AI vs. 教科書が読めない子どもたちの表紙

AI vs. 教科書が読めない子どもたち


本書の要点

  • 本当の意味でのAI(人工知能)はまだ存在しない。よってシンギュラリティ(技術的特異点)が近いうちに起こるのはありえない。

  • AIは今後、既存のホワイトカラーが担っている仕事を代替する存在になる。

  • いまの学生は暗記や計算を得意としているが、基本的な読解力に欠けている。暗記や計算はAIの得意分野であり、このままだと彼らの仕事はAIに代替されてしまう。

  • 教育のあり方をあらためて見直し、読解力を基盤とした、柔軟性を養うプログラムにしなければならない。そうしなければ、AI大恐慌という最悪のシナリオを迎えることになるだろう。

1 / 4

そもそもAIとはなにか

シンギュラリティはSFである

erdre/iStock/Thinkstock

現代においてAI(人口知能)はまだどこにも存在していないということを、まず明らかにしておかなければならない。「人工知能」というからには、人間の一般的な知能とまったく同じとまではいかなくても、同等レベルの能力を持っているべきである。だが実際はそうではない。

いまのコンピューターがしていることは基本的に計算である。人工知能の最終的な目標は、人間の知的活動をすべて四則計算で表現すること、少なくとも「表現できている」と私たち人間が感じる程度に近づけることだ。だがその目標に到達する可能性はきわめて低い。結論として、近い未来に人工知能が誕生することはないだろう。

では巷でAIという言葉が氾濫しているのはなぜか。それはAIと「AI技術」が混同して使われているからである。AI技術というのは、AIを実現するために開発されているさまざまな技術を指す言葉であって、AIそのものではない。たとえばiOSに搭載されているSiriも、厳密にいうとAIではなくAI技術である。「AI技術」をAIと呼ぶことによって、私たちはAIがすでに存在していると錯覚しているのだ。

またシンギュラリティ(技術的特異点)がもうすぐやってくると主張する人は多いが、これも疑わしい主張である。シンギュラリティとはAI技術ではない「真の意味でのAI」が人間の能力を超え、自分より能力の高い「真の意味でのAI」をみずから作り出せるようになることを意味している。だが「真の意味でのAI」が生まれる可能性は、少なくとも近未来においてはほとんどない。よってシンギュラリティがまもなく訪れる可能性も、限りなくゼロに近い。

ディープラーニングの限界

Danor_a/iStock/Thinkstock

世界で最初にAIという言葉が登場したのは1956年のことだ。コンピューターがまだ巨大な装置だった時代に、世界初の人工知能プログラム「ロジック・セオリスト」が発表された。ロジック・セオリストとは、自動的に数学の定理を証明するプログラムである。

この時期に「プランニング」と呼ばれるAIの原型が生まれたが、現実の問題は複雑な事象が絡みあうため、問題解決には役立たなかった。これは「フレーム問題」と呼ばれ、今なおAI開発の壁となっている課題のひとつである。

1980年代に入ると、AI研究に新たな時代が訪れる。コンピューターに専門的な知識を学習させ、問題を解決するというアプローチが全盛期を迎えた。たとえばコンピューターに法律の知識を学習させ、その道のエキスパートを作り出すという試みだ。しかしコンピューターに法律や判例を詰めこむことはできても、常識や人の感情を学習させることは難しく、実用的なシステム構築には至らなかった。

1990年代半ばに検索エンジンが登場すると、インターネットが爆発的に普及する。さらに2010年代に入ると、ディープラーニングという統計的な方法論が用いられるようになった。ディープラーニングは脳を模倣して作られた数理モデルであり、そのうち人間と同じように考えるようになるといわれている。だがあくまでもこれは「数理モデル」だ。数値化できない人の感情や生き方を、現在のAI技術が理解することはありえない。

2 / 4

AIが東大に合格できない理由

人間の常識はAIにとって常識ではない

前述のとおり、いまAIと呼ばれているものはAI技術にすぎない。ただしここからは便宜上、AI技術も含めてAIと呼称していく。

2011年、AIを東大に合格させる「東ロボくん」プロジェクトが始まった。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2598/4052文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2018.04.25
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

全米は、泣かない。
全米は、泣かない。
五明拓弥
新・日本の階級社会
新・日本の階級社会
橋本健二
完全無欠の賭け
完全無欠の賭け
柴田裕之(訳)アダム・クチャルスキー
AI経営で会社は甦る
AI経営で会社は甦る
冨山和彦
複雑な問題が一瞬でシンプルになる 2軸思考
複雑な問題が一瞬でシンプルになる 2軸思考
木部智之
ソーシャル物理学
ソーシャル物理学
アレックス・ペントランド小林啓倫(訳)
日本の分断
日本の分断
吉川徹
独学の技法
独学の技法
山口周

同じカテゴリーの要約

AIエージェント革命
AIエージェント革命
シグマクシス
愛される書店をつくるために僕が2000日間考え続けてきたこと キャラクターは会社を変えられるか?
愛される書店をつくるために僕が2000日間考え続けてきたこと キャラクターは会社を変えられるか?
ハヤシユタカ
ユニクロ
ユニクロ
杉本貴司
ケーキの切れない非行少年たち
ケーキの切れない非行少年たち
宮口幸治
ローソン
ローソン
小川孔輔
両利きの経営(増補改訂版)
両利きの経営(増補改訂版)
チャールズ・A・オライリーマイケル・L・タッシュマン入山章栄(監訳・解説)冨山和彦(解説)渡部典子(訳)
トヨタの会議は30分
トヨタの会議は30分
山本大平
キーエンス解剖
キーエンス解剖
西岡杏
未来の年表
未来の年表
河合雅司
シン・ニホン
シン・ニホン
安宅和人