社会システム・デザイン 組み立て思考のアプローチ

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社会システム・デザイン 組み立て思考のアプローチ
出版社
東京大学出版会

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出版日
2019年02月05日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

「社会システム・デザイン」とは、つかみどころのない「社会」というものを、人知で扱える範囲に切り出し、デザインしようという取り組みだ。

同じことを繰り返すマシーンで構成されるエンジニアリング・システムと異なり、社会システムは時間とともに変化する。本書で検証される原発も、物理的実体だけを見ればエンジニアリング・システムであるが、その社会的影響を考えれば「技術のロジック」と「社会の価値観」が複雑に絡み合った社会システムであることは明らかだ。

本書は原発問題を中心に論じつつも、困難な課題に対応する際の思考方法や改善方法に関するエッセンスが凝縮されており、きわめて応用性が高い。とりわけその核心となる「悪循環を発見し、中核課題を定義する」という手法は、原発問題のように大きな問題だけでなく、業務改善のように身近な問題にも役立つはずだ。

こうした課題対応スキルは本書でも述べられているとおり、知識だけでなく体験を通じて身に着ける必要があり、一朝一夕に熟達するものではない。しかし本書を読了した後には、仕事などで直面するさまざまな問題に対し、「この中核課題は何か」という思考をしてみたくなるに違いない。

お手軽なノウハウではなく、本質的な思考法と課題解決手法を身につけたいすべてのビジネスパーソンにとって、座右の書となる一冊だろう。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

横山 禎徳 (よこやま よしのり)
県立広島大学専門職大学院経営管理研究科(HBMS)研究科長、東京大学総長室アドバイザー。イグレックSSDI代表取締役。
1966年東京大学工学部建築工学科卒。ハーバード大学デザイン大学院都市デザイン修士、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士。前川國男建築事務所(東京)、およびデイビス・ブロディ・アソシエーツ(ニューヨーク)において建築デザインに従事。1975年にマッキンゼー・アンド・カンパニー入社。日本企業および海外の企業に対する収益改善、全社戦略立案・実施、研究開発マネジメント、組織デザイン、企業変革、企業買収・提携等のコンサルティングを行う。同社シニア・パートナー、東京支社長を経て2002年定年退職。現在は、社会システムズ・アーキテクトとして「社会システム・デザイン」の方法論の開発、普及に注力している。2003年から4年間、産業再生機構の監査役、2012年には国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会委員として活動した。
著書に『企業変身願望』(NTT出版、1990年)、『成長創出革命』(ダイヤモンド社、1994年)、『「豊かなる衰退」と日本の戦略』(ダイヤモンド社、2003年)、『アメリカと比べない日本』(ファースト・プレス、2006年)、『循環思考』(東洋経済新報社、2012年)、『東大エグゼクティブ・マネジメント 課題設定の思考力』(東京大学出版会、2012年)、『東大エグゼクティブ・マネジメント デザインする思考力』(東京大学出版会、2014年)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    原発は社会システムであり、そこには「技術のロジック」と「社会の価値観」の双方が深く関わっている。この複雑さこそが、議論が深まらない原因だ。
  • 要点
    2
    社会システムは有機体のように、過去の影響を受けて時々刻々と変化していく。そのため無機的なマシーンで構成されるエンジニアリング・システムとは、まったく異なる扱いをしなければならない。
  • 要点
    3
    社会システムのデザインは、「中核課題を定義する」ことから始める必要がある。原発問題の中核課題は「安全神話による思考停止」だ。

要約

原発システムを「社会システム」として捉える

課題設定能力の不在

原発の問題を扱うのは難しい。2011年3月11日(いわゆる3.11)に起きた福島第一原発事故以降、多くの人々が原発に関心を持ち、それぞれの立場で意見を表明している。しかし日本にある原発をただちにすべて停止しても、100パーセントの安全が確保されるわけではない。したがって推進・反対に関係なく、原発を安全かつ適切にマネジメントしていく必要がある。それは技術的問題にとどまらず、政治や経済と絡んだ利害関係や価値判断などを含め、さまざまな課題に対応しなければならないということだ。

ところが現実には議論の対立が目立ち、技術面に着目した安全対策ばかりが話し合われている。「原発の抱える中核課題が何か」を、政府を含めて誰も的確に定義し、国民に提示していないのが現状である。

原発を「社会システム」として捉える
vlastas/gettyimages

多くの人は、原発が複雑なシステムであることを理解している。しかしそれはエンジニア任せになりがちな、「エンジニアリング・システム」という範囲内での理解だろう。原発の社会的影響を考えれば、その枠を超えて、組織・制度・経営・政治・環境・歴史・文化などの要素からなる「社会システム」と捉えるべきである。

社会システムは、時間とともに変化していくダイナミック・システムだ。有機体のように過去の影響を受けながら、予測のつかない変化をする。これに対しエンジニアリング・システムは、基本的にスタティック・システムで、故障しないかぎり同じことを繰り返す。

たとえるならばエンジニアリング・システムがハードウェア思考であるのに対し、社会システムはソフトウェア思考だ。エンジニアリング・システムから社会システムへの転換は、縦割りの局所最適化から抜け出して、相互連鎖を効果的に捉えるための発想でもある。

原発を社会システムとして捉え、人知で扱えるサイズに切り出して「デザイン」しなければ、多くの人々が納得するような現実的解決に向けて前進することは不可能であろう。

【必読ポイント!】 「社会システム・デザイン」の方法論

「デザイン」とは何か
undefined undefined/gettyimages

ここでいう「デザイン」とは、雑多でバラバラだが互いに関連する要素を、期待した機能を発揮するように「統合」する作業を指す。そこにはロジカルな要素と、文化的伝統や風土、願望・意思といったロジカルでない要素の両方が含まれる。

統合のためには各要素を分析することが不可欠だ。とはいえ分析を通じて見つけた「問題の裏返し」(すぐに思いつくような対策)は、優れたデザインとはいえない。そこでは「発想力」という優れた仮説設定能力が求められる。

デザインは、分析のようにシステマティックな訓練ができるスキルではない。実際に手を動かしつつ、何度も仮説を設定して検証することの繰り返しでしか身につけられない。しかもデザインは芸術とは違い、期限内に解を出すことが要求される。そのため作業ステップを定め、その位置づけと達成すべき目標を明確にしておくことが重要である。

社会システム・デザインのための5つのステップ

社会システム・デザインの作業は、「社会的現象のほとんどはダイナミック・システムであること」、「その時間軸による展開は循環的であること」、そして「循環しながら段々と悪くなるか、良くなるかのどちらかしかないこと」という経験則で得られた前提のもと、次の5つのステップを踏んで行う。

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要約公開日 2019.09.03
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