中国人の本音

日本をこう見ている
未読
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日本をこう見ている
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中国人の本音
著者
出版社
定価
924円(税込)
出版日
2017年05月15日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

残念ながら日本では、中国についていい印象を持っている人が多いとは言いがたい。

大半の日本人にとって、中国といえば反日思想や観光地での騒々しさが真っ先に思い浮かぶだろう。両国間には依然として歴史や領土の問題が山積し、緊張関係が続いている状態だ。とくに2012年秋に起きた反日デモをきっかけに、中国に対するイメージを悪化させた日本人が増えたのはまちがいない。

しかし一方で、中国人が本当は日本をどう見ているか、しっかりと考える機会はほとんどないのではないだろうか。

本書は著者が自ら汗をかいて歩きまわり、中国人の本音を引き出した珠玉の一冊だ。ここで触れられているのは反日デモの裏側や、東日本大震災に関する中国の反応といったものだけではない。SMAPや宮崎駿氏、高倉健氏の人気の高さ、『窓ぎわのトットちゃん』の記録的売れ行きなど、日本のポップカルチャーが中国でどう受け入れられているのかについても、しっかりと取材がなされている。あくまでも市井の人々に軸足を置き、庶民目線で語られているのが特徴だ。

大上段に構えた政府や企業寄りの広報誌ではないし、嫌中を煽るドロドロした本でもない。中国嫌いの人でも、本書を読めば中国に対する印象が変わるのではないか――そんな期待を抱かせてくれる良書である。

ライター画像
田中佐江子

著者

工藤 哲 (くどう あきら)
1976年青森県生まれ。埼玉県出身。99年に毎日新聞社入社。盛岡支局、東京社会部、外信部、中国総局(北京、2011年〜16年)、特別報道グループを経て現在外信部記者。共著に『サラリーマンと呼ばないで』(光文社)、『離婚後300日問題 無戸籍児を救え!』(明石書店、07年疋田桂一郎賞)がある。メール kudo-a@mainichi.co.jp

本書の要点

  • 要点
    1
    日本では中国の情報が伝わっておらず、中国では日本への理解が偏っている。今後重要になるのは、メディアや日中間を往来する人が、お互いの国の日常情報をしっかりと発信することだ。
  • 要点
    2
    『窓ぎわのトットちゃん』が日本の発行部数を抜いた人気の背景には、中国の教育制度に対する不満と、子供の個性を尊重する教育環境に対する強い憧れがあると考えられる。
  • 要点
    3
    日本政府の尖閣諸島国有化により発生した反日デモは、日系スーパーの破壊行動などに発展し、日本人の中国人に対するイメージ悪化はもとより、中国人自身も傷つく結果を招いた。

要約

北京を歩く、見る、聞く

情報発信の重要性

日本での中国に関する報道は、中国共産党の動向を不安視する一方、中国人訪日客による消費を歓迎する声も多く、中国や中国人との距離感がますます近くなっていると感じる人も少なくない。

しかし日本の観光地に中国人が増えたと認識している日本人が多い一方で、なぜ中国人が日本に関心をもち、訪れてくるのかを考察する人はほとんどいない。今後はメディアや日中間を往来する人が、互いの国の日常情報をさらに発信していくべきである。

緊張の走る日中関係において、摩擦や対立を減らすためには、中国人の考え方のみならず、日常にも目を向け、理解を深めていくことが欠かせない。

車窓取材で中国を知る
RK Studio/Blend Images/Thinkstock

中国を知る有効な手段として、車窓取材が挙げられる。これは「車に乗って一本の道路をまっすぐに走り、窓の外を見る」というやり方で、中国駐在が長い商社マンや中国人ジャーナリストも実践している。運転手と雑談し、その土地の事情を聞きながら窓の外を見続けることで、人々の暮らしがだんだんと見えてくるのだ。

たとえば日中関係が悪化すると、日本への批判的な言動を取る運転手が増えてくる。中国にいる運転手の態度は、日中関係のバロメーターだ。運転手に限らず、日本人を嫌う中国人は、日本人と直接話したり、日本に行ったことがなかったりする人が多い。

だが中国人の訪日観光客が増え、日本を知る人が多くなったことで、日本を無条件で嫌う人は少しずつ減ってきている。今後さらに日本に触れた人の情報発信が広がれば、日本人への悪感情を募らせる中国人も減少していくのではないかと考えられる。

売れ筋から日本の書籍を紐解く

車窓取材と並び、現在の中国を知る手立てが書店だ。

1993年開業の「万聖書園」は、北京大や清華大の近くにあり、多くの学生や知識人が足繁く通う学術書店である。もちろん日本関連書籍も置かれている。とくに中国語訳された日本の小説が多く、村上春樹や東野圭吾の小説が棚の大半を占める。日本書籍は、米国、フランス、英国に並び人気ジャンルで、日本書籍の需要はさらに増える見込みだ。

また1981年に出版された『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著)も記録的なロングセラーとなっている。2013年に中国で翻訳版が出版されると、いまや日本の発行部数を抜くほどの人気を博すようになった。

『トットちゃん』人気の背景には、中国の教育制度に対する不満と、子供の個性を尊重する教育環境への強い憧れがあると見られている。読者には教員やその教え子、教育に熱心な母親が多い。中国の読者はこの作品から、「周囲に言われて自分を変えるのではなく、自分の思いを大切にして生きてもいい」というメッセージを感じているそうだ。

【必読ポイント!】 日中双方の真実を知る努力を

過去最大規模の反日デモ
cotuvokne/iStock/Thinkstock

少しずつ日本に好意をもつ中国人が増える一方で、反日・抗日デモの動きはなかなか収まらない。2012年8月中旬、亮馬橋地区にある日本大使館近辺で反日デモが始まった。尖閣諸島に上陸した香港の団体メンバーが逮捕されたことが発端だ。8月末に丹羽宇一郎駐中国大使(当時)の公用車が襲撃される事件が発生すると、9月11日に日本政府が尖閣諸島を国有化したことで、デモはさらに激化した。

このデモのピークは国有化後の最初の週末、9月15日から18日だった。とくに15日は、北京や上海、重慶など50都市以上で過去最大規模のデモが起きた。このとき山東省青島市などでは、日系スーパーが大きな被害を受けた。青島イオンの窓ガラスや店舗は破壊され、青島市中心部から見て西に位置する黄島区のジャスコ黄島店も、ほとんどのガラスが割られてしまった。

青島イオンは地元学生への奨学金支給や緑化事業など、社会貢献の面でも知られていただけに、関係者は「現地の人に喜ばれる企業として地道に事業に取り組んできた。ただ反日と叫びたたき壊す行為が愛国なんてまちがっている」と声を荒げている。

過激な行動を当局が許容すると、生活に不満を募らせた一部の若者や中高年が反日・抗日を掲げ、日系企業で働く中国人との間で混乱や対立を引き起こす。しかも日本人は中国に対するイメージをますます悪化させてしまう。反日デモは結局、中国人自身も傷つく結果を招くのである。

東日本大震災で中国メディアが変わった
enase/iStock/Thinkstock

こうした国内事情や日中関係を報じる中国メディアはどんな体制なのだろうか。

中国メディアの記者は当局に報道内容を制約され、自由がないと思われがちだ。しかし制約を抱えながらも「真実を伝えたい」と考えている人はいる。それは海外取材も例外ではない。

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