タレントマネジメント入門

個を活かす人事戦略と仕組みづくり
未読
タレントマネジメント入門
タレントマネジメント入門
個を活かす人事戦略と仕組みづくり
未読
タレントマネジメント入門
出版社
出版日
2020年07月31日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

働き方改革の文脈の中で、ここ最近「タレントマネジメント」という用語を耳にするようになった。タレントマネジメントとは、本書の言葉を借りると「企業が成長し続けるために、1人ひとりのタレント(従業員)とその能力に注目し、採用や育成、異動などを通じて、もっとも活躍できるポジションに配置すること」を指す。人材管理における新しい考え方だ。

タレントとは「人材」であり「個」である。だが一口に「個を活かす」といっても、具体的にどのような方針や行動をとるべきなのだろうか。本書は、タレントマネジメントが誕生した背景から日本の人事課題に対する影響まで、理論と実践の両面からまとめており、とりわけ人事分野に従事する者や経営層にとって役立つ知識が多い。また、実際にタレントマネジメントに取り組まれてきた方々のインタビューを交えながら議論が深堀りされていくので、リアリティをもって読み進められる。タレントマネジメントがどのようなプロセスを踏んで成立していくものかがわかれば、より自社に合ったやり方やサービスを選択しやすくなるだろう。

こうした人事の取り組みは、なにより会社の競争力につながる。「タレントの戦略的活用によって利益を高める」ことこそが、タレントマネジメントの目的だ。人材獲得競争が激しい現代のビジネスでは、人事にこうした視点があるかどうかで、将来に大きな差がつく。タレントマネジメントを知らない、まだ実行していないという企業人には、ぜひ本書をおすすめしたい。タレントマネジメントの概要と背景を把握するための、絶好の入門書である。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

土屋裕介(つちや ゆうすけ)
株式会社マイナビ 教育研修事業部
事業開発統括部長/HR Trend Lab所長。
1983年、神奈川県生まれ。大学卒業後、不動産会社の営業職を経て、国内大手コンサルタント会社入社。人材開発・組織開発の企画営業として、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入。2013年に(株)マイナビ入社。マイナビ研修サービスの商品開発の責任者として、「ムビケーション研修シリーズ」「各種アセスメント」「ビジネスゲーム」「タレントマネジメントシステム crexta(クレクタ)」など人材開発・組織開発をサポートする商材の開発に従事。10年以上にわたり一貫してHR領域に携わる。日本エンゲージメント協会副代表理事。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。ライフシフト大学フェロー。主な共著に『楽しくない仕事は、なぜ楽しくないのか~エンゲージメントで“働く”を科学する~』(プレジデント社)

柿沼英樹(かきぬま ひでき)
流通科学大学 商学部 准教授
博士(経済学)(京都大学)
1984年、埼玉県生まれ。2016年、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程学修認定退学。2019年3月、京都大学より博士(経済学)取得。環太平洋大学などを経て、2020年4月より現職。専門は、人的資源管理論、組織行動論。近年取り組んでいる主な研究テーマは、タレントマネジメントの理論と実践、人的資源管理研究の学説史的研究、サービス企業の人材定着など。

本書の要点

  • 要点
    1
    タレントマネジメントとは、「組織レベルの戦略や目的の達成に貢献する重要職務に、適切な人材を絶え間なく配置するための試み」を指す。
  • 要点
    2
    タレントの選別は「職務ベース」で考える。すなわち、組織の戦略や目的の達成に貢献する可能性の高い職務を決め、それから適合性を考慮した人材を配置する。
  • 要点
    3
    タレントマネジメントは、旧来の日本型人事管理が行ってきた長期安定雇用における「適者生存」モデルから脱却し、その時々で必要な人材を登用していく「適者開発」へのアプローチを促す効果がある。

要約

【必読ポイント!】 タレントマネジメントとは

タレントマネジメントの誕生
teekid/gettyimages

タレントマネジメントの起源は、マッキンゼーが1997年に提唱した「ウォー・フォー・タレント」という言葉にある。この概念は、経営層やマネジャーとして企業を牽引する優れた人材(=タレント)の獲得や育成に成功した企業がビジネスを制する、ということを示したものだ。しかし現在は、大多数の「普通の人材」の優れた部分も注目され、その部分を活かす働き方の提供が重要だとされるようになってきた。

もともとタレントマネジメントは、世界的な人材獲得・育成競争に打ち勝つために検討されたものだ。しかし伝統的な日本企業の人事管理の諸課題を解決するうえでも、タレントマネジメントは示唆にあふれている。旧来の日本型人事管理における能力開発やキャリア開発は、長期安定雇用のもと、OJTを軸に据えた幅広い視点で行われてきた。だが変化の激しい現代において、従業員は新しい能力やスキルを、短期間で獲得しなければならない。加えて、業務経験を通じて能力を獲得するという前提が、多忙な現代の職場においては問題視されている。

タレントマネジメントは、「キーポジションの担い手となる従業員を重点的に管理する」という点で、キャリアの全体的な底上げを図る旧来の日本型人事管理とは異なる。またキーポジションの確保にあたり、社内だけでなく社外の人材も積極的に取り入れようとする。近年、特定の組織にとどまらない多様なキャリアを構築しようとする個人のニーズが高まっているが、こうした動きへの一つの回答にもなりうるのがタレントマネジメントである。

タレントの考え方

本書におけるタレントとは、「ある特定の能力・才能・資質を有する人材」を指す。そこには、能力は後天的に獲得できるし、資質は伸ばせるという考え方がある。

タレントを選別する基準は2つあり、人材が持つ特性や価値に着目する「人ベース」と、人材が担う職務の重要度に着目する「職務ベース」の考え方に分かれる。人ベースは「高い能力を持った人材が組織業績を押し上げる」という考えのもと、パフォーマンスやポテンシャルの高さに基づいてタレントを選別する。だが市場価値が高い人材ほど、他社への転職が容易であり、退職リスクが高くなるという課題がある。一方で職務ベースでは、まずキーポジションを特定し、そこを担う人材の要件を決める。重視されるのは、組織の戦略や目的の達成に貢献する可能性の高低だ。

本書は、戦略や目的とタレントの要件定義との適合性が考慮された「職務ベース」を、より実践的であると捉える。そしてタレントマネジメントを、「組織レベルの戦略や目的の達成に貢献する重要職務に、適切な人材を絶え間なく配置するための試み」と定義する。

効果

適者生存から適者開発へ
adrian825/gettyimages

タレントマネジメントを実施する目的は、「組織の戦略や目標を支援し、タレントの戦略的活用によって利益を高める」ことである。そのひとつの効果として、人材を管理する視点が「○年入社組」や「係長・課長・部長」といった集団的管理から、

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要約公開日 2020.12.27
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