企業がCMを打つのは、商品を売るためである。しかし、CMは商品を売るための手段であるという、当たり前のことが忘れられている。CMクリエイターたちはスポンサーを見ずに、スポンサーの金を使って自分たちの作りたい作品を作る。商品を売るためのストレートなCMはダサいと切り捨て、商品が売れないイメージCMを作る。それでは一体何のためのCMであろうか。
CMなどの宣伝広告費は、大企業であるほど巨額になるので、本来なら経営トップが自ら仕切ってやるべきだ。もし担当役員や部長レベルに宣伝広告を任せれば、CMクリエイターに丸投げしてしまう。そして反響や期待どおりに売り上げが伸びなかった場合、広告代理店に責任転嫁すれば、自分の立場は安泰だ。丸投げされるCMクリエイター側からすると、スポンサーの金で勝手気ままなCMを作り続けているというのが広告業界の現状である。
著者は8年前にハズキルーペ事業をスタートさせ、当初の2年間だけでも50億円の宣伝広告費をかけたという。有名俳優の石坂浩二氏を起用してテレビCM、電車広告、全国紙の全面カラー広告、チラシ、雑誌など大々的に展開した。しかし、取り扱い店舗の数が伴わず、全国的な認知を獲得するまでには至らなかった。積極的に打って出るには早すぎたのだ。いわゆる宣伝広告費倒れであった。
ただ、石坂浩二氏を起用したことで新規の店舗開拓が一気に進み、知名度は確実にアップした。地道に新規開拓を進め、1万6000店舗の店舗網を構築することができた。
次は、地上波で大々的にCMに打つ戦略に転じた。それまでシニア層向けに宣伝広告を集中させてきた結果、ハズキルーペはシニア向けが定番イメージになりつつあった。が、ルーペは若い人が使っても便利なものだ。若い人をキャスティングすることで、今までCMを見ても、自分には関係ないと無視していた若い層を振り向かせることができると考えた。
そのため次のCMには、大物俳優舘ひろし氏と慶應大学生でミス日本に選ばれた松野未佳氏を起用することに決めた。そして、冬季オリンピックのメインスポンサーとなり勝負に出た。ハズキルーペのスポンサーロゴもバンバン流れたことで、ハズキルーペの知名度は一気に全国区となり、取扱店舗数は2019年1月には5万5000店舗を超えた。ちなみに、セブン・イレブンの店舗数は2万店舗である。
その次に制作したのが渡辺謙氏と菊川怜氏を起用したCMである。渡辺謙氏はハズキルーペのCMに出演するにあたり、「怒り」をテーマとして自ら考えたCM案を、レポート用紙に書いて渡してくれたという。渡辺謙氏のアイデアでいこうと決めて、大手広告代理店にCMクリエイターの依頼をした。
しかし、有力なクリエイターたちが出してきた案には、どれも渡辺謙氏のアイデアは活かされていなかった。著者は憤慨してクリエイターたちをクビにした。
そして、クリエイターに任せるのはやめ、絵コンテを書いた下請け制作会社のスタッフ全員を招集した。数日後に約10人の制作会社のスタッフが会議室に集結した。そこで著者は自分で考えた企画を伝え、イメージCMではなく商品の機能と商品名を俳優が言う、ストレートトークのCMにしたいとプレゼンした。スタッフらは緊張しつつも「やってみます」と応じた。
新たに出されたCM案絵コンテを見て、著者は再び落胆した。
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