テクノロジー・スタートアップが未来を創る

テック起業家をめざせ
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テクノロジー・スタートアップが未来を創る
出版社
東京大学出版会

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定価
1,760円(税込)
出版日
2017年12月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

いま東京大学をはじめ、大学発ベンチャーが熱い。ヒューマノイド・ロボットのSCHAFT、人工衛星のAxelspace、パーソナル・モビリティのWHILL、印刷する電子回路のElephantech、がんワクチンのVLP Therapeutics。本書に登場するテック企業の事例を読めば、そのあふれ出る情熱と、社会へのインパクトの大きさに圧倒されるにちがいない。

著者の鎌田富久氏は、東京大学の人気講座、アントレプレナー道場の看板講師である。学生時代にテック企業ACCESSを共同創業しており、現在はエンジェル投資家として、テクノロジー・スタートアップの起業支援をしている。東京大学の産学共創推進本部を率いる各務茂夫(かがみしげお)氏からは、「東京大学ベンチャー・エコシステムの構築にとって本当に余人をもって代えがたい要の存在」といわれるほどだ。

ここでの「テクノロジー・スタートアップ」とは、革新的な技術で新たな市場を開拓し新たな産業を創る、あるいはイノベーションで地球的課題を解決するスタートアップのことだ。大学発イノベーションの現状、スタートアップと大企業の共創、起業家への道、最新のテクノロジーの動向。本書ではこれらが実に詳しく、そしてわかりやすく解説されている。

読み進めるにつれて感じるのは、未来をつくる挑戦者たちへの、著者の深い愛情だ。不可能を可能に変え、社会の課題を解決しようと技術の壁に立ち向かうアントレプレナーたち。彼らの等身大の姿や、大学発イノベーションの未来図には、ワクワクさせられるばかりだ。スタートアップの立ち上げをめざす方、「何かに挑んだ生き様」を残したいと考える方に、ぜひお読みいただきたい。

ライター画像
松尾美里

著者

鎌田 富久(かまだ とみひさ)
1961年愛知県生れ。TomyK代表/株式会社ACCESS共同創業者。89年東京大学大学院理学系研究科情報科学博士課程を修了。理学博士。東京大学在学中にソフトウェアのベンチャー企業ACCESS社を荒川亨氏と設立。世界初の携帯電話向けウェブブラウザなどを開発し、モバイルインターネットの技術革新を牽引。2001年に東証マザーズに上場、11年に代表取締役退任。その後、ベンチャーを支援するTomyKを設立し、ロボット、人工知能、人間拡張、IoT(Internet of Things)、ゲノム、医療、宇宙などの先端テクノロジー・スタートアップを多数立ち上げ中。

本書の要点

  • 要点
    1
    研究者自らが、研究成果を活用したイノベーションの創出や事業化をめざすことは、社会の要請といえる。
  • 要点
    2
    大企業がスタートアップ的なイノベーションの起こし方を活用するには、社内にスタートアップ特区をつくり、トップの承認のもと、スピード重視で推進できるようにするのが有効だ。
  • 要点
    3
    スタートアップと大企業の協業を成功させるには、互いの違いを理解し、尊重することが欠かせない。

要約

ヒューマノイドの実用化をめざすSCHAFT

ロボットは実用化しないと意味がない
ABIDAL/iStock/Thinkstock

著者が注目するテクノロジー・スタートアップのストーリーのうち、ヒューマノイド、すなわちヒト型ロボットの実用化をめざすSCHAFT(シャフト)の事例を紹介する。

東京大学でヒューマノイドの研究をしていた中西雄飛氏と浦田順一氏。この分野で名の知れた若手研究者の二人が起業を決意した契機は、東日本大震災だった。福島第一原子力発電所の事故現場では、原子炉建屋の内部の状況を把握するために、無人走行するロボットが必要だった。このときすぐに役立ったのは、アメリカ製のロボット。二人は自分たちの無力さを痛感した。「ロボットは実用化しないと意味がない」。研究目的ではなく、災害の現場など、社会の中で活躍するロボットをつくるべく、スタートアップに興味のあった、研究室の後輩とともにSCHAFTを立ち上げた。

SCHAFTの技術の特徴は、強靭で柔軟な下半身、二足歩行のノウハウにある。ヒューマノイド・テクノロジーへの自信と、自分たちがやるしかないという熱意がそこにはあった。著者はSCHAFTの資金提供をして手伝うこととなった。

DARPAロボットコンテストで圧勝

2013年、タイミングよくアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)が、災害救助ロボットコンテストを発表した。優勝賞金は200万ドル(約2億円)だ。SCHAFTは、コンテスト優勝により、ヒューマノイド・ロボットの実用化を進めるという目標を掲げた。

コンテストの内容は、現実の災害現場を想定して、ロボットがこなす必要がありそうな作業を8種目行い、その達成度で評価されるというものだ。具体的には、ブロック地面を歩く、がれきを取り除くといった作業である。NASAなどの世界の名だたる強敵と競うには、たいへんな努力と、困難を克服する忍耐強さが求められた。

しかし、SCHAFTはコンテスト一次大会で、他の有力チームに大差をつけて優勝し、世界を驚かせることとなった。勝因は、ロボットの性能だけでなく、実用化へのこだわり、泥臭い現場での対応能力で強みを発揮したことだった。

米グーグルが買収

コンテストの少し前に、米グーグルがSCHAFTを買収すると発表し、話題をさらった。この数カ月前、SCHAFTは資金調達に悩んでいた。ロボットの製品化には時間がかかるため、この段階での投資はチャレンジングだからだ。

そこでCFOの加藤崇氏は、グーグルのアンディ・ルービン氏(当時 上級副社長)に投資をしてもらえないかと依頼した。ロボット技術に精通したアンディはわざわざ来日し、興味津々でデモを見た。その後、SCHAFTの技術力を高く評価したアンディの口から出たのが、買収の提案である。世界中のロボット研究者でドリームチームをつくるというのだ。こんな話は一生に一度あるかないかだ。SCHAFTのメンバーたちは快諾し、心強いスポンサーを手にした。創業メンバーたちが東大の研究室から一歩を踏み出し、尋常とよべない開発を進めた並々ならぬ情熱が、運とチャンスを引き寄せたのである。

プロジェクト開始から約4年後、グーグルはこのプロジェクトを手放すこととなった。しかし、2017年、ソフトバンクに買収され、SCHAFTは次のステージへと向かっている。

SCHAFTのように創業間もないテクノロジー・スタートアップが大企業に買収される例は、アメリカでは一般的で、株式上場よりもはるかに件数が多い。今後、こうした事例は日本でも増えていくはずだ。

大学発イノベーションの創出

レールをつくる側にまわる
scanrail/iStock/Thinkstock

革新技術で世界初の製品やサービスを開発し、それが生活を便利にする、あるいは世界の課題解決につながっていく。これは技術者や研究者にとって最高の喜びだ。インターネットの威力とオープンなイノベーション環境により、こうしたチャンスを誰にでも引き寄せられる時代となった。

同時に、スタートアップという選択肢が以前よりも現実的になってきている。日本の若い優秀な人材が、スタートアップ側に回り、イノベーションをリードし、新しい産業をつくることは社会の要請といってもよい。

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