ジョブズの料理人の表紙

ジョブズの料理人

寿司職人、スティーブ・ジョブズとシリコンバレーとの26年


本書の要点

  • 佐久間氏が非冷凍の穴子を取り寄せて握ったのをきっかけにジョブズは穴子を好むようになった。ジョブズは理不尽ともいえる厳しさを見せるが、しっかりした仕事をすればその成果は認めてくれる。

  • 貸し切りランチをきっかけに、佐久間氏はジョブズのカリスマや変わり者としての一面だけでなく、夫や父親という普通の一面を見出した。

  • 佐久間氏が成功できたのは、現状に満足せずに、新たな一歩を踏み出したこと、そしてその際に、とにかく小さく始めることで、試行錯誤を繰り返しながら、目指すビジョンに向かって突き進んでいったからだ。

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シリコンバレーで旨い寿司を食わせよう!

シリコンバレーで寿司屋を開く

Andrey Armyagov/iStock/Thinkstock

『ジョブズの料理人』と銘打たれた本書は、スティーブ・ジョブズに愛された寿司職人、佐久間俊雄氏の半生を描いた一冊だ。佐久間氏は2011年10月に自身が運営する「桂月」という会席料理店を閉店し、26年に及ぶ米国での和食店経営に終止符を打った。まずは彼がシリコンバレーで寿司の専門店を開くに至った経緯から振り返ってみたい。福島県で生まれた佐久間氏は15歳から東京で寿司の修行をはじめた。新入りがいきなり寿司を握らせてもらえるわけもなく、まずは掃除、出前、洗い物を半年ほど続け、その後イカやコハダの下仕込みを担当することになる。それらが一人前にできるようになってから、ようやく大型魚をさばくことが許されるのだ。寿司屋の世界は人と人とのつながりが強く、加えて当時はどこのお店も人不足のため、次の働き口を探すのはとても簡単だったという。佐久間氏が自身を動きたがりの「虫」と形容しているとおり、彼は東久留米市にあった一軒目の寿司屋から浅草や渋谷の寿司屋へと転々と身を移した。ハワイで寿司屋を始めたのは1979年のことだ。このときも「ハワイで働かないか?」という提案に対して動きたがりの「虫」が背中を押し、ワイキキのハイアット・リージェンシーの中にある「ふるさと」という店で寿司を握った。和食の世界展開が本格的に始まろうとしていた1980年ごろ、ハワイを足がかりに米国本土へ移り住む板前が増えていた。佐久間氏も日本人の多い地域で働かないかという誘いを受けていたといい、いくつかの候補地のなかからサンフランシスコを選んで、新生活を始めたのは1982年のことだった。当時、海外では寿司、てんぷら、照り焼きなどを出す「総合型」の和食店が一般的だった。米国本土で最初に働いた「カンサイ」というお店は、まさにこの「総合型」の和食店で、佐久間氏はここで2年間働いたのち、ついに自分の店を開く準備に移る。いくつかの物件を見て回るなかで選んだのは、スタンフォード大学のお膝元にあるパロアルトだった。ここで佐久間氏は「スシヤ」という、当時は珍しかった寿司専門店を開いた。資金調達で苦しみ、経営ノウハウもなかったというが、スタンフォード大学に近接し、有力IT企業のオフィスや高級住宅街に近い立地が功を奏し、期待を上回る成果を収めることに成功する。

スティーブ・ジョブズとの出会い

Jag_cz/iStock/Thinkstock

スシヤの経営が軌道に乗って2、3年後のこと、カウンターで忙しく寿司を握っていると、常連客のひとりが「奥にいるのはスティーブ・ジョブズだよ」とささやいた。当時、ジョブズは自分で興したアップルを追われ、不遇をかこっていたが、佐久間氏はそんな事情はまったく知らなかったそうだ。ジョブズとの遭遇が印象的だったのは、そのときのジョブズの格好がスーツに蝶ネクタイという、シリコンバレーには似つかわしくない姿だったからだという。その上、わざわざ寿司専門店を訪れたのに、肝心の寿司は巻物を少し食べた程度だった。

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要約公開日 2014.03.20
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