世界はなぜ「ある」のか?

実存をめぐる科学・哲学的探索
未読
世界はなぜ「ある」のか?
世界はなぜ「ある」のか?
実存をめぐる科学・哲学的探索
未読
世界はなぜ「ある」のか?
出版社
早川書房
定価
2,750円(税込)
出版日
2013年10月24日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.0
革新性
5.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「なぜ何もないのではなく、何かがあるのか」。

「なぜ?」を問う超究極的設問であるこの問いは、1714年にドイツの知の巨人ライプニッツが提起した。その後、ヒュームやカント、ショーペンハウアー、ベルクソン、ハイデッガー、ヴィトゲンシュタインなど多くの名だたる思想者がこの「存在の謎」を論じてきた。

著者であるジム・ホルト氏は高校生の時、初めてこの存在の謎に出会い「その単刀直入さ、純粋さ、純然たるパワーに圧倒された」という。そしてこの謎の解明に向けて、現代に生きる哲学者、神学者など様々な思想家のもとを訪れ、存在の謎を探求する旅を思いつく。本書では、著者が思想家に実際に会い、得られた知見や考えが、対談を交えながらジャーナリスティックに綴られている。本書の原著は2012年に出版され、翌年にはニューヨークタイムズのベストセラーにランクインしている。

先に結論を述べれば、存在の謎に対する完全かつ明確な答えを本書から得られる訳ではない。むしろ読了後、ゴールの見えない終わり方に漠然とした焦燥感を感じるだろう。それは存在の謎が持つ圧倒的な思考の余地と、未知の世界を垣間見た興奮から来る知的好奇心の一つではないだろうか。著者はこれを「自身の持つ世界を超えた思索の飛翔」と捉え、「あたかも彼らの思考プロセスを覗き込む特権を与えられたかのよう」と表現している。

「究極のなぜ?」に試みる本書は、科学者はもとより、常に「なぜ」を考えることが求められる現代のビジネスパーソンにも勧めたい書である。自身の世界に囚われず、自由な思考者であるジム・ホルト氏と共に知的探求の旅に出よう。

著者

ジム・ホルト
アメリカの哲学者・作家。ニューヨーカー誌、ニューヨーカータイムズ紙などに科学や哲学に関する記事を寄稿する。著書に本書のほか「STOP ME IF YOU’VE HEARD THIS」がある。ニューヨーク市グリニッチ・ヴィレッジに在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    「なぜ何もないのではなく、何かがあるのか」という問いは、なぜ?を問う究極的設問である。
  • 要点
    2
    大胆な問題自体への疑問提起。そして徹底的な懐疑。解決しなくて良い問題は身近にも存在するのかもしれない。
  • 要点
    3
    問題を言い換えてみること、問題そのものを疑うこと、ツールを使って問題をかみ砕くこと、そして思考の順序を組み立て直すことで、新しい知見が生まれる。

要約

存在の謎

Neven Bijelic/iStock/Thinkstock
ビッグバンの前には何があった?

存在の謎である「世界はなぜ「ある」のか?」という問いは、言い換えれば「何も無いとは何か?」となる。では「何も無い」とは何を示すのだろうか。

著者は「何もない」ということをビッグバン(大爆発)の「前」に例えている。現在、宇宙は膨張していることが観測によって推測されている。膨張しているということは、時間を逆に辿ると、もとは1点に集中することを示している。この宇宙のすべてが1点に集中した状態からビッグバンが起き、宇宙が広がり全てが始まったとされている。

ここで「何も無いとは何か?」が具体的な例となって我々の前に現れる。すなわち全てが始まる前、ビッグバンのその瞬間に「何が爆発したのか?」「なぜ爆発したのか?」。そして「爆発する前に何があり何が起こっていたのか?」だ。このように解釈されれば、存在の謎は哲学の領域から「物理学」「宇宙工学」など理系にも扱える領域に変化する。

現代宇宙論の第一人者であるスティーブン・ホーキングは、「この方程式に生命を吹き込み、この方程式で記述される宇宙をつくるのは何だろうか」と考え、時間は有限だが自己完結型で始まりも終わりもないとした「無境界モデル」を組み立てた。しかし、一応のモデル化をした彼でさえ、存在の謎に対する完璧な解答が得られるかは疑問だという。「宇宙はなぜ、存在するという面倒なことをするのか?」という彼の言葉は疑問を端的に表している。

著者はこの思索の中で「宇宙は、物理的に存在する各種のものからなる」と指摘している。すなわち「科学的な説明は、何らかの物理的な原因を必要とする。だが、どんな物理的な原因も当然ながら説明されるべき宇宙の一部だ」とし、「宇宙の存在を純粋に科学的に説明しようとすれば、どれも循環論法にならざるを得ない」のだ。現代科学が、ビッグバン後の世界で発見された法則である限り、ビッグバン前の「何も無い」を科学で説明することは難しそうだ。

【必読ポイント!】存在の謎の否定

Techin24/iStock/Thinkstock
問題に疑問を呈する

「その謎は存在しない」。第2章の冒頭で『論理哲学論考』から引用されたこの文は、強烈な提起である。すなわち問題自体を見直せ、という事だ。

1889年にオーストリアに生まれたウィトゲンシュタインは、生前に刊行した唯一の書物『論理哲学論考』の中で「神秘的なのは、世界における物事の『あり方』ではなく、世界が存在するという『そのこと』である」と述べた。つまり存在しているということだけで十分であるという。

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要約公開日 2014.06.17
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