突破力の表紙

突破力

無理なく限界を突破するための心理学


本書の要点

  • 人間の限界は、その多くがあらかじめ遺伝子で決まってしまう。そのため限界があるのは仕方のないことである。重要なのはその限界を見極めて、どのように対処していくかだ。

  • 人間の脳は「バイアス」に影響されると、合理的な判断ができなくなる。だがバイアスの種類を知るだけでも、その悪影響を和らげることができる。

  • バイアスから解放され、無理なく限界を突破するために重要なのは、「セルフモニタリング」「クリティカル・シンキング」「知的謙遜」の3つである。

1 / 4

限界に関する勘違い

限界があることは問題ではない

robertiez/gettyimages

人間の身体能力が遺伝に左右されることは広く知られている。だが実際は「性格」「知性」などの内面も、遺伝子によるところが大きい。とくに性格の50パーセントは、遺伝で決まるという。そのため「能力の限界を超えたい」と願っても、そう簡単にはいかない。こういう主張をしていると、「限界とは、ネガティブな思い込みから、自分の心が決めたものだ」という反論が来ることもある。たしかにそのような場合もあるが、ここで問題になるのは「生物学的な限界」と「思い込みの限界」をどうやって見分けるのかということだ。自分が感じている限界が思い込みによるものではなく、生物学的なものだとしたら、それを超えようとしても結果はなかなか出ない。ひどい場合はプレッシャーに押しつぶされてしまうだろう。さらに限界は、環境・生活習慣・体調などの外的要因でコロコロ変化するものでもある。昨日と今日で限界点が変わる場合もあるため、限界にこだわって悩み続けても意味はない。すなわち限界があること自体を問題にしても仕方がないのだ。では「限界」に立ち向かうにはどうしたらよいのか。唯一の正しい方法は「試す」ことである。「体力の限界」を例にとろう。「今よりも働くと体を壊すかもしれない……」と考えたとき、「これは思い込みだ!」と自分を励ましても何も生まれない。自分の体力の限界が実際にどの程度かをつかむには、エクササイズで体を鍛えて体力をつける、仕事を辞めて静養するなど、思いついた仮説を試して検証してみる他ないのである。

限界がないのは人間の愚かさだけ

Scar1984/gettyimages

失敗したら別のものを試すというのは、じつにシンプルな方法論だ。だがこれを常に実践できる人は少なく、「わかっていてもできない」パターンが多い。さらにタチが悪いのは、「そんなことはわかっている」のに、一向に行動しないというパターンだ。この罠にハマると、人々はひたすら問題を先送りにしてしまう。これら2つのパターンは異なるように見えるが、「現状維持バイアス」にとらわれているという点で共通している。どう考えても変化を起こすべきなのに、新しいものを受け入れられず、現状のままでいたいと思ってしまっている。このバイアスは狩猟時代に人間の脳へ書き込まれたもので、人間の変化を嫌う性格はここから来ている。だが現代では思いついた仮説をすぐさま検証し、変化を起こせる人のほうが、より適応力は高い。今は現状維持バイアスの他にも、60~80種類のバイアスが見つかっている。しかしわたしたちはその存在に気づけず、無意識のうちに判断をコントロールされがちだ。アインシュタインの「限りがないものは、宇宙と人間の愚かさの2つだけだ」という名言は、少なくともバイアスに関しては的を射ている。何も対策をとらないままバイアスに飲み込まれると、なす術がなくなってしまう。だが近年ではバイアスに関する研究が進み、その悪影響を和らげるための思考のゆがみを乗り越える科学的な方法も編み出されてきている。これこそが、著者が伝えたい「科学的に正しい限界の突破法」である。

2 / 4

バイアスから逃れて自由になるための方法

合理脳を起動する

バイアスに抵抗したければ、前もって脳の合理的なシステム(=合理脳)を動かしておくしかない。効果的な方法の例は次の通りだ。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3312/4681文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2019.09.05
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

ハーバードの心理学講義
ハーバードの心理学講義
児島修(訳)ブライアン・R・リトル
EQ2.0
EQ2.0
関美和(訳)トラヴィス・ブラッドベリージーン・グリーブス
0秒で動け
0秒で動け
伊藤羊一
心を強くする
心を強くする
サーシャ・バイン高見浩(訳)
自分の頭で考える
自分の頭で考える
松村謙三
世界で学べ
世界で学べ
大谷真樹
天才とは何か
天才とは何か
ディーン・キース・サイモントン小巻靖子(訳)
僕は君たちに武器を配りたい
僕は君たちに武器を配りたい
瀧本哲史

同じカテゴリーの要約

壁打ちは最強の思考術である
壁打ちは最強の思考術である
伊藤羊一
しんどい世の中でどうすれば幸せになれますか?
しんどい世の中でどうすれば幸せになれますか?
橘玲樺山美夏
とりあえずやってみる技術
とりあえずやってみる技術
堀田秀吾
無料
肩書がなくても選ばれる人になる
肩書がなくても選ばれる人になる
有川真由美
子どもが本当に思っていること
子どもが本当に思っていること
精神科医さわ
忘我思考
忘我思考
伊藤東凌
ハーバード、スタンフォード、オックスフォード… 科学的に証明された すごい習慣大百科
ハーバード、スタンフォード、オックスフォード… 科学的に証明された すごい習慣大百科
堀田秀吾
ハーバードの心理学講義
ハーバードの心理学講義
ブライアン・R・リトル児島修(訳)
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
榎本博明
1つの習慣
1つの習慣
横山直宏