本書の要点

  • 人間とは「自分たちで作り上げた、よくわからない環境の中で生きる存在」である。「社会はわからない」と理解することが、よりