「ハーバード・ビジネス・レビュー」によると、インポスター症候群とは、明らかに成功を収めたにもかかわらず、能力不足感や自己不信感を払拭できないことである。このような感覚は珍しいものではない。セレブやビジネスリーダーに至るまで、世の中の7割以上の人々の間で、インポスター症候群は蔓延しているという。
著者(以下、親愛を込めてリタと呼ばせていただく)も例外ではない。学生時代の試験や演劇発表に始まり、ビジネスパーソンになってからもミーティング、セールス、プレゼンなどで、すぐれたパフォーマンスをしたと思えたことがないのだ。
企業幹部となっても、「実力という点で、すぐに化けの皮がはがれる」という不安に苛まれてきた。それでもリタは、キャリアの頂点まで駆け上がった。とはいえキャリアの始まりの時点で、かならずしも明確なゴールが見えていたわけではなかった。
リタは、秀でた知能を持ちながらも、世渡りが決して上手ではない父親に愛されて育った。しかし12歳の時、その父親が亡くなった。リタは家計を助けるため、週末や学校の休暇中にさまざまな仕事を経験することになる。
当時を振り返ると、決して悪いことばかりではなかった。ボーイフレンドを沢山見つけたり、地元の派遣会社について精通したり、多くの人たちと出会うことで、さまざまな人生があることを学んだりした。また、「お金は稼がなければ手に入らない」という現実を、身に染みて理解することもできた。
誰しも、世間には知られたくないことや、負の体験がある。しかし適切なサポートがあれば、ネガティブな体験もポジティブに変えられる――リタはそう確信するようになった。
リタは学業だとトップクラスであったものの、大学進学など夢にも考えていなかった。ミニスカートにパンダ目の化粧、ウエストまで伸びた髪という、1970年代に流行ったゴス・ファッションを地で行く、猫背姿のティーンエイジャーだったからだ。
教師のすすめでケンブリッジ大学を受験することになったときも、受験申込書の写真を見た教師が、「まるでセックス・クィーン」とため息をつくほどであった。それでもリタは、ケンブリッジ大学で古典文学を学ぶ機会を得た。
大学の初日、姉の夫の車で送られて登校したリタは、大学がひどく場違いである感じがした。実際、当時の彼女を指導した学部長も、30年後の彼女の姿に驚きを隠せない。
「成功のカギは何だったのか」と尋ねられても、リタは自分を成功者と思ったことがないし、賞賛されるほどの何かを達成したと感じたことがないという。これは決して謙遜からではない。
それでも大学は、リタにとって新しい自分と出会い、視野を広げる場所であった。大学に入学する前は、自分がどこに進んでいるのか、見当もついていなかったのだから。
リタの感覚だと、ケンブリッジ大学でのキャリア指導は、アマチュアレベルでしかなかった。というのも、いわゆる上流階級の学生たちは、そもそも就職指導をあまり必要としていなかったからである。彼らには、すでにロンドンの金融市場のコネがあったり、政府機関やBBC、演劇学校、がんの研究所などへの道が開かれたりしていた。
一方でリタのキャリア志向は、通俗的であいまいだった。
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