本書の要点

  • iPS細胞の研究はいま、「再生医療」と「創薬」という2つの分野で進展している。

  • 生命科学の世界には研究成果をリアルタイムに共有する仕組みがない。それがいま問題視されている。

  • AI導入を推進する際に重要な観点となるのが、AIの答えに人間が納得できるかどうかだ。なぜならAIが答えを導き出すプロセスはブラックボックスであるうえ、判断ミスを犯す可能性もあるからである。

  • 重要なのは情報の「量」を増やすことではなく、それらを「質」に転換し、遭遇したことのない新たな局面でもうまく対応することである。

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iPS細胞研究の現在地

受精卵とiPS細胞

chombosan/iStock/Thinkstock

マウスからiPS細胞を製作することに、世界ではじめて成功したと発表されたのが2006年。ヒトiPS細胞の製作成功が発表されたのは、その翌年のことだった。当時はまだ動物を使った基礎研究の段階だったiPS細胞の研究は、この10年間でどこまで進化したのだろうか。

まずiPS細胞についておさらいしておこう。iPS細胞とはどんな細胞にもなれる能力をもった細胞のことで、日本では「人工多能性幹細胞」と訳される。このような能力をもった細胞は基本的に体内には存在しない。それを人工的に作りだしたため、こう呼ばれている。

ただしiPS細胞のような能力をもった状態が、人間の体にたった一度だけ現れることがある。それは受精卵のときだ。200種類以上もの体の細胞は、すべて受精卵からできている。受精卵は「多能性幹細胞」であり、「万能細胞」とも呼ばれている。

山中伸弥(以下、山中)氏らは、大人の皮膚の細胞や血液の細胞に手を加えることで、受精卵の状態に戻すことに成功した。それがiPS細胞である。

進化するiPS細胞の研究

京都大学iPS細胞研究所(CiRA、サイラ)では、iPS細胞を医療の分野に応用することを目的に研究を進めている。大きくは「再生医療」と「創薬」という2つの分野に分かれる。

「再生医療」分野では、iPS細胞を体のさまざまな細胞に分化させ、患者に移植することをめざす。「創薬」の分野では、患者の細胞からiPS細胞を作り、そこに病態を再現させることで病気のメカニズムを解明。薬の開発に役立てる。

こうした臨床応用の研究は、人間への応用にあと一歩という段階にまでさしかかっている。2014年に理化学研究所のチームが、iPS細胞から作った網膜の細胞を、加齢黄斑変性の患者に移植する手術を成功させた。これは世界ではじめてのことだ。

また2013年にも、横浜市立大学のグループが、iPS細胞から“ミニ肝臓”を作ることに世界ではじめて成功している。“ミニ肝臓”というのは、肝臓のいわゆる「芽」のことだ。これを患者に移植して、患者自身に臓器まで育ててもらうというアプローチである。

さらに動物の体内で人間の臓器を作る「キメラ技術」の研究も進んでいる。この研究には、臓器提供者不足が深刻な臓器移植の現場から、大きな期待が寄せられている。

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世の中をよりよくするデータの使い方

オープンソースで進化する将棋ソフト

baphotte/iStock/Thinkstock

将棋ソフトの進化は、チェスや囲碁とは異なっているという。チェスや囲碁はグーグルなどの大企業が参入し、ハードとデータ量を重視して開発が進んできた。その一方で、将棋ソフトの世界には巨大資本が入ってこなかった。というのも将棋ソフトがあまりにも強すぎて誰も買わなくなり、マーケットがなくなったからだ。

利害関係が消滅した将棋ソフトは、そのほとんどがオープンソースとなり、誰でも自由に分析や研究ができる環境が整った。ソフト開発の共有ウェブサービス「ギットハブ」(GitHub)で、多くの人が寄ってたかってバグや修正ポイントを次から次へと共有。こうして将棋ソフトの開発レベルは飛躍的に伸びた。

生命科学の知見共有を阻むもの

オープンソースをベースに進化してきた将棋ソフトとは逆に、生命科学の世界では論文発表まで研究内容をひた隠しにする。

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要約公開日 2018.04.05
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