人は、なぜ他人を許せないのか?

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人は、なぜ他人を許せないのか?
出版社
定価
1,320円(税込)
出版日
2020年01月29日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

インターネットが普及した今、世の中の出来事を知るのは非常に簡単になった。それは裏を返せば、良いことも悪いことも、瞬く間に広がってしまうということでもある。特に芸能人の不祥事、スキャンダルなどは格好のネタとなる。

そんなときに必ず起こるのがSNSなどでの「炎上」である。問題の当事者でもないのに、行き過ぎたコメントもあるわけである。彼らの指摘は間違ってはいない。だが、それをわざわざ全世界の人々が見られる場で、そんな攻撃的な言葉で叩く必要があるのか。

脳科学者としても著者としても活躍する著者・中野信子氏は、そのような状態を「正義中毒」と呼んでいる。この言葉を目にしたとき、軽い衝撃を受けたと同時に腑に落ちたように感じた。「そうか、あれは中毒状態なのか!」と。

怖いのは、誰しもがその状態に陥る可能性があるということだ。他人に「正義の制裁」を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質のドーパミンが放出される。すると、罰する対象をさらに探し始めるようになってしまう。本書を読むと、それが他人事ではないと身をもって感じられる。こうした負の状況から距離をとるために、できることは何なのか? 「許せない」と思ってしまう人間の脳の仕組み、穏やかに生きるために著者が推奨する脳のトレーニング方法など、知っておきたい内容ばかりだ。「正義中毒」への処方箋として、モヤモヤや生きづらさを感じている方に本書をおすすめしたい。

著者

中野信子(なかの のぶこ)
1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授。著書に『世界で活躍する脳科学者が教える! 世界で通用する人がいつもやっていること』『脳はなんで気持ちいいことをやめられないの?』(アスコム)、『サイコパス』『不倫』(文藝春秋)、『シャーデンフロイデ』(幻冬舎)、『キレる!』(小学館)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。

本書の要点

  • 要点
    1
    他人を許せない「正義中毒」には、誰もが陥る可能性がある。人間は脳の構造上、自分の属している集団以外を受け入れられず、攻撃しやすい傾向にある。
  • 要点
    2
    社会全体で「正義中毒」の方向へと突き進むと、多様性を狭めてしまうことになり、非常に危険だ。
  • 要点
    3
    正義中毒から自分を解放させるには、普段から前頭前野を鍛え、メタ認知の力を身につけることが重要となる。

要約

誰もが陥りかねない「他人を許せない」状態

正義中毒とは?

「清純派キャラの女性タレントが不倫をしていた」。「大企業がCMで差別的な表現をした」。こうした状況は、自分や身近な人が直接不利益を受けたわけではない。だが、面識もない相手に攻撃的な言葉をあびせ、叩きのめさずにはいられない。そんな状態に陥っているとしたら、それは、正義におぼれ、「許せない」が暴走してしまっている状態だ。著者はこれを「正義中毒」と呼ぶ。

正義中毒は誰しもが簡単に陥る可能性がある。とりわけ、ネットやSNSの世界では顕著だ。SNSの広がりが正義中毒を顕在化させ、より強めている。

また、自らの正義をふりかざす快感を味わいつつも、同時にそんな自分を許せないと感じている人も多い。このような相反する感情に苦しめられていては、とても幸せな状態とはいえないだろう。

多様性を狭めた集団は滅亡に向かう
00Mate00/gettyimages

正義中毒の人たちは、一見独自の理論、独自の正義をもっているように見える。だが実際は、自分がターゲットにされることを恐れて、多数派に流れているケースも多い。例えば、Aを「不謹慎だ!」と叩く論調が主流になると、異なる意見をいいにくくなってしまう。

しかし、社会全体でこうした流れに乗り、多様性を狭めてしまうことは、非常に危険である。多様性を狭めることで、短期的には生産性や出生率が上がる。しかし、進化の歴史で見ると滅亡に向かってしまう。たとえば、ある企業では、強引かつ話術の巧みな営業担当者が好成績をあげているため、そうした人材ばかりを集めているとする。だが、ある日規制が強化され、そのような営業ができなくなったとしよう。その企業に、一人でも温厚でロジカルな営業担当者がいれば、営業活動を続けられる。だが、そうした人材の多様性がない場合、その企業は厳しい局面を迎えることになるだろう。

日本社会の特殊性と「正義」の関係

愚かさの基準は国によって異なる

正義中毒は、どこの国のどんな人でもなり得るものだ。しかし、どんな人を逸脱者(愚か)とするかという基準は、国や地域によって大きく異なる。

たとえば日本では、「みんなに合わせられないこと」「みんなと違う行動をすること」が愚かだと考えられる傾向にある。これに対して、著者が滞在していたフランスでは、「みんなと同じこと」や「自分の意見をいわないこと」が愚かだと捉えられがちであったという。

自然災害と閉鎖的環境による影響
omersukrugoksu/gettyimages

では、なぜ日本人は、自分の意見を飲み込むことが好ましいと考えるようになったのか。それは、日本が島国であることや、日本の独特な環境が関係している。まず、降雨量が多く、台風などの風水害のリスクが高いという気候面の特徴があげられる。そしてもう1つの特徴は、日本がプレートの境界にあるため、火山が多く、地震が多発する地域であるということだ。同じ島国としてイギリスがあるが、イギリスでは自分の意見を飲み込む傾向がない理由は、ここにあるようだ。

日本は長い間自然災害に悩まされてきた。そのため、そうした環境に適応できるよう、長期的な予測をして準備を怠らない人たちが生き残ったと考えるのが自然である。

また災害時には、みんなで助け合って復興をめざす以外の方法はない。集団への協力を拒んだり了解事項を裏切ったりすれば、その人物は非難と攻撃の対象となってしまう。このような背景から、日本では、個人の意思よりも集団の目的を最優先するようになっていった。集団の考え方に背くことは社会全体に危機をもたらす恐れがあるとして、無意識に集団主義的思考を採用していたのだろう。

【必読ポイント!】 なぜ、人は人を許せなくなってしまうのか

人間の脳は対立するようにできている

自分と異なるものをなかなか理解できず、互いを「許せない」と感じてしまう正義中毒は、人間の宿命といえる。ただし、人間の脳の仕組みを知っていれば、こうした生きづらさを少しでも解消できるようになる。

そもそも人間の脳は誰かと対立するようにできている。ささいなきっかけで相手をバカだと感じてしまうことは人間の特徴なのだ。

また、長い時間をかけて徐々に他人を許せなくなることもある。その典型としてあげられるのが、「性格の不一致」による離婚だ。彼らは出会った当初は惹かれ合ったわけだが、その理由も、脳科学的には「互いが不一致だから」こそである。

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