レイシズム

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レイシズム
出版社
出版日
2020年04月08日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

レイシズム、すなわち人種差別は悪いことだとみなが知っているのに、どうしてなくならないのだろうか。私たちの誰もが、心の奥に差別に繋がる思考を抱えているのかもしれない。

「人種」と「民族」はよく混同されてしまう。このことは本書でも指摘されているが、人種とは生物学的な分類で、民族とは言語や文化による分類である。しかし、排外的なナショナリズムは、人種も異なるものとして異民族を排除しようとする。そもそも、異なる外見、異なる文化の人をなぜ差別するのだろうか。

ルース・ベネディクトは、日本を論じた著書『菊と刀』でよく知られている。『レイシズム』は、第二次世界大戦の時期にアメリカ軍の情報作戦と関わりを持つ中で書かれたもので、戦時中のプロパガンダとしての側面を併せ持っている。多民族国家であるアメリカ合衆国において、人種や民族に関係なく誰もが合衆国の兵士として貢献できると宣伝するために、ナチス・ドイツの「アーリア人種至上主義」を糾弾する必要があったのだ。

本書では、人種と人種差別について、科学的な観点からの分析がなされ、歴史的経緯が掘り起こされ、解決策まで差し出されている。レイシズムとは何であるかを鮮やかに示している。あらゆるマイノリティに対する差別がない、みなが共生できる社会をつくるためにはどうすればよいのか。本書は古典と呼べるほどに時代を重ねたものだが、現代の私たちが得られる示唆は大きい。

ライター画像
大賀祐樹

著者

ルース・ベネディクト Ruth Benedict
1887-1948。アメリカの文化人類学者。ニューヨークに生まれ、コロンビア大学大学院でフランツ・ボアズに師事。著書に、『文化の型』『菊と刀―日本文化の型』。

本書の要点

  • 要点
    1
    レイシズムは、生まれながらに我ら民族は正しく優秀であり、純粋な民族に固有な麗しき身体的特徴がある、といった空想的な主張を行う。
  • 要点
    2
    人種とは遺伝する形質に基づく分類法の一種であり、言語や文化による分類ではない。歴史上多くの人種が混交してきたため、多様性があって一概に分類できない。
  • 要点
    3
    人種間の優劣は存在せず、育った環境による違いの方が大きい。
  • 要点
    4
    レイシズムは近代ヨーロッパで初めて生まれた。問題は「人種」ではなく「差別」の方である。

要約

レイシズムとは何か

ヨーロッパ文明が産み落とした
silvestra/gettyimages

長い歴史の中で、人類は互いを殺し合うための様々な理由を探してきた。だが、人間の身体的特徴を戦争や大規模な迫害の根拠として挙げ、実行に移すまでになったのは、ヨーロッパ文明が初めてである。レイシズムは西洋人がこの世に生み出したのだ。

受精の瞬間から何もかもが決定されているというような前提が、レイシズムには備わっている。このような空想からは、「純粋な」民族が歴史を通じて国をずっと治めてきたとか、純粋民族に固有な「麗しき」身体的形質があるといった主張が生まれた。レイシストは自分たちの主張を根拠づけるために絶えず歴史を書きかえる。もっとも偉大であるのは我々だとする不条理な主張の多くは、「科学」という客観的知識の積み重ねに依拠しているかのように提示されている。

現代社会を生きるうえで、レイシズムを無視して済ませることはもはや不可能だ。であれば、次のようなことを考えていかねばならない。出発点となる事実や、それに対して発せられる言葉はどのようなものか。その背後にはいかなる性質をもつ論理があるのか。

人種とは何であり、何でないのか

「人種とは、遺伝する形質に基づく分類法の一種である」というのが、人種のもっとも簡潔な定義である。したがって問題となるのは、遺伝現象そのものと、遺伝によって伝わった形質だ。これら生物学的な遺伝と、社会的に学習されるものとの間の区別が曖昧になると、議論は必ず迷走する。だからまず、人種とは「何ではないか」を明らかにしなければならない。

人種とは、その人物がどの言語を使っているかではない。だが、言語と人種はしばしば混同されている。ナチス・ドイツは「アーリア」という単語で単一民族を表していたが、この言葉は言語学上の概念で、広義にはインド=ヨーロッパ語族を指し、人種的に1つではない。人種は先天的なものである一方、言語は後天的に学習される。アメリカに連れてこられた黒人は英語を学び、クリスチャンになり、高級列車のポーターになった。アメリカ人をつくっているのは文化である。

文化とは、遺伝ではなく学習によって得られた行動の全体を指す。そして、土地の住民が次々に入れ替わったとしてもなお保たれるほどのものこそが、文化と呼ばれ得る。ヨーロッパの旧石器時代から現代まで受け継がれてきたものは、文化の連続性であって人種の連続性ではない。製鉄、火薬、製紙・活版印刷、穀物の耕作といった発明の多くも、ヨーロッパ文明のものではなく、その起源は遠い民族にある。高度な文明を一手に支配した単一人種などいない。人種の概念によって人類の偉大な達成をすべて説明しよう、などと考えてはいけない。

人種を科学的に考える

肌の色で人種は決まらない
Rawpixel/gettyimages

人種の違いとしてまず目を引くのは皮膚の色である。

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要約公開日 2020.07.23
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