AI vs. 教科書が読めない子どもたち

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出版社
東洋経済新報社

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出版日
2018年02月15日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

いま書店に行くと、たくさんのAI関連書籍を目にする。なかには「AIが神になる」「AIが人類を滅ぼす」などといったような、扇情的なものも少なくない。

世間に流布するAIのイメージや未来予想図が、実態とかけ離れている――著者はそう憂慮する。AIが神に代わって人類に楽園をもたらすことはないし、逆に人類を滅ぼすようなこともない。しかしいまある仕事の多くが今後、AIに代替されるのもまちがいない。そしてその未来はすぐそこまで迫っている。

そんななか著者が不安視するのは、未来の日本の労働力となる中高生だ。英単語や世界史の年表、数学の計算など、表層的な知識という意味ではそこまで問題ないかもしれない。だが中学校の教科書程度の文章でも、正確に理解できる人は予想以上に少ない(これは大人も例外ではない)。そして彼らが比較的得意としている暗記分野はAIのもっとも得意な分野であり、今後代替される可能性が高いのだ。

もちろんAIにできない仕事が今後生まれる可能性はある。しかしその新たな仕事が、AIによって仕事を失った労働者に勤まるとはかぎらない。

著者は数学者の視点から、これから起こりうるAI恐慌までのシナリオと、それに対抗するための教育のあり方について論じている。流行り言葉に踊らされず、冷静に現状を見すえなければ、未来に備えることはできない。

ライター画像
池田明季哉

著者

新井 紀子 (あらい のりこ)
国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長。
一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。
東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学5年一貫制大学院数学研究科単位取得退学(ABD)。東京工業大学より博士(理学)を取得。専門は数理論理学。
2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタを務める。2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。
主著に『ハッピーになれる算数』『生き抜くための数学入門』(イースト・プレス)、『数学は言葉』(東京図書)、『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    本当の意味でのAI(人工知能)はまだ存在しない。よってシンギュラリティ(技術的特異点)が近いうちに起こるのはありえない。
  • 要点
    2
    AIは今後、既存のホワイトカラーが担っている仕事を代替する存在になる。
  • 要点
    3
    いまの学生は暗記や計算を得意としているが、基本的な読解力に欠けている。暗記や計算はAIの得意分野であり、このままだと彼らの仕事はAIに代替されてしまう。
  • 要点
    4
    教育のあり方をあらためて見直し、読解力を基盤とした、柔軟性を養うプログラムにしなければならない。そうしなければ、AI大恐慌という最悪のシナリオを迎えることになるだろう。

要約

そもそもAIとはなにか

シンギュラリティはSFである
erdre/iStock/Thinkstock

現代においてAI(人口知能)はまだどこにも存在していないということを、まず明らかにしておかなければならない。「人工知能」というからには、人間の一般的な知能とまったく同じとまではいかなくても、同等レベルの能力を持っているべきである。だが実際はそうではない。

いまのコンピューターがしていることは基本的に計算である。人工知能の最終的な目標は、人間の知的活動をすべて四則計算で表現すること、少なくとも「表現できている」と私たち人間が感じる程度に近づけることだ。だがその目標に到達する可能性はきわめて低い。結論として、近い未来に人工知能が誕生することはないだろう。

では巷でAIという言葉が氾濫しているのはなぜか。それはAIと「AI技術」が混同して使われているからである。AI技術というのは、AIを実現するために開発されているさまざまな技術を指す言葉であって、AIそのものではない。たとえばiOSに搭載されているSiriも、厳密にいうとAIではなくAI技術である。「AI技術」をAIと呼ぶことによって、私たちはAIがすでに存在していると錯覚しているのだ。

またシンギュラリティ(技術的特異点)がもうすぐやってくると主張する人は多いが、これも疑わしい主張である。シンギュラリティとはAI技術ではない「真の意味でのAI」が人間の能力を超え、自分より能力の高い「真の意味でのAI」をみずから作り出せるようになることを意味している。だが「真の意味でのAI」が生まれる可能性は、少なくとも近未来においてはほとんどない。よってシンギュラリティがまもなく訪れる可能性も、限りなくゼロに近い。

ディープラーニングの限界
Danor_a/iStock/Thinkstock

世界で最初にAIという言葉が登場したのは1956年のことだ。コンピューターがまだ巨大な装置だった時代に、世界初の人工知能プログラム「ロジック・セオリスト」が発表された。ロジック・セオリストとは、自動的に数学の定理を証明するプログラムである。

この時期に「プランニング」と呼ばれるAIの原型が生まれたが、現実の問題は複雑な事象が絡みあうため、問題解決には役立たなかった。これは「フレーム問題」と呼ばれ、今なおAI開発の壁となっている課題のひとつである。

1980年代に入ると、AI研究に新たな時代が訪れる。コンピューターに専門的な知識を学習させ、問題を解決するというアプローチが全盛期を迎えた。たとえばコンピューターに法律の知識を学習させ、その道のエキスパートを作り出すという試みだ。しかしコンピューターに法律や判例を詰めこむことはできても、常識や人の感情を学習させることは難しく、実用的なシステム構築には至らなかった。

1990年代半ばに検索エンジンが登場すると、インターネットが爆発的に普及する。さらに2010年代に入ると、ディープラーニングという統計的な方法論が用いられるようになった。ディープラーニングは脳を模倣して作られた数理モデルであり、そのうち人間と同じように考えるようになるといわれている。だがあくまでもこれは「数理モデル」だ。数値化できない人の感情や生き方を、現在のAI技術が理解することはありえない。

AIが東大に合格できない理由

人間の常識はAIにとって常識ではない

前述のとおり、いまAIと呼ばれているものはAI技術にすぎない。ただしここからは便宜上、AI技術も含めてAIと呼称していく。

2011年、AIを東大に合格させる「東ロボくん」プロジェクトが始まった。

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要約公開日 2018.04.25
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