アート思考

ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法
未読
アート思考
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アート思考
出版社
プレジデント社

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出版日
2019年10月31日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書で取り上げられている「アート」は、主に1980年代以降の「現代アート」である。印象派などの近代アートが好まれている日本では、現代アートというとマイナーな印象があるかもしれないが、世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられているのだ。

その本質的な理由は、現代アートが提起する問題や、描く世界観が、ビジネスエリートに求められる発想と共振しているという点にある。著者によれば、「アートとは、ゼロから価値を生み出す創造的活動であり、ビジョンと、それを実現させるための内なる情熱が必要」であるという。このアートを「アントレプレナーシップ(起業家精神)」に置き換えてみるとどうだろうか。まったく違和感がないのではないか。

これからの時代に求められているのは、「正しい問いを立てることができる洞察力とユニークな視点」である。その際、旧来の思考法と異なるオルタナティブな発想としての「アート思考」が役に立つ。その本質とは、「わからないもの」に対して、自分なりに粘り強く考え続ける態度にある。

グローバルな常識ともいうべき現代アートの奥深い世界。本書を通じて、その理解を深め、新しいビジネスを拓く発想法であるアート思考を身につけていただきたいと願う。

ライター画像
しいたに

著者

秋元 雄史(あきもと ゆうじ)
1955年東京生まれ。東京藝術大学大学美術館長・教授、および練馬区立美術館館長。東京芸術大学美術学部絵画科卒業後、作家兼アートライターとして活動。1991年に福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社、国吉康雄美術館の主任研究員を兼務しながら、のちに「ベネッセアートサイト直島」として知られるアートプロジェクトの主担当となる。2001年、草間彌生《南瓜》を生んだ「Out of Bounds」展を企画・運営したほか、アーティストが古民家をまるごと作品化する「家プロジェクト」をコーディネート。2002年頃からはモネ《睡蓮》の購入をきっかけに「地中美術館」を構想し、ディレクションに携わる。開館時の2004年より地中美術館館長/公益財団法人直島福武美術館財団常務理事に就任、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターも兼務する。それまで年間3万人弱だったベネッセアートサイト直島の来場者数が2005年には12万人を突破し、初の単年度黒字化を達成。2006年に財団を退職。2007年、金沢21世紀美術館館長に就任。国内の美術館としては最多となる年間255万人が来場する現代美術館に育て上げる。10年間務めたのち退職し、現職。著書に『武器になる知的教養西洋美術鑑賞』『一目置かれる知的教養日本美術鑑賞』(ともに大和書房)、『直島誕生』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『おどろきの金沢』(講談社+α新書)、『日本列島「現代アート」を旅する』(小学館新書)等がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    現代アートの役割は、過去のしきたりに囚われない見方を創造し、イノベーションを起こすことにある。この点において、最前線のビジネスと共振している。
  • 要点
    2
    現代アートの三大要素は、インパクト、コンセプト、レイヤーである。なかでもコンセプトは現代アートの命といえる。レイヤーとは多様な解釈に対して開かれている重層性を意味する。
  • 要点
    3
    現代アートにとっては、「わからない」ことはよいこととされる。私たちはわからないものに接することで、思考を柔軟に解放できるからだ。

要約

現代アートとはどのようなものか

現代アーティストの思考法
RoBeDeRo/gettyimages

ビジネスの世界ではこれまで、「ロジカル・シンキング(論理的思考)」や、「クリティカル・シンキング(批判的思考)」の重要性が説かれてきた。しかし、現在は、そうした思考法だけでは解決できない問題が山積みである。たとえば、環境破壊、格差、民族紛争、そして資本主義自体のあり方などだ。

そうしたいま、旧来の思考法とは異なるオルタナティブな発想として、現代アーティストたちに共通する「アート思考」に注目が集まっている。それは「今、何が問われているのか?」「課題は何なのか?」を探るための思考法といえる。

アーティストとは、答えを示すのではなく、「問いを発する人」を意味する。彼らの願望は、社会に対する問題提起にある。新たな価値を提案し、歴史に残るような価値を残していけるかどうかを極限まで追求するのだ。この志は、現状を打開し、息の長いビジネスをめざす世界のビジネスエリートの発想と響き合っている。

今後はビジネスパーソンも、アーティストと同様に、クリエイティブな発想がいっそう求められる。そこで、アートを通じて、自分とは異なる世界のありようを想像できるようになり、洞察力やユニークな視点を身につけることが肝要となる。

炭鉱のカナリア

シリコンバレーの多くのイノベーターたちが、現代アーティストへの共感を表明している。それはアーティストが、世の中がまだ気づいていない、これから起きる大きな変化を察知する「炭鉱のカナリア」のような存在だからだ。

とりわけ現代アートは、刻一刻と変化する世界を読み解くヒントに満ちている。1980年代以降、現代アートは、LGBTや地球環境の変化、発達障害、ダイバーシティ&インクルージョン、サステナビリティ、シェアリングエコノミーなどをテーマにしてきた。

時代に先駆けるアートは、社会で理解され、認められるには時間がかかる。現に多くの現代アート作品は、鑑賞してすぐに理解できるものではない。著者自身も、作品のコンテクストから推察して理解できる部分もあれば、わからない部分もあるという。しかし、それをわかろうとするプロセスの楽しさが、現代アートの魅力でもある。「わからないから、つまらない」ではなく、「わからないから、面白い」のだ。

現代アートの真髄は、普段、私たちが当たり前と感じていることをリセットし、再構築するところにある。作品に接する前と後では、世界がまったく異なる様相を呈することも珍しくない。

バックサイド・オブ・ザ・ムーン
DKosig/gettyimages

そうした作品の1つとして、ジェームズ・タレル(1943年~ アメリカ)のインスタレーション「バックサイド・オブ・ザ・ムーン」を紹介しよう。これは著者が携わってきた「家プロジェクト」の一環である。

この作品が収められた建物に足を踏み入れた観客は、真っ暗な空間を、壁を伝って進む。さらに進んで、その先にあるベンチに腰掛け、そのまま10分、20分と、一切光の届かない暗闇にたたずむ。すると暗闇の中に、ぼんやりとした大きな長方形が見えてくる。やがてはっきりと光が見え始め、闇に閉じ込められていた観客は、光によって解放されていく。

照明が変化したのではない。明るい屋外から部屋に入った観客は、最初から存在していた微かな光に、気づけないのだ。しかし、目が闇に慣れるにつれ、ようやく光と闇のコントラストに気づくのである。

このインスタレーションを体験した人は、普段当たり前に感じている光を、不思議な存在として捉え直すことになる。光が存在するということの安心感。それは私たちが世界を感じ、その中に存在していると認識できる安心感である。また、夜の闇の中にも、光が満ちていることを実感するであろう。

このように、タレルの作品を通じて、新たに光を体験することができる。光と闇の再発見は、人々に根づいている先入観や固定観念を壊してくれる。

投資対象としての現代アート

2019年5月15日、クリスティーズ・ニューヨークで、あるオークションが開催された。そこで、ジェフ・クーンズ(1955年~ アメリカ)による作品「ラビット」が、9107万5000ドル(約100億円)で落札された。現存するアーティスト作品の高値記録を更新したのである。

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要約公開日 2020.01.13
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