実力も運のうち 能力主義は正義か?

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実力も運のうち 能力主義は正義か?
出版社
定価
2,420円(税込)
出版日
2021年04月14日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「ハーバード白熱教室」で知られるマイケル・サンデル教授が、本書で掲げているテーマは「能力」である。能力主義(メリトクラシー)に焦点を当てながら、不平等が容認される格差社会がいかに生み出され、人々の憤懣がトランプ大統領をいかに誕生させたのかをひも解く。

誰もが自由にアメリカンドリームを成し遂げることができるという考えは、もはや幻想となりつつある。むしろアメリカはほかの多くの国々より、社会の底辺にいる人々にとって成功するのが難しいことを裏付けるデータさえあった。

本書の舞台はアメリカだが、日本も同様に、能力主義が格差社会や不平等といった弊害を招いている。公平で道徳的にもかなうとされた競争システムは機能不全に陥り、目に見えない職位や身分、学歴に基づく差別はどうやら実在するように思われる。そうした不平等を背景に、社会的な分断は深刻だ。

このままでは人々の尊厳は蔑ろにされ、生きる活力が失われてもおかしくはない。日本では、ナショナリズムの高揚をうかがわせる顕著な動きは見られないが、その代わりに「諦め」や「絶望」が社会的に蔓延しているのかもしれない。

本書では、能力主義をさまざまな角度で考察しながら、目指すべき社会の在り方について提言を行っている。進むべき方向が不透明なコロナ禍の今こそ、誰もが尊厳と誇りを持って暮らすことができる社会をどのように実現するのか、考えるきっかけとしていただきたい。

ライター画像
香川大輔

著者

マイケル・サンデル(Michael J. Sandel)
1953年生まれ。ハーバード大学教授。専門は政治哲学。ブランダイス大学を卒業後、オックスフォード大学にて博士号取得。2002年から2005年にかけて大統領生命倫理評議会委員。1980年代のリベラル=コミュニタリアン論争で脚光を浴びて以来、コミュニタリアニズム(共同体主義)の代表的論者として知られる。類まれなる講義の名手としても著名で、中でもハーバード大学の学部科目“Justice(正義)”は延べ14,000人を超す履修者数を記録。あまりの人気ぶりに、同大は建学以来初めて講義を一般公開することを決定。日本ではNHK教育テレビ(現Eテレ)で『ハーバード白熱教室』(全12回)として放送されている。著書『これからの「正義」の話をしよう』は世界各国で大ベストセラーとなり、日本でも累計100万部を突破した。他の著作に『それをお金で買いますか』『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』など、編著に『サンデル教授、中国哲学に出会う』(以上早川書房刊)の著作がある。2018年10月、スペインの皇太子が主宰するアストゥリアス皇太子賞の社会科学部門を受賞した。

本書の要点

  • 要点
    1
    能力主義はエリートに対するポピュリストの反乱を引き起こし、トランプの支持層は広がり、大統領選勝利に至った。
  • 要点
    2
    学歴偏重主義は社会的な分断を生んだ。リベラルな視点からの能力主義への対抗も不十分である。
  • 要点
    3
    選別装置と化した大学は、適格者の中からくじ引きで入学者を決め、道徳教育を拡大するのも一案だ。労働者の尊厳を守るためには、給与の減税を図るとともに、金融取引に対する課税を強化することが有効である。

要約

能力主義の弊害

ポピュリストの怒り

ナショナリズムの高まりと独裁的な人物への支持拡大が示すように、民主主義にとって危機の時代が訪れている。エリートに対し、労働者階級などのポピュリストは怒っている。人種的・民族的・性的な多様性に対する反発や、グローバリゼーションとテクノロジーの急速な変化がもたらした困惑と混乱も、根底にあるだろう。

この数十年にわたる労働者階級の経済的、文化的地位の低下は、主流派の政党とエリートによる統治手法の帰結である。現前のポピュリストたちの怒りは、歴史的規模の政治的失敗への反応と言える。

失敗の核心は、市場主導型のグローバリゼーションにより不平等を拡大させてきたことにある。不平等の拡大には、労働者の再教育や、受けやすい高等教育、多様性の許容によって対処してきた。

しかしもはや限界である。才能があれば出世できるという「出世のレトリック」は、いまや虚しく響いている。貧しい家庭に生まれたアメリカ人は、大人になっても貧しいままであることが多い。

能力主義の倫理は、勝者にはおごりを、敗者には屈辱と怒りを生み出す。こうした感情が、エリートに対するポピュリストの反乱の核心となっている。

能力の道徳の歴史
Paper Boat Creative/

能力に基づいて人を雇うことは本来悪いことではなく、正しい行為であるはずだ。それでは能力主義の何が悪いというのだろうか。

自分の運命は自分の能力や功績(メリット)の反映だという考え方は、西洋文化の道徳的直観に深く根付いている。神は、人間の善に褒美を与え、罪を罰するのだ。

能力や功績の問題は、救済をめぐるキリスト教の議論において立ち現れた。功績による救済はすべて神の恩寵の問題であるという反能力主義が、天職における労働という考え方を生み出した。あらゆる者が天職について働くよう神に召されているのだから、その召命に従って熱心に働くことが救済のしるしとされた。

能力や功績をめぐる議論は、救済をめぐる議論だった。それは、現世の成功をめぐる議論にもつながっている。成功を収めた人々は自力で獲得したのか、それとも自力では制御できない要因によるのだろうか――。成功に対するわれわれの態度は、神の摂理への信仰と無縁ではないのだ。

このような摂理主義は、徹底した支配と制御の倫理を称賛し、能力主義的なおごりを生み出す。おごりは、リベラルで進歩的な政治の際立った特徴でもある。そして、アメリカが偉大なのはアメリカが善良だからという、国家に当てはめた能力主義的な信仰につながっていく。

出世のレトリック

成功にまつわるわれわれの見解は、救済に対する考え方と同じだ。すなわち、成功とは幸運や恩寵の問題ではなく、自分自身の努力によって獲得される。

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