首都感染

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首都感染
出版社
出版日
2013年11月15日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

フィクションは、時として現実以上に現実的だ。

本書は、未知の新型インフルエンザが世界中に広がる様子を描いたクライシスノベルである。大まかなストーリーは次のように進む。20XX年に中国で致死率60%の強毒性インフルエンザが出現し、それが世界中に拡散。東京都内にも患者が確認されたため、封じ込めのために空前絶後の“東京封鎖”が行われることになる、という流れだ。

本書が単行本として出版されたのは2010年だが、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックを受け、ふたたび多くの注目を集めている。実際、本書で描かれる事象は、奇妙なほどに今回の状況と一致している。とりわけ群集心理の描かれ方は、とても生々しい。もちろん現実とは異なる面も多いが、「こういう状況で、自分ならどう動くか」「なぜこの人はこういう発言/行動をするのか」と考えながら読むと、より一層興味深く読めるだろう。

「ウイルスと人間。永遠に終わらない戦いだ」と登場人物が語っているように、人類の歴史はウイルスとの戦いの歴史でもある。日頃から未知の事象に対する想像力を培っておくという意味でも、本書のような作品に触れておくことには、大きな意味があるはずだ。現実を雄弁に語るのは、なにもノンフィクションだけではない。「最近小説を読まなくなった」「普段はノンフィクションを読むことが多い」という方も、ぜひお手にとってみてはいかがだろうか。

著者

高嶋哲夫 (たかしま てつお)
1949年、岡山県玉野市生まれ。神戸市在住。慶應義塾大学工学部卒業。同大学院修士課程修了。日本原子力発電所(現日本原子力研究開発機構)研究員を経て、カルフォルニア大学に留学。‘79年、日本原子力学会技術賞受賞。‘94年、『メルトダウン』(講談社文庫)で第1回小説現代推理新人賞、‘99年、『イントゥルーダー』(文春文庫)で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。主な著書に『乱神』『衆愚の果て』(ともに幻冬舎文庫)、『ライジング・ロード』(PHP文芸文庫)、『東京大洪水』『震災キャラバン』『いじめへの反旗』(すべて集英社文庫)、『ミッドナイトイーグル』『風をつかまえて』『サザンクロスの翼』(すべて文春文庫)、『追跡 警視庁鉄道警察隊』(ハルキ文庫)、『命の遺伝子』(講談社文庫)、『東海・東南海・南海 巨大連動地震』(集英社新書)などがある。近著に『紅い砂』(幻冬舎文庫)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    中国で強毒性の新型インフルエンザが発生。かつて感染症対策の専門家として活躍していた主人公は、新型インフルエンザ対策のアドバイザーに任命される。
  • 要点
    2
    主人公たちの奮闘も虚しく、都内で感染者が次々と確認される。これを受けて、総理は東京封鎖を決断する。
  • 要点
    3
    封じ込めには成功するものの、封鎖ラインの中では数多くの感染者が発生し、多くの人が亡くなっていく。人々の我慢も限界に達していた。
  • 要点
    4
    ついに日本でワクチンが開発され、パンデミックの収束が宣言される。東京封鎖も解除された。だが最終的に420万人が感染し、58万人が死亡した。

要約

対策

中国で新型ウイルスが確認される
4X-image/gettyimages

医師である瀬戸崎優司は、もともと感染症対策の専門家として、WHOのメディカル・オフィサーを務めていた。だが仕事に忙殺されるなかで子供を失い、妻とも離婚。スイスから帰国して以降は、大学時代の友人の父が経営する黒木総合病院で内科医として勤務する日々を送っていた。

その頃世界は、中国で行われているワールドカップに熱中していた。日本も中国もともにベスト8まで勝ち上がり、両国の熱狂は最高潮に達している。次の対戦カードは日本対中国だ。だがそんなとき、中国の南西部で強毒性のインフルエンザウイルスが蔓延しつつあるという報告が政府のもとに入ってきた。すでに数千人は死んでいるという情報もある。中国政府もこの異変に気づいているようだったが、その事実は公式には伏せられていた。なんとしてでもワールドカップを成功させたかったからだ。

だがワールドカップが終わるのを待っていると、その間にウイルスが世界中に広がってしまう。総理大臣である瀬戸崎の父は、「新型インフルエンザ対策本部」を立ち上げ、優司に参加してほしいと呼びかけた。一度は断るものの、優司は父の誘いを受けることにする。

募る焦燥感

第1回「新型インフルエンザ対策会議」にアドバイザーとして呼ばれた優司だったが、閣僚たちの間にはあまり危機感が感じられず、今はまだ対策を講じる段階にないという声が多数だった。

厚生労働省からマンションに戻る途中、優司はなじみのスナックに寄った。珍しく店は満員で、全員が日本対中国の試合に釘付けだ。結局、試合は中国が逆転勝ちした。これにより大量の日本人が、中国から帰国することが予想された。

第2回の対策会議の雰囲気は、前回とはまったく違う張り詰めたものになった。「国際空港はすべて封鎖すべきだ」と主張する優司。受け入れられるわけがないとわかっていたが、そうでもしなければ水際対策などできないという考えだった。当然、閣僚からは反発が続出した。とはいえウイルスの潜伏期間を考えると、最低5日間は隔離して様子を見なければならないのも確かだった。

最後は総理大臣の鶴の一声で、すべての乗客をホテルに5日間隔離することが決まった。乗客からは不満が相次ぎ、マスメディアにも批判的な文言が並んだ。だが優司は強い決意で、明日以降も同様の措置を取ると宣言した。

ワールドカップの中止

こうした日本政府の対応について、不気味なほど中国からの反応は薄かった。中国が正式に口を開くのは、ワールドカップが終わってからになるかもしれない。だがそれでは遅すぎる。すでに2~3000人が死亡しているという情報もある。しかし中国は準決勝でイタリアを破り、ブラジルとの決勝に向けて盛り上がるばかりだ。

しかし翌日から突然さまざまな情報が入り始め、中国政府からもその夕方に重要発表が伝えられた。それによると雲南省を中心に原因不明の感染症が広がっており、北京でも複数の患者が確認されたとのことだ。これによりワールドカップ決勝戦は中止となった。

中国の発表を受けて、政府は新型インフルエンザ対策のレベルを引き上げた。強毒性の新型インフルエンザ。WHOがつかんだ情報によると、その感染者数はすでに800万を超えていた。

【必読ポイント!】 感染

広がるウイルス
filipefrazao/gettyimages

日本でも本格的に対策本部が設置され、各省庁に新型インフルエンザ対策室が設けられた。優司は厚生労働省の「新型インフルエンザ対策センター」のセンター長に任命された。

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要約公開日 2020.07.16
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