿命が短い秋田県は、

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要約公開日 2018.02.12
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