データ資本主義
ビッグデータがもたらす新しい経済

未 読
データ資本主義
ジャンル
著者
ビクター・マイヤー=ショーンベルガー トーマス・ランジ 斎藤栄一郎(訳)
出版社
NTT出版 出版社ページへ
定価
2,700円 (税抜)
出版日
2019年03月27日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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ビッグデータがもたらす新しい経済
著者
ビクター・マイヤー=ショーンベルガー トーマス・ランジ 斎藤栄一郎(訳)
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定価
2,700円 (税抜)
出版日
2019年03月27日
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4.5
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レビュー

経済学は近代に誕生した比較的新しい学問であり、社会の市場経済と資本主義の仕組みについて探究してきた。しかし時代が変わり、社会の仕組みが変われば、自ずと研究対象も変わっていく。貨幣や価格の理論を提示してきた経済学は、貨幣や価格がその役目を終えたとき、何を探究することとなるのか。

データが貨幣と価格に取って代わったとき、金融資本主義はデータ資本主義へと移行する――著者はそう考える。精細なアルゴリズムやマッチングシステムの発展により、データリッチ環境が整った社会では、もはや貨幣や価格に縛られる必要はなくなる。そうなればそれぞれの嗜好や価値観に沿った選択にもとづき、より自由な生き方ができるようになるかもしれない。著者が思い描くデータ資本主義とは、データやシステムに人間が服従する未来ではなく、より人間的に生きられるようになる未来だ。そしてそこに新たな希望を見るのである。

いろいろな意味で常識を覆される本書だが、議論は理解しやすく説得力がある。これからの経済のあり方について、思考を深めたい方にぜひ読んでいただきたい。本書を読んでいるか読んでいないかで、現代社会に対する見方は大きく変わるはずだ。

大賀祐樹

著者

ビクター・マイヤー=ショーンベルガー (Viktor Mayer-Schönberger)
オックスフォード大学オックスフォード・インターネット研究所教授(専門はインターネットのガバナンスと規制)。ハーバード大学ケネディスクールを経て現職。ネットワーク化された経済における情報の役割が研究テーマ。この分野のビッグデータの第一人者として知られ、『ビッグデータの正体――情報の産業革命が世界のすべてを変える』(講談社、ケネス・クキエとの共著)は世界的なベストセラーとなった。『Delete(デリート――忘却の美学)』(2009年、マクルーハン賞他受賞)で「忘れられる権利」という概念を提唱、法曹界、メディアで高い評価を得る。セキュリティソフトの開発など、ソフトウェア系スタートアップの起業家としての業績も多い。2014年、ワールドテクノロジーアワード・法律部門受賞。マイクロソフトや世界経済フォーラムなど、多数の企業や団体の経営諮問委員を務める。

トーマス・ランジ (Thomas Ramge)
作家・ジャーナリスト。ドイツのビジネス誌『brand eins』特派員。英『エコノミスト』誌のビジネス部門で、テクノロジーとイノベーション、企業の社会的責任(CSR)等、寄稿多数。『The Global Economy as You’ve Never Seen It(誰も見たことのないグローバル経済)』『Munsch und Maschine(人と機械――ロボットは人の暮らしをどう変えるか)』『Wirtschaft verstehen mit Inforgrafiken(インフォグラフィックで経済を理解する)』など、著書も多い。

本書の要点

  • 要点
    1
    人間の調整能力を発揮するための分権的な仕組みが「市場」であり、集権的な仕組みが「企業」である。市場では貨幣と価格が情報伝達の役割を果たしてきたが、現代では大量のデータが取って代わりつつある。
  • 要点
    2
    データリッチの環境において、集権的な企業も変化を迫られている。考えられるひとつのやり方は、分権的な市場の仕組みを企業組織に取り込むことだ。
  • 要点
    3
    長期的に見ればデータが貨幣に取って代わり、金融資本主義はデータ資本主義へと移行するだろう。それは人間を貨幣・資本から解き放ち、より人間的な生き方を追求できるようになる好機である。

要約

【必読ポイント!】 人間の調整能力を発揮するための仕組み

「市場」と「企業」
NanoStockk/gettyimages

火の使用、車輪の発明、蒸気機関の開発など、人類はこれまでさまざまな発明をしてきた。しかし人類史を貫く一本の重要な糸として、人間のもつ調整能力を忘れてはならない。人間は調整能力を活かして、ピラミッドなどの大規模な建造物を設計・建設してきたし、古代のアレクサンドリア図書館や現代のウィキペディアのように、膨大な知識を共同で収集してきた。月面着陸も膨大な数の人の力を調整して、なし得た偉業である。

現代において世界人口の衣・食・住、教育、雇用を支えられているのは、「市場」と「企業」という2つのソーシャル・イノベーションのおかげだ。どちらも効率的な調整の支援を目的としているが、市場は分権化されているのに対して、企業は集中管理型の構造をしている。両者は相互に補完し合う関係ではあるが、激しく火花を散らし合う存在でもある。市場では誰もが情報を発信し、受け手になることで、参加者全員が分権的に意思決定を行う。一方で階層型の企業では、中心へ情報が流れていき、リーダーが重要な意思決定を下す。

これまでは、そのときどきで市場が競争優位に立ったり、企業が競争優位に立ったりしてきた。しかし来るべきデータ時代には、市場が大きく進化し、市場と企業の長年の戦いに新たな章が開かれることとなるだろう。

貨幣と価格が果たした情報伝達の機能

「市場における情報は多いほうがいい」という意見が大勢を占めている。だが現実には完全な情報が共有されることはなく、私たちはいつも不完全で非対称な情報にもとづいて選択しなければならない。一方で情報が多すぎると、処理しきれずに選択を誤ってしまう可能性もある。必要な情報を安価で高速にやり取りできたとしても、私たちの認知能力には制約があり、合理的とは思えない選択をしてしまうこともある。

「貨幣」はこういった問題を和らげる存在だ。貨幣は希少な貴金属を鋳造することで、価値を蓄積・保存する。だがそれ以上に重要なのが、価格により市場を機能させ、製品やサービスの価値を表現するための尺度としての役割だ。貨幣が存在せず、市場で物々交換をしていた時代には、それぞれの品物がどれくらいの品物と釣り合いがとれるのか、合意を取るのはとても面倒な作業だった。だが共通の尺度としての貨幣と価格の存在は、市場参加者全員が理解可能な共通言語で、取引情報を表現できるようにした。貨幣中心市場が到来したことにより、情報の流通量が妥当な水準に抑えられ、人間は市場の調整機能の可能性を引き出せるようになった。

貨幣と価格の呪縛からの解放
zimmytws/gettyimages

とはいえ現代における情報の伝達・処理能力の向上は著しい。もはや価格というたったひとつの数字に、あらゆる情報を凝縮するのは正しいあり方とは言えない。多様な情報を価格だけに凝縮していく過程で、多くの詳細が抜け落ちてしまうからだ。たとえばある商品を購入する際は、商品の良し悪しや買い手の好み、いますぐ欲しいかどうかなどの細かい要素が入り混じって、「買ってもよい」と思える価格が形成される。しかし売り手にできるのは、ひとつひとつの条件を考慮することなく、売上や在庫を考えながら価格を提示することくらいである。これでは買い手と売り手の思惑を事細かな情報として価格に込めたり、伝達したりすることはできない。私たちが価格に固執すれば、市場は本来の機能である調整力を発揮できなくなってしまう。

この問題の解決策は、デジタル決済や仮想通貨の開発・導入のように、貨幣をあれこれいじり回すことではない。

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