シャルマの未来予測

これから成長する国 沈む国
未読
シャルマの未来予測
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シャルマの未来予測
出版社
東洋経済新報社

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定価
3,080円(税込)
出版日
2018年04月19日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

グローバル化が進むことで、ヒト、モノ、カネの交流が富を生み出す――。そんな期待は2008年の金融危機で砕かれた。サブプライムローン問題などの米国発の危機が世界各国に波及した。各国のつながりが強くなったことで、変化の速度は増す一方だ。こうした変化を先読みする方法はないか。モルガン・スタンレーの市場戦略担当である著者は、長年の経験で独自に選んだ10の評価基準をもとに豊富なエピソードとデータで、これからの5~10年で成長する国、後退する国を考察している。

生産年齢人口の増加や、住宅価格の上昇率、債務の伸び率が経済成長率より高いか、低いかなど、評価基準は実に明快だ。経常収支赤字の対GDP比、改革者だったリーダーの変質が引き起こす政治サイクルへの指摘も考えさせられる。

原著は2016年に執筆されたため、トランプ氏がアメリカの大統領となる直前の本である。だが、本の中では脱グローバル化ともいうべき内向き志向が強まる世界を予想しており、著者の先見の明を感じさせる。

10の評価基準をもとに、11章では、いくつかの国の未来が予測されている。現地の視察を長年行ってきた著者の考察が詰まった本書は、移りゆく世界の変化を展望するための指南書として最適だろう。また、日本への見方は中立である。安倍政権の少子化対策を前向きに評価している。裏を返せば、政策の停滞によっては、評価も悪化する、との意味も含んでいるのかもしれない。世界の未来を見通すレンズを手にしていただきたい。

著者

ルチル・シャルマ(Ruchir Sharma)
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントの新興市場部門・部門長、チーフ・グローバル・ストラテジスト。
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントは200億以上の資産を運用する投資会社であり、著者は毎月1週間は諸外国を訪問し、地元の主要な政治家、大企業のCEO(最高経営責任者)、その他有力者などと面談を重ねている。彼の初の著書『ブレイクアウト・ネーションズ:大停滞を打ち破る新興諸国』(早川書房、2013年)はインドでいち早くナンバー・ワンのベストセラーとなり、ウォールストリート・ジャーナル紙のベストセラー書にも選ばれた。またフォーリン・ポリシー誌は2012年に同書を21冊の必読書の1冊に選出した。ウォールストリート・ジャーナル紙、フィナンシャル・タイムズ紙、タイムズ・オブ・インディア紙、フォーリン・アフェアーズ誌、タイム誌、ニューヨーク・タイムズ紙、フォーリン・ポリシー誌、フォーブス誌、ブルームバーグ・ビューなど有力な新聞・雑誌への寄稿多数。2000年代には長い間、ニューズウィーク誌の編集者を務め、「グローバル・インベスター」というタイトルの定期コラムを執筆した。2015年10月、ブルームバーグより世界で最も影響力のある人物50人の1人に、2012年、フォーリン・ポリシー誌より最高の世界的思考をする人の1人に選出された。また2007年にはダボスの世界経済フォーラムより世界で最も優れた若手リーダーの1人に選出されている。

本書の要点

  • 要点
    1
    遠い未来の完全予測はありえない。有効なのは、今後5~10年後の見通しを立てることだ。
  • 要点
    2
    国家の盛衰を見抜く10の評価基準とは、人口構成、政治、格差、政府介入、地政学、産業政策、インフレ、通貨、過剰債務、メディアである。
  • 要点
    3
    著者の予測では、将来展望ランクの格付けが優秀な国として米国・アルゼンチン・メキシコ・フィリピン・ドイツが、平均に位置付けられる国として台湾・韓国・日本・英国が、劣等な国としてタイ・中国・ロシア・オーストラリアなどが挙げられている。

