理不尽な進化 増補新版
遺伝子と運のあいだ

未 読
理不尽な進化 増補新版
ジャンル
著者
吉川浩満
出版社
定価
1,210円(税込)
出版日
2021年04月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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理不尽な進化 増補新版
遺伝子と運のあいだ
著者
吉川浩満
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定価
1,210円(税込)
出版日
2021年04月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「理不尽な進化」というタイトルから、要約者は生物の進化の歴史に焦点をあてた本を想像した。ところが、実際の内容は大きく異なっていた。第1章こそ「絶滅」という切り口で進化の歴史が語られるが、本書の中心的なテーマは、「進化論」と、それにどのように向き合うかという哲学的な姿勢だ。

ダーウィンの登場によって、専門家や社会の認識は一気に覆った。そんなイメージを持つ人が多いかもしれない。しかし、本書の解説によれば、実際に起きたことは真逆だ。ダーウィンの登場は、まったくダーウィン的ではない、ダーウィン以前の学説の普及に貢献したのだという。専門家にも非専門家にもダーウィンの説の真意はすぐに理解されることはなかった。さらに、その誤解は非専門家の間では現在も続いているというのだ。また、誤解の解けた専門家同士の間でも、「進化論」をめぐる激しい論争があった。進化論にまつわる誤解、いまだに続く専門家と非専門家の認識のズレ、専門家同士の論争。これらをすべてを見事につなぐキーワードが「理不尽」である。この「理不尽」に向かう私たちの態度が「進化論」の本質的な特徴であるといえるかもしれない。

本書の「註」では、一般的な用語や時代背景についての解説だけでなく、本文の内容に即した書籍の紹介もされている。「註」だけでも、ちょっとしたブックガイドになることを意図した内容だ。読み終わると、進化の歴史に潜む理不尽さに、思いをはせずにはいられないだろう。

ライター画像
河合美緒

著者

吉川浩満(よしかわ ひろみつ)
1972年鳥取県米子市生まれ。文筆家、編集者。慶應義塾大学総合政策学部卒業。書評サイトおよびYouTubeチャンネル「哲学の劇場」を山本貴光とともに共同主宰している。おもな著書に『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』(河出書房新社)、山本との共著に『人文的、あまりに人文的』(本の雑誌社)、『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。』(筑摩書房)、『脳がわかれば心がわかるか』(太田出版)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    生物の99.9パーセントは絶滅してきた。絶滅のシナリオは「弾幕の戦場」「公正なゲーム」「理不尽な絶滅」の3つに分けられるが、中でも「理不尽な絶滅」がもっとも支配的なシナリオである。
  • 要点
    2
    非専門家の間で使われる進化論的な用語は、ダーウィン以前の進化論の考え方である「発展的進化論」に基づいていることが多い。
  • 要点
    3
    現在、進化生物学者の主流である「適応主義」は、これを方法論として捉え、適応主義により記述される世界と現実世界のズレを観察することで、理解を深めようとする姿勢である。

要約

「絶滅」に注目して、進化の歴史をたどる

なぜ絶滅に着目するのか

本書は、進化論にかんする専門書や学術書ではない。「進化論と私たちの関係」について考えようとするエッセイ(試論)である。生物の進化は、ふつう生き残りの観点から語られる。しかし、本書はそれとは逆に、絶滅という観点から、敗者の歴史として生物の歴史をとらえようとする。

じつは、生物の世界では、絶滅の方がずっと多い。アメリカの代表的な古生物学者であったデイヴィッド・ラウプは、これまでに地球上に出現した生物種の総数はおそらく50億から500億、現在地球上に生息している生物種は400万種を下らないだろう、と推定した。この推定値で割り算を行うと、99.9パーセントの生物はすでに絶滅していることになる。

40億年という生命の歴史は、ひと握りの生き残りの物語であると同時に、それよりも圧倒的なスケールで起きた絶滅の歴史である。絶滅に着目すると、進化の歴史は「理不尽さ」に満ちている。今私たちが目にする生物の多様性は、理不尽な歴史の産物である。

絶滅の3つのシナリオ——遺伝子か運か
ALLVISIONN/gettyimages

先のデイヴィッド・ラウプは、生物は、「適応面が劣っていた」ため絶滅したのか、「間違った時期に間違った場所にいた」ため絶滅したのか、つまり「遺伝子か運か」という問いを立てている。ラウプは古生物学上の化石記録や統計データを用いた分析の結果、生物の絶滅のシナリオを「弾幕の戦場」「公正なゲーム」「理不尽な絶滅」の3つのタイプに類型化した。

「弾幕の戦場」とは、はるか上空の爆撃機から雨のように爆弾が降ってくるように、誰が倒れるかは、「運」のみによって決定される状況のことだ。地球の歴史で言えば、天体や隕石の衝突などはこれにあたる。「公正なゲーム」とは、ほかの種との生存闘争の結果として絶滅が起きるというシナリオだ。私たちが「適者生存」の絶滅の原因として思い浮かべるのはこのシナリオだろう。これらの2つのシナリオの違いは、絶滅が選択的であるかどうかだ。弾幕の戦場では運だけがものを言い、公正なゲームでは遺伝子だけがものを言う、ある意味ではわかりやすいシナリオだ。

ところが、ラウプがもっとも重視したのは、そのどちらでもない、「理不尽な絶滅」であった。

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