フラクタリスト ―マンデルブロ自伝―

未読
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フラクタリスト ―マンデルブロ自伝―
出版社
早川書房
定価
3,080円(税込)
出版日
2013年09月20日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

経済学の分野における複雑な株価の変動と、流体力学における乱流が同じ理論から説明できることを知っているだろうか?「自然界に存在する一般的なパターンのほとんどはラフである」と、著者でありこの物語の主人公であるマンデルブロはいう。私たちの生活の大部分は、不均一で不均衡な「ラフネス」で支配されている。しかし、これまでこの不均一性を数理的に表現することはできなかった。しかし、その複雑だがスケール不変な現象を「フラクタル」という概念で単純な数学で説明できるようにしたのが、数学界の異端児であるベノワ・B・マンデルブロである。

本書はマンデルブロが自身の人生をまとめた回想録である。彼の初めての発見は、博士課程のときに研究した「語の出現頻度とその順位の関係」について、べき乗則というスケール不変の統計モデルにのっとっていることを証明したことだった。また、市場全体の株価の変動と綿花の価格変動の関係性を数学的に説明しただけでなく、熱力学、流体力学など様々な複雑な現象を単純な数学で説明した。そして、彼の一番の功績は「どんなに拡大しても複雑な図形」という概念に言及した、幾何学的にも美しい「フラクタル幾何学」を創りだしたことである。一見、じつに単純な数式を繰り返すことで、自然界でみられる山脈や島と同じような図を数式で描くことができるのだ。

本書が完成する直前、マンデルブロは2010年に亡くなっている。彼の後を継ぐ「フラクタリスト」達が、世の中のラフネスを解き明かし、未来を予測する時代を創る日が楽しみである。

著者

ベノワ・B・マンデルブロ
エコール・ポリテクニーク卒業後、パリ大学で数学の博士号を取得。研究者としてIBMに35年以上、教授としてイェール大学に17年間在籍。フラクタル幾何学の父として最もよく知られ、情報理論、経済学、流体乱流、非線形動力学、地球物理学などの幅広い分野における現象に関するわれわれの理解に革新をもたらした。著書に『フラクタル幾何学』、『禁断の市場』(リチャード・L・ハドソンと共著)ほか多数。2010年10月14日没。

本書の要点

  • 要点
    1
    マンデルブロは全体と部分が相似形なものを「フラクタル」と呼び、その数学的表現を発明した。これはブロッコリーの形状や海岸線だけでなく、市場原理、言語分析など幅広く適応することができる。
  • 要点
    2
    フラクタルの考えを最初に思いついたのは、市場全体における価格変動と綿花の変動がとても似ているという、経済学の世界に触れたことからであった。結果として、実際に起こる大幅な価格変動を説明するには、彼のモデルにより正確に反映することができる。
  • 要点
    3
    「異端児」として彼が人生を全うできたのは、家族、特に数学者である叔父のショレムから学び、エコール・ポリテクニークで著名な研究者に出会い、IBM、イェール大学と自由な研究が許される場を、手に入れ続けたからである。

要約

幾何学の魅力に取りつかれた高校・大学時代

JacquesPALUT/iStock/Thinkstock
父と叔父、先生が才能を育て開花準備をする

数学者であり、天文学者であるヨハネス・ケプラー(1571〜1630)の偉業を崇拝していた著者マンデルブロの子供の頃からの夢は、彼のような発見をすることだったという。ケプラーはある2つのものを結びつけた。それは、古代ギリシャの幾何学者が発見した「楕円」と、惑星運動には常に「変則(アノマリー)」が存在するという古代ギリシャの天文学者の誤解を結びつけることだった。つまり、彼は数学と天文学の知識を合わせることで、惑星運動は決して変則的に動いているのではなく、楕円軌道上にのっているということを発見したのだ。

著者は、後に自分に訪れる、新しい発見の瞬間を「ケプラー的瞬間」と表現し、「ラフネス(滑らかでなく不均一な形状)」の秩序と美に真摯に挑戦し続けることで、事実、多くの理論の確立を成し遂げていった。

その華やかしい業績をおさめるまでの道のりは、決して順風満帆なものではなかった。ワルシャワのユダヤ系の一家のもとに生まれたマンデルブロは、第二次世界大戦争中に少年時代を過ごし、点々と住む家を移動しながら、生きながらえていった。その間、両親に生きることの全てを学び、心から数学を愛していた数学者の叔父ショレムからもまた、多くの知を受け継いだ。

小さい頃から形と絵画が好きな少年であったが、彼の数学に対する特異な才能が見え出したのが、フランスの山間地チュールにあるリセ・エドモンド・ペリエ高校に通い始めた1939年のころだった。図書館に入り浸り、古い図形や図版がふんだんに入った数学の本を読みふける日々。「私は動物園に動物を集めるように頭の中に図形を蓄えていった」という。中等教育の締めくくりとなる試験、バカロレアでは、主席の「最優等(スマ)」の称号を獲得した。

しかし、戦争が激しくなり、チュールにいられなくなったことから、リヨンのリセ・デュ・パルクへ転校。ここで出会った、数学教授のコワサール先生は、エリート集団の教授陣の中でも抜きん出ており、マルデルブロは毎日、一日の半分はこの先生とともに過ごした。

先生が出す代数的(文字を使った数学)で、やたらと長く複雑な問題は、マルデルブロには幾何学的(図形を使った数学)に見えたという。図形を描き、それを幾つか変換することで調和のとれた答えが見いだせることに快感を覚えていた。彼は複雑な問題に対して、図形をイメージして幾何学的に考えることで、答えが導きだせるのだ。そして、1944年、ようやく戦争が終わった。

パリに安堵が広がる中、マンデルブロにとって大きな悩みは大学をどこにするかであった。エコール・ノルマル・シュペリウール(高等師範学校)と、エコール・ポリテクニーク(理工科学校)は、どちらも科学分野ではフランスの最高峰にあたる。

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