ディープメディスン

AIで思いやりのある医療を!
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本書は、「ディープメディスン」というコンセプトで、AI(人工知能)と医療のありたい未来の姿を描く。

ディープメディスン(深遠なる医療)はいくつかの要素からなるが、コアとなるのは、「患者と臨床医の間の、心の底からのディープな共感とつながり」である。AIの技術により、自動化・効率化が進むことで人間の本来の役割が復権、強化されるというシナリオだ。これは、医療だけではなく、さまざまな産業においてこれから起きる変化の方向性を示唆しているといえるだろう。ひと言でいえば、AIは「時間という贈り物」を与えてくれるのだ。

とはいえ、実際にAIへという順番が応用されているのはまだ医療の一部にとどまる。対象範囲を限定すれば抜群の精度と速度を達成するアルゴリズムであるが、人の体と病気はとんでもなく複雑である。医療制度というシステムも同様だ。本書は、そうした現状を冷静に、そしてていねいに描き出す。それができるのは、著者が現役の医師であり、AIをユーザーの立場から見ているからだろう。手段と目的という分け方をすれば、常に医療という目的から論考が進められている。技術用語や歴史も過不足なくまとめられており、AIについての一般的な知識は、本書のもので十分であろう。要約では省いたが、紹介されている多くの臨床ケースも理解を促進してくれる。

加えて、本書は今日の医療の現状が包括的に記述されており、現場の息吹もリアルに伝えてくれている。読み解くのに医療の専門知識を必要とはしない。多くの読者の目に触れることを願いたい一冊である。

ライター画像
しいたに

著者

エリック・トポル(Eric Topol)
1954年生まれ、医師、医学博士(ゲノム学)、作家。スクリプス研究所副社長(エグゼクティブ・ヴァイスプレジデント)、スクリプス臨床研究所・創設者兼所長、医学部門最高学術責任者(CAO)。2016年、米国国立衛生研究所助成による精密医療のプロジェクトPrecision Medicine Initiativeに参画。医学研究者の中で最も引用されているトップ10のひとりである。著書に本書の他、『今から患者が診させてくれます The Patient Will See You Now』『医療の創造的破壊 The Creative Destruction of Medicine』があり、いずれも全米ベストセラーとなった。カリフォルニア州ラホヤ在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    AIがもたらすディープメディスンは、個々の人間のディープな(細部にわたる)データ、ディープラーニング、患者と臨床医のディープな共感とつながりの、3つのディープからなる。
  • 要点
    2
    新しい技術は、これまでデジタル化と民主化を医療にもたらしてきた。ディープラーニングはそれに続くものである。
  • 要点
    3
    医学や個々の患者についてのデータはアルゴリズムに任せ、医師は患者と豊かな人間関係を築くこと、苦しみにしっかり目を向け、それを緩和することが主な仕事になるだろう。

要約

深遠なる医療

ディープメディスン
metamorworks/gettyimages

私たちはAI(人工知能)医療の時代に入ったばかりだ。そのAIがもたらす未来の医療は「ディープメディスン(深遠なる医療)」と名づけることができるであろう。それは3つのディープからなる。

第1は、個々の人間のディープな(細部にわたる)データだ。それにはDNAゲノム、タンパク質などの解剖学的特性・生理学的特性といった生物学的特性のほかに、病歴や社会歴、行動歴、家族歴のすべてが含まれるかもしれない。

第2は、AIによるディープラーニングである。

第3は、患者と臨床医の間の、心の底からのディープな共感とつながりであり、これが最も重要な構成要素である。AIによって医師の診断能力が上がった先で大事になるのは、最も高い水準の情緒知能(EQ)を持つ医師の存在なのだ。

患者と医師と機械の適正なバランスを見極めなければならない。ディープメディスンは非常に望ましいものであり、医療を空前の水準まで引き上げるものだろう。

シャロウメディスン

一方、「シャロウメディスン(浅薄な医療)」とでも呼べる医療の実態がある。

アメリカでは頻発する誤診が社会的な問題になっている。不必要な検査や処置も多い。その原因は、患者と医師が心を通わせるどころか、心のつながりが途絶していることにある。

アメリカの診察時間は初診の場合で平均で12分、再診となれば7分である。しかも、医師はパソコン画面上の電子カルテとキーボードによる入力に気を取られ、患者と目を合わせる時間は限られている。

こうした医師と患者の浅いつながりは、誤診の温床となるばかりではない。個々の患者をきちんと個別に評価しない一律な検査、処置、投薬が、膨大な無駄と患者への負担を生じさせている。

医療、特に医薬品は、アメリカで医療費のかなりの増大を招いている一方で、平均余命が他国よりも短くなっている。アメリカは、あまりにもシャロウメディスンを野放しにしているのだ。医療診断のやり方を変える必要がある。

AIと医療の現状

ディープラーニング
metamorworks/gettyimages

医学界は必ずしも新しいテクノロジーの採用に積極的ではなかった。これまで、デジタル化(digitizing)、民主化(democratizing)という切り口から医療と技術について考察してきたが、ディープラーニング(deep learning)はそれに続く3つ目のDである。このDは、医療行為において不可欠の人間的要素の活性化につながると考えられている。

ディープラーニングの活用が進んでいるのは、ゲーム、画像、音声認識、自動運転車といった分野であり、それらと比べれば医療分野での応用はいまのところ限定的である。

とはいえ医療におけるディープラーニングは大きな可能性を秘めており、過去数年間にその成果は急増している。たとえば、病院において臨床医のサポートを行い、医師が診断に使うパターンの認識や機械学習を積み重ねている。また、一般人が自分の健康や疾患を今までよりもうまく管理できるように指導する、バーチャルな医療アシスタントの働きも見せている。

医療における診断の不正確さなどの問題を改善するものとして期待されているが、現時点では満足のいくレベルには達していない。

パターン中心的医療

AIは、放射線科医、皮膚科医のような、画像診断によるパターン認識が多くの仕事を占めている「パターン中心的医療」を担う臨床医のサポートが期待できる。人から採取した組織のスライドを調べ、病気に最終的な診断を下す役割を担う病理医についても同様だ。

AIは、いずれそうした医師たちに取って代わるのではないかという言説もあるが、当面はそのようなことはないだろう。

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要約公開日 2021.01.24
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