食べる人類誌
火の発見からファーストフードの蔓延まで

未 読
食べる人類誌
ジャンル
著者
フェリペ・フェルナンデス=アルメスト 小田切勝子(訳)
出版社
早川書房
定価
1,000円 (税抜)
出版日
2010年06月10日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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火の発見からファーストフードの蔓延まで
著者
フェリペ・フェルナンデス=アルメスト 小田切勝子(訳)
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ジャンル
出版社
早川書房
定価
1,000円 (税抜)
出版日
2010年06月10日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.0
革新性
4.0
応用性
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レビュー

本書は、「生きるための原点となり不可避の行為である『食』に焦点を当てて、人類史的にどのような過程を歩んで今日まで来たかを、身近な食べものや料理を例にして論述した」ものである。文庫とはいえ491ページものボリュームがあるが、読み進めるほどに、各章で述べられている内容がつながり、理解が深まっていくのがおもしろい。

8つの章ではそれぞれ、「食」に関する「革命」を1つずつ取り上げている。まずは、人類最初の科学的な革命とされる「調理の発明」。そして、生命を維持するだけではなく、食べることが「儀式や魔術としての意味をもつようになった」こと。食べるために動物を飼育し、植物を管理する「放牧」や「農業」。さらに、「高級料理の出現」――食べ物は社会分化の手段や指標として使われるようになったという考え。植物の種子やさまざまな生態系が一国にとどまらずに他国にまで伝播していったこと。そして最後に、爆発的な人工増加に伴い肥大化した農水産業に対応して形成された、加工、冷凍、運搬、流通システムなどを含む「食べ物産業の巨大化」だ。

高級料理として懐石料理が出てきたり、数百万人もの人々を飢えから救った「緑の革命」で農林10号という日本で開発された小麦の品種が高く評価されていたりと、世界規模での食に関する記述の中で、日本の食についても好意的に触れられているのが何だか誇らしい。

著者

フェリペ・フェルナンデス=アルメスト
英国の歴史学者。1950年ロンドン生まれ。オックスフォード大学で歴史学を学び、同大現代史学科をはじめ、ロンドン大学(クイーン・メリー・カレッジ)、タフツ大学などで長く教鞭を執る。2009年よりノートルダム大学歴史学科教授。一般向けの歴史書でも知られ、『ミレニアム――文明の興亡この1000年の世界』『人間の境界はどこにあるのだろう?』『世界探検全史――道の発見者たち』など多数の著書がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    調理とは、単に食べ物を煮炊きする方法ではなく、決まった時間に集団で食事することを中心にして社会を組織する方法である。
  • 要点
    2
    食べ物が、階級を表し、身分を定めるものになったのは、記録が残っていないほどはるか昔、一部の人がほかの人より多くの食料資源を要求しはじめたときのことである。人類の歴史には、みなが平等な黄金時代は一度もなかった。
  • 要点
    3
    電子レンジによって、「調理(決まった時間に集団で食事することを中心に社会を組織するもの)」という、食べ物の歴史上最初の大革命が取り消される危険にさらされている。

要約

火を使った調理がわれわれに与えたもの

mathieu boivin/iStock/Thinkstock
生の食べ物が魅力的なのは、進化を逆戻りするように思われるから

現代の数ある西洋料理の中で、調理をほどこさずに生きたまま食べるのは牡蠣だけだと著者は言う。「牡蠣は、われわれが食べている料理の中で『自然な』食べ物に最も近い。『生のまま』と呼ぶのにふさわしい唯一の料理である」と。一部のキノコや海藻など若干の例外はあっても、われわれが食べている果物や野菜は――木から摘んだ「野生の」キイチゴでさえ――何世代もの非常に長い年月をかけて、人間が選択的に品種改良した結果である。その点、牡蠣は自然淘汰の産物であって、人の手はほとんど加えられていない。そして、われわれはその牡蠣を生きたまま食べる。

生の食べ物としてはかなり珍しいことに、牡蠣はふつう加熱調理によって駄目になる。牡蠣をベーコンで包んで串刺しにしたり、さまざまな種類のチーズをたっぷりと牡蠣にかけたり、オムレツに入れたりする。こうした試みは楽しみとしてはかまわないが、それによって美食術の最前線が前進することはまずないのである。

牡蠣は極端な例だとしても、生の食べ物が魅力的なのはそれが奇異だから、つまり文明以前の世界、いや人類が出現する以前の進化の段階へと逆戻りするように思われるからだ。人間固有の特異な習慣というのは比較的少ないが、調理はそのひとつである。ただし、調理が発明されたのは最近のことなのだ。

もちろんこれは、「調理」という言葉が何を意味するかで変わってくる。農耕は調理の一形態だと考える人もいる。ローマの詩人ウェルギリウスが「地を焼く」と言ったように、農耕とは焼けつく太陽に土くれをさらし、土をかまどにして種子を焼く行為だというのだ。また、狩猟社会では、獲物を仕留めた男たちが、獲物の胃の、なかば消化された内容物を報酬として食べることがよくある。これは一種の自然な原調理――知られているかぎり、加工された食物を食べる最古の例――である。マリネは、長時間漬けこめば、加熱したり燻製にしたりするのと同じくらいの変質作用がある。肉をつるして熟成させたり、放置して少し腐らせたりするのは、口当たりをよくし、消化しやすくするための加工法である。この方法は明らかに、火を使った調理より古い。ほかにも食べ物を変質させる驚くべき方法がたくさんある中で、燃える火による調理が特別扱いされるのはなぜだろう。

決まった時間に食事をすることで社会を組織する
Randy Faris/Fuse/Thinkstock

答えは、火で調理した食べ物の社会的効果にあるという。調理が歴史上の偉大な革命的発明のひとつと呼ばれるのにふさわしいのは、食べ物を変質させるからではなく、社会を変容させるからなのだ。

焚き火は、そのまわりで人びとが食事をともにするとき、親交の場を提供する。調理とは、たんに食べ物を煮炊きする方法ではなく、決まった時間に集団で食事することを中心にして社会を組織する方法なのである。調理によって新しく専門的な役割が生まれ、楽しみや義務が共有されるようになる。

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