レビュー
「相続」と聞いたらまず資産が思い浮かぶはずだが、著者のいう「こころの相続」は一味違う。私たちはモノとしての財産だけではなく、「形なきもの」を色濃く相続している。本書は、そうした無形の相続を読者と考えていくために書かれたものだ。
著者の五木寛之氏は、「形あるもの」だけが昨今の相続談義の対象になっていることに疑問を投げかける。私たちが親や家から相続するのは、目に見える財産だけではない。たとえば魚の食べ方や靴の脱ぎ方、歯磨きの仕方。こうした日常の所作に、親や家から受け継いだ、形のない「相続」がたくさん宿っているはずだ。著者は、この無形の相続を「こころの相続」と呼び、その重要性に光を当てていく。これは個人から個人の相続に限らず、社会や国家、文化、歴史などの社会的な相続をも含んでいる。
形のある財産の引き継ぎ方について考えたことがある人でも、形のない財産の相続について考えたことがある人は少ないのではないだろうか。親から引き継ぐ財産などないと思っていた方でも、聞いてみたい思い出話、引き継ぎたい習慣なら、思いつくかもしれない。
「こころの相続」は、忙しい生活ではつい後回しにしてしまいがちなトピックかもしれない。だが、自分が何を相続してきたか、相続したいか、そして子どもや子ども世代に何を相続させたいかを考える時間は、非常に価値あるものだろう。本書を入り口に、「こころの相続」について考え始めてみてはいかがだろうか。
著者
五木寛之(いつき ひろゆき)
1932年福岡県生まれ。朝鮮半島で幼少期を送り、47年引き揚げ。52年早稲田大学ロシア文学科入学。57年中退後、編集者、ルポライターを経て、66年『さらばモスクワ愚連隊』 で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』 で直木賞、76年『青春の門 筑豊篇』 ほかで吉川英治文学賞、2010年『親鸞』 で毎日出版文化賞特別賞。代表作に『朱鷺の墓』『戒厳令の夜』『風の王国』『蓮如』『大河の一滴』『百寺巡礼』 など。英文版『TARIKI』 は2001年度「BOOK OF THE YEAR」(スピリチュアル部門)に選ばれた。02年に菊池寛賞を受賞。09年にNHK放送文化賞を受賞。10年『親鸞』 で 第64回毎日出版文化賞特別賞を受賞。
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本書の要点
要点1
人は親や親世代から、形のないものや目に見えないものを数多く相続している。この無形のものの相続を、「こころの相続」と呼び、その重要性に気づくことが必要となる。
要点2
親は子に、生前できるだけ多く自分たちの歩いた道を語っておくほ...
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