市場を変えろ

既存産業で奇跡を起こす経営戦略
未読
市場を変えろ
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既存産業で奇跡を起こす経営戦略
未読
市場を変えろ
出版社
かんき出版

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出版日
2019年09月17日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

イノベーションで最も有利なポジションにいるのは、スタートアップのベンチャー企業でもなければ、ヒト・モノ・カネの揃った大企業でもない。成熟市場にいる中小企業だという。本書のテーマは、こうした発想にもとづく「レガシーマーケット・イノベーション(LMI)」である。これは単なる机上のコンセプトではない。著者が経営者として実践し、実証してきた、イノベーションの手法である。

レガシー、つまり伝統的なマーケットといってもいろいろなものがあるが、著者の場合は、父親が創業したサイン&ディスプレイ事業の会社である。看板屋のマーケットに新しいアイデアやテクノロジーを導入し、収益性を高め、イノベーションに富んだ商品やビジネスモデルをつくり出す。そして「あの業界で働きたい」と誰もが憧れるようなマーケットに刷新する。それがLMIのめざすところである。

「イノベーションは中小企業とは縁遠いもの」。こうした、世間が陥りがちな後ろ向きのバイアスを逆手にとる発想が、実にイノベーティブである。

近年では、事業継承が難しく、やむなく廃業する中小企業が増えているという。これが日本経済の地盤沈下の一因ともいわれている。もし、こうした企業がLMIを取り入れて力強さを取り戻していけば、私たちにはどれほど明るい明日が待っているだろうか。そう思わずにはいられない。成熟産業の企業を率いる経営者や社員の方々が、夢の続きを描き、実現するための戦略を学ぶうえで、本書は格好の一冊だ。

ライター画像
しいたに

著者

永井 俊輔(ながい しゅんすけ)
クレストホールディングス株式会社代表取締役社長。1986年群馬県生まれ。早稲田大学卒。株式会社ジャフコでM&Aやバイアウトに携わった後、父親が経営する株式会社クレストに入社。CRM(顧客関係管理)やマーケティングオートメーションを活用して4年間で売り上げを2倍に拡大し、同社をサイン&ディスプレイ業界の大手企業に成長させる。
2016年に代表取締役社長に就任。ショーウィンドウやディスプレイをウェブサイト同様に正しく効果検証するリアル店舗解析ツール「エサシー」を開発するなど、リアル店舗とデータサイエンスの融合を実現。成熟産業にITやテクノロジーを組み合わせ、新たな価値を生み出すLMI(レガシーマーケット・イノベーション)の普及に尽力。
2019年9月にホールディングス化に伴い、クレストホールディングスの代表取締役社長に就任。複数の事業会社を束ねるレガシーマーケット・イノベーションの企業群を構想している。

本書の要点

  • 要点
    1
    成熟産業の企業には、さまざまなアセット(資産)がレガシーとして揃っている。レガシーを生かした新しい商品をつくり、業界外の新しい技術やビジネスモデルを学び、既存の市場を自ら刷新していく。これが「レガシーマーケット・イノベーション(LMI)」である。
  • 要点
    2
    LMIではまず、既存事業の効率化と改善に取り組み、生産性を上げて、利益の最大化を狙う。
  • 要点
    3
    次に、自社のアセットと新しい技術、あるいは社会課題との新しい結合を考え、イノベーションにチャレンジしていく。これにより、成熟産業を成長産業に刷新することが可能となる。

要約

【必読ポイント!】 レガシーマーケット・イノベーション

レガシーマーケットの課題

レガシーマーケット・イノベーション(LMI)とは、「レガシーマーケットにイノベーションを起こすこと」である。では、レガシーマーケットとはどのようなものだろうか。

ここで、「市場の成長性」と「生産性」の2軸のマトリックスを思い浮かべてほしい。市場の成長性が低く、生産性も低いニッチな産業が、本書で呼ぶレガシーマーケットである。ここに属する中小企業がレガシー企業である。

著者は、投資ファンドを辞めて、父親が興した会社に入社した。看板の製作施工やショーウインドウディスプレイの設計施工などを手がける、「サイン&ディスプレイ事業」を中核とした会社である。主要な業務は、リアル店舗の看板やディスプレイの企画・製作だ。イーコマースが進展するいまの時代では、とても成長産業とは呼べないだろう。

入社して著者が最初に感じたのは、中小企業には非効率な部分が多いということだった。しかし、非効率ということは、改善の余地が大きいということでもある。

豊富なアセットに気づく
gorodenkoff/gettyimages

仕事に打ち込むうちに著者が気づいたのは、自社内にある豊富な「アセット」だ。例えば、商品をつくる技術、既存顧客とのつながり、技術力のある社員、既存事業が生み出す利益など、あらゆるリソースが揃っている。こうした過去から引き継いできたリソースを、かけがえのない固有の資産と捉え、著者は「レガシー」と呼んでいる。

レガシーの価値を認識し、レガシーを生かした新しい商品をつくる。同時に、業界の外にある新しい技術やビジネスモデルを学び、既存の市場(レガシーマーケット)を自らの手で刷新していく。この一連の道のりをまとめたのが、本書で提唱される「レガシーマーケット・イノベーション(LMI)」だ。

危機感の欠如と諦め

レガシーマーケットは、ニッチな市場と言い換えてもいい。ニッチだからこそ、中小企業が生き残っているともいえる。また、長年にわたりビジネスモデルや市場シェアの構造が変わっていないことが多く、あまり変化が起きていない可能性もある。

変化がないことを楽観的に捉えると、「自分たちは安泰」という危機感の欠如につながる。一方、「イノベーションはベンチャーの専売特許だ」と、悲観的に捉えるとどうか。それは「何をしても変わらない」という諦めを生み出してしまう。これは思考停止といえる、非常に危うい状態だ。

ディスラプターの存在
Nuthawut Somsuk/gettyimages

市場は常に変化するため、どの時代も市場シェアを大きく歪めたり、市場のサイズを変えたりする何かが登場する。この何かのことを「ディスラプター」と呼ぶ。

ディスラプション(崩壊)は、ビジネスでは創造的破壊などと訳される。既存の市場を崩壊させる技術や、その技術を用いて新たな商品やビジネスモデルを生み出す会社がディスラプターだ。

ディスラプターはベンチャー企業とは限らないが、ここではベンチャー企業の経営者の視点で考えてみよう。彼らは、いきなり体力のある大企業が支配する市場に挑もうとは思わないだろう。まずはニッチな市場で足場を築こうと考えるにちがいない。そこで、ニッチな市場のさらにニッチな領域を深掘りしていく。そしてまだ誰も手をつけていない課題を発見し、それを解決するソリューションを開発し、マーケットに参入する。それが彼らの手法である。

ときにはアマゾンやウーバーのように、マーケット全体をディスラプトしてしまう例が出てくる。このように、外から参入してくる人たちは、「変えられる」「変えてやろう」と考えており、その熱量は凄まじいものがある。

レガシー企業のアドバンテージ

レガシー企業には、レガシーアセットというアドバンテージがある。イノベーションを起こすために、こうしたアセットをフルに活用するのがLMIのアプローチだ。

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要約公開日 2019.10.03
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