ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
出版社
定価
693円(税込)
出版日
2021年07月01日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

子どもの世界は、大人の世界を鏡のように映す。英国在住のブレイディみかこ氏が綴る息子の中学校生活には、大人社会の複雑さがそのまま存在している。たとえば、ダニエルはハンガリー移民の両親を持つが、自らも移民に人種差別的発言をして生徒たちと衝突する。ティムは貧しさから食べ物に困り、学食で万引きをする。

著者の息子は、名門カトリックの小学校から、「ホワイト・トラッシュ(白い屑)」と差別語で呼ばれる白人労働者階級が通う中学校に進学した。息子は英国で育っているが、東洋人の顔をしている。体も小さい。いじめられないか、変化についていけるか、と両親は心配したが、彼はじつにたくましくさわやかにスクールライフをエンジョイするのである(そしてなんと、学級委員まで務める)。

ジョークまじりで読みやすい語り口ながら、著者の言葉には生活の確かな気配と、鋭い考察が共存している。息子と友人たちの熱い青春の日々を追ううちに、英国のブレグジットという選択の背景や、英国社会の分断が手に取るように伝わってくる。さらに英国に限らない、日本が、世界が抱える現代の社会問題が立ち現れてくる。

ときにこうした本こそが、ビジネスパーソンに示唆を与えるものなのではないか。社会に散在する課題に取り組みたいと願う方、グローバルな視野を持ちたいと願う方に、特におすすめしたい。

ライター画像
小日向悦子

著者

ブレイディみかこ
ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。2017年、『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)で新潮ドキュメント賞を受賞。2019年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞、Yahoo!ニュース | 本屋大賞 ノンフィクション本大賞受賞などを受賞。他に、『ワイルドサイドをほっつき歩け――ハマータウンのおっさんたち』(筑摩書房)、『THIS IS JAPAN―英国保育士が見た日本―』(新潮文庫)、『女たちのテロル』(岩波書店)、『女たちのポリティクス――台頭する世界の女性政治家たち』(幻冬舎新書)、『他者の靴を履く――アナーキック・エンパシーのすすめ』(文藝春秋)など著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    英国は公立でも小・中学校を選択できる。人気の高い学校には応募が殺到する。が、著者の息子が入学したのは、白人労働者階級が通う元底辺中学校だった。
  • 要点
    2
    社会が多様化するとともに、人種差別もより複雑になっている。移民が移民を差別したり、英国人の側でもどちらかの肩を持って差別的発言をする人もいる。
  • 要点
    3
    保守党政権が始めた大規模な緊縮財政は、貧しい層を直撃している。今や、平均収入の60%以下の所得の家庭で暮らす子どもたちは、英国の子どもの総人口の約3分の1にもなる。

要約

元底辺中学校への道

英国の教育事情
Zephyr18/gettyimages

著者は英国の南端にあるブライトンという街に、配偶者と息子と長年住んでいる。配偶者は銀行をリストラされて大型ダンプの運転手に転身したという、「わりと思いきったことをする」アイルランド人。一方著者は単身渡英して結婚し、息子が生まれてから子どものおもしろさに目覚め、英国で保育士になった、こちらも大胆な人である。

息子はすくすくといい子に育ち、カトリックの名門小学校で生徒会長まで務めた。ところが、転機が訪れる。息子が入学した中学校は、彼が卒業した小学校とは真逆といってもいいくらい異なるタイプの場所だったのである。

英国は、公立でも保護者が子どもを通わせる小・中学校を選べる。保護者たちが判断の基準にするのは、Ofsted(英国教育水準局)が公立校に公開を義務付けている情報と、その情報をもとに大手メディアなどが作った学校ランキングだ。当然、人気の高い学校には応募者が殺到する。そのため、定員を超えると、自宅から学校の校門までの距離が近い順に受け入れるというルールがある。

著者の一家は、いわゆる「荒れている地域」に住んでいるのだが、著者夫妻と夫の親族の宗教上、カトリックの小学校を選んだところ、そこがたまたま市の小学校ランキング1位の学校だった。コンサバな家庭は裕福で教育熱心であることに加え、カトリック校は一般に厳格で宿題も多い。したがってカトリック校のランクは自然と高くなるのだ。

中学校の廊下にセックス・ピストルズかよ

中学校もカトリック校に進学するのかな、とぼんやりと考えていた親子のもとへ、近所の中学校から学校見学会の招待状が届いた。そこは「ホワイト・トラッシュ(白い屑)」という差別用語で表現される白人労働者階級の子どもたちが通う中学だ。が、その中学校は、このごろランキングの底辺から真ん中くらいまで急浮上しているのだという。好奇心から、著者と息子は見学会に出かけた。

近所の中学校の見学会は、別の日に訪れたカトリック校の見学会とは何もかも違っていた。ジョークのタイミング重視の校長のスピーチの後は、音楽部の演奏だった。

おびただしい数の中学生が様々な楽器を持って「アップタウン・ファンク」を奏でる。ヴォーカル3人組の個性も動きもバラバラだ。雑多な演奏だが、みんなが楽しそうなので、ふしぎなまとまりを生んでいる。

校内見学をすると、音楽室に至るまでの廊下の左右には、ブリティッシュ・ロックの名盤アルバムのジャケットが、ずらりと貼られていた。そこには、中学校という場所にふさわしからぬ、セックス・ピストルズのジャケットもあった。

「いい子」の決断

息子に「あの学校に行け」とは言わなかったものの、著者は近所の中学校をたいへん気に入ってしまった。近所の中学校では、音楽やダンスなど、子どもが好きなことに力を入れられる環境を整えて思いきりやらせたら、学業成績まで改善したのだという。一方、配偶者は一貫して元底辺中学校への進学には反対だった。そこでは生徒の9割以上が白人の英国人だったので、東洋人の顔をした息子がいじめられることを心配したのだ。

白人労働者階級が通う学校は、レイシズムがひどくて荒れている。そうした噂が一般的になるにつれ、移民の家族は白人労働者が多い地区の学校を避けるようになった。そのため、英国の地方の町では、人種の多様性があるのは優秀でリッチな学校、ないのは底辺校という、「多様性格差」というような状況が生まれている。

近所の学校見学会の帰り、息子もぽつりと「ほとんどみんな白人の子だったね」と口にしていた。が、

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要約公開日 2021.09.22
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