要約

2008年の経済金融危機

BRICsの台頭と後退

かつて、グローバル化の繁栄は民主主義への道であるように見えた。だが、2008年の金融危機が米国から世界へと広がった影響で、新興市場の台頭は終わりつつある。

財政危機後、政治的自由が衰え、BRICsともてはやされたブラジル、ロシア、インド、中国のうち、インド以外は不振に陥っている。経済学者によると、これらの国の発展はもはや確実ではないようだ。ロシアとブラジルの経済は縮小している。中国は景気後退期ではないが、年率14%から年率5%未満の成長減速を経験している。

以前なら一時的な不況に陥っても、循環によって再び回復に向かうことが期待できた。しかし現在は、こうした循環論が通用しない時代になった。景気後退が長期化し、不況の谷が深まると、労働者の技能が破壊され、企業は連鎖倒産に追い込まれる。製造業の生産能力には、大きな損失が発生する。それが景気後退をさらに深刻にする。2008年金融危機後の経済停滞では、こうした負のスパイラルが新たな脅威となっているのだ。

変化を知るための評価基準
Mary Wandler/iStock/Thinkstock

現在では、高度成長がいかに持続困難かということは広く知られている。では、有為転変の世界で、繁栄する国や没落する国を予想するには、どうしたらよいのか。本書では、10の評価基準が述べられている。その基準を活用すれば、ある国が上昇気流に乗っているのか、それとも落ちこぼれつつあるのか、あるいは何とか危機を切り抜けつつあるのか、などが把握できる。

著者は、過去25年の証券調査活動でこれらの評価基準を得た。これらは1つの体系としてうまく機能している。結論を言えば次のようになる。まずは経済危機の最悪期を脱し、国際的な金融市場やメディアの要警戒リストからも外れる。そして、政治面では改革意識に燃えた民主的リーダーが登場すると、経済の持続的な成長が始まる。改革派リーダーによってビジネス環境が整備され、工場設備や道路、科学技術などへの生産的な投資が拡大すれば、供給サイドが強化されインフレも抑え込まれる。

しかし経済が豊かになると、民間の企業や個人が、特に海外の高級奢侈品を求めて無秩序に借金をするようになる。そうなると好景気もいよいよ終盤に近づく。やがて海外からの借金返済が滞り始め、一部の大金持ちと一般の人々、中央と地方の経済格差が拡大する。その結果、政治への不満が高まり、旧体制が打倒され、再び新しいサイクルが始まる。

予測の精度

世の中は有為転変だ。よって、経済予測では遠い未来を対象にしてはならない。経済成長に影響を及ぼす景気や技術、政治のサイクルは、5年周期が一般的だ。そのため、経済予測が5~10年を超えると、その信頼性が大幅に低下する。長期的な経済成長に重要な影響を与える要素はたくさんある。本書ではそれらに言及するのはあえて避けた。変化のサインとしてうまく機能しないからだ。

本書の目的の1つは、予測の照準を遠い未来から現実味のある5~10年先にシフトさせることだ。20~100年先の予測が的中することなどありえない。なぜなら、予測してから5年以内に想像を超えた競争者が現れて、過去のトレンドをひっくり返してしまうからだ。第二次世界大戦後、1人当たりGDPの年間伸び率が6%を上回った「超高速」の成長が長く続いた事例が28ある。それを見ると、持続期間は平均で10年未満だった。こうしたことを踏まえて、本書は、実務家が国家の盛衰をリアルタイムで見抜くための手引書となっている。

10の評価基準

評価基準の概要
Jezperklauzen/iStock/Thinkstock

著者は、国家の盛衰を見抜くための10の評価基準を挙げている。

第1に、人口構成。生産年齢人口の増減に関する将来予測を調べ、将来の成長に向けた底力がどれだけ涵養されているかを調べてみることだ。

第2に、政治。危機の直後に新たな指導者が登場すれば、改善に向かう可能性が高まる。一方、堕落した指導者が権力の座に居座り続ければ、国の将来はますます暗くなる。

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要約公開日 2018.08.06
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