三つ編み

未読
日本語
三つ編み
出版社
定価
1,760円(税込)
出版日
2019年04月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

本作は直近の「新井賞」受賞作である。「新井賞」とは、受賞すれば「直木賞より売れる」といわれるほど、いま文芸で最注目の賞である。カリスマ書店員新井見枝香さんが独断で選んでいる。

作品の主人公となるのは3人の女性だ。インド、イタリア、カナダという異なる場所に住む彼女たちのストーリーが順番に、テンポよく展開されていく。それぞれが試練や困難に見舞われつつも、彼女たちは運命に流されるままにはならない。3人は自分の意思で立ち上がり、一歩、また一歩と前へ進んでいく。それと呼応するかのように、「髪」が3つの人生をたぐりよせ、重ね合わせていく。心の中で彼女たちを応援しながら、そして物語の展開の妙に驚かされながら、一気読みせずにはいられない。

さらに、本作はただ魅力ある小説というだけではない。女性が社会から受ける抑圧を三者三様に描き出しており、フェミニズム小説の流れを汲む。幅広い層の支持を得て、原書が刊行されたフランスでは100万部の売行きを突破し、32言語での翻訳が決定しているという。いま、フェミニズムは世界的に大きなトレンドとなり、日本にも確かな波が起こっている。書籍の世界では、韓国発のフェミニズム小説『82年生まれ、キム・ジヨン』は異例のヒットをとばし、フェミニズムを特集した季刊誌「文藝」はなんと17年ぶりに重版をしたという「事件」が起こった。

このような時代のうねりをとらえた良作を、読まずにいるのはあまりに惜しい。ぜひ、まっさらな心で物語を味わってみてほしい。なお、サスペンス的魅力のある小説なのであえてお断りしておくのだが、以下は物語の核心や結末に触れる部分もあるので、気になる方はどうぞご注意いただきたい。

ライター画像
熊倉沙希子

著者

レティシア・コロンバニ
フランス・ボルドー生まれ。映画監督、脚本家、女優。監督作品に、オドレイ・トトゥ主演『愛してる、愛してない…』(日本公開2003年)などがある。初の小説である本書は、刊行前から16言語で翻訳権が売れて話題をあつめ、2017年春の刊行後にはまたたく間にベストセラーとなり、フランスで100万部を突破、32言語で翻訳が決まった。著者自身の脚本・監督による映画化が進められている。

本書の要点

  • 要点
    1
    3人の女性がそれぞれ自分の人生を切り開く姿を描いた、フランスのミリオンセラー小説。
  • 要点
    2
    インドの不可触民「ダリット」のスミタは、娘に同じような生き方はさせまいともがく。イタリアの毛髪工場の娘、ジュリアは、突然の父親の事故にショックを受ける。気持ちが乱れているさなか、異国の青年と恋に落ちる。カナダのやり手弁護士サラは、子供も家もキャリアも手に入れた成功した女性と見られていたが、思いがけない病を得てしまう……。そして3人の運命が動きはじめる。

要約

はじまりの朝

スミタ――インド、ウッタル・プラデーシュ州、バドラプールの村
prabhjits/gettyimages

スミタはとくべつな気持ちで目を覚ます。今日は彼女の娘が学校に入る日だ。

スミタ自身は学校には縁がなかった。不可触民、「ダリット」である彼女は、カーストの外、あらゆる制度の外にある。ほかの者に混じるにはあまりに不浄な存在として。

ジャート族の畑のそばのあばら家で寝起きし、毎朝、悪臭を放つ藤籠を持つ。母から受け継いだ藤籠に、他人の糞便を一日中拾い集めるのだ。初めて母の仕事についていったのは、今のラリータと同じ、6歳のころだった。あまりの悪臭に、スミタは道ばたに吐いた。政府が約束したトイレはまだ村にはなく、人は野外で用を足す。恵まれた者は自宅の隅に専用の穴をしつらえ、それを素手で汲みだすのがダリットの女だ。ジャート族に逆らえば、家に火をつけられ、土地を追われる。ばらばらに切断され、酸で焼かれた姿で見つかった同輩もいる。

いつしかスミタは決めたのだった。娘を学校へ行かせる。娘は自分と同じことはしない。スミタは、反対する夫のナガラジャンを粘り強く説得した。ナガラジャンは折れて、村の学校へ行ってバラモンと話をした。

スミタは運がいい。ここでは普通、妻は夫の所有物であり、奴隷である。生まれた子が女の子なら殺されるが、ナガラジャンはラリータを育てることに賛成してくれた。

ラリータは美しい娘だ。スミタは、ラリータの長い髪を毎朝とかして編む。ラリータは読み書きができるようになる。そう思うと嬉しくなる。

ジュリア――シチリア、パレルモ

ジュリアは母の呼び声でしぶしぶ起き上がる。また読書で夜ふかししたので起きるのがつらい。

自転車に乗り、大通りから離れた袋小路に着くと、そこが作業場だ。従業員更衣室で仕事着に着替え、髪をきつくまとめて三角巾で覆う――自分の髪の毛が、作業場で加工される髪に混ざらないように。この姿になれば、もはや社長の娘ではなく、ランフレッディ社の一員となる。

ジュリアはここで、にぎやかな女たちと発注すべき注文品に囲まれて育った。毛髪は機械でほぐされ、洗浄され、窓辺に干された。一家が毛髪(カスカトゥーラ)を生業にして一世紀近くが経つ。シチリアの伝統で、抜け毛や切り髪は保存され、ヘアピースやかつらに加工される。ジュリアは16歳になったとき、高校を辞めて作業場を手伝うことに決めたのだった。ほかの姉妹は家業に興味を示さなかった。

ジュリアは父から秘伝の技術を習った。父の毛髪の扱いには、忍耐、厳密さ、そして愛がある。

その日の午後のこと、作業場の女たちのひとりが、電話があったことをジュリアに告げた。「パッパが大変なことになった」

サラ――カナダ、モントリオール
franckreporter/gettyimages

毎朝、サラは五時半に起きる。一日は分刻みに正確に決められ、準備され計画されている。朝食をととのえて、長女と双子を学校に送り、法律事務所に向かう。

サラ・コーエンは、権威ある法律事務所ジョンソン&ロックウッドにおいて、アソシエイト弁護士にのぼりつめた最初の女性だ。ハードワークで「ガラスの天井」など粉砕した。敵意を向けてくる野心家の男たちのあしらいは

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