多様で自由であることは、よいことばかりではない。多様性を楽しめて、カスタマイズが苦にならない人にとってはいいだろう。だが、そうでない人にとっては面倒な世の中になった。そうした時代を楽しく生きるためのキラーアプリが、本書のテーマ「編集思考」だ。
編集思考は、日本組織に特徴的な「縦割り病」の特効薬にもなる。日本の近代史を振り返ると、明治維新、敗戦、戦後の経済成長において、日本は優れたリーダーや経営者を輩出しては、世代交代を機に「縦割り病」に冒されてきた。
こうした状況に陥る原因は、次の3つだと考えられる。人材の多様性の乏しさ、大学教育のあり方、日本型企業のカルチャーだ。
偏差値別や男女別、地域別の教育システムでは、価値観の多様化を促すことはできない。横断的に教養を身につける手段として、海外の大学教育ではダブルメジャーが主流だが、日本では認められていない。また、日本型企業においては、ヒエラルキーのトップにいない限り、個人はリーダーになりえない。こうしたところから、日本に漂う閉塞感が生まれている。
日本に蔓延する閉塞感を払拭するカギは、物事を横串でつないでいくことだ。そのために必要なのが「編集思考」である。編集思考を今の日本で一番実践しているのは、『日本再興戦略』の著者、落合陽一さんだろう。
落合さんは筑波大学の研究者であるほか、スタートアップ企業の経営者、メディアアーティストの顔も持つ。いわば「経済×テクノロジー×文化」という高次元で、各領域の枠を飛び越えたトライアングルの編集を得意とする。
もちろん、それには落合さんの幼い頃の教育環境が関係しているかもしれない。勉強だけでなく、五感を磨くピアノや絵画なども、専門家から直接習っていたからだ。
誰もが幼少期から英才教育を受けられるわけではない。だが先進国では、大人が大学に通う例は珍しくない。一つの専門性にこだわらず、横断的に学びを深めて、活動領域を広げることは誰にでもできる。自分の人生や日本の未来を変えるカギが、「経済×テクノロジー×文化」のトライアングルの編集であることは間違いない。
そもそも編集とは何か。著者は「素材の選び方、つなげ方、届け方を変えることによって価値を高める手法」と定義する。成熟した現代では、新しいものは何かの組み合わせからしか生まれない。そこで欠かせないのが「編集」というわけだ。
たとえば、箱根にあるブックホテル「箱根本箱」。書店の取次を行う日販の元保養所を全面的にリノベーションし、「ホテル×書店」の掛け合わせを行った。その結果、稼働率は8割を超え、本の売上単価は本屋の6倍という、人気ホテルになった。このように、素材の「選び方」「つなげ方」「届け方」を変える。つまり、編集することで価値を飛躍的に高められるのだ。
編集思考には、専門性は必要ない。編集者とは「偉大なる素人」である。あらゆることに好奇心を抱くこと、現状の延長線上にない素人ならではの視点や発想力を持つことこそが重要なのだ。
編集思考には4つのステップがある。「セレクト(選ぶ)」「コネクト(つなげる)」「プロモート(届ける)」「エンゲージ(深める)」だ。
まず、「セレクト」とは素材を選ぶこと。ポイントは、何かが飛び抜けているものを選ぶことだ。完璧なものを見つける必要はない。いいところだけを見て、惚れ抜くことがカギとなる。
たとえば、「奇跡のパウダースノー」で知られる北海道のニセコはどうか。もとはオーストラリアのスキー好きな観光客が、この地に惚れ込んだだけだった。その評判が口コミで広がり、リゾート地にまで発展することとなった。
また素材選びでは、惚れ抜いた後の「直感のダブルチェック」も重要だ。素材がヒトであれば、検証方法は会話に尽きる。会話を通して相手の本質をチェックする。相性が合わないと感じれば、潔く撤退すればいい。
事業であればデータや数字でチェックが可能だ。あらかじめ撤退のラインを決めておけば、直感や情熱で突っ走って痛手を被ることもないだろう。
素材をセレクトしたら、それをいかに「コネクト」するかのセンスが問われる。ここが編集思考のもっともコアな部分となる。
コネクトの法則の1つ目は、「古いものと新しいものをつなげる」ことだ。事例として、ルイ・ヴィトンと米国のストリートブランド、シュプリームとのコラボレーションが挙げられる。これはまさに老舗と新興ブランドがコネクトされたもので、世界規模の大ヒットとなった。
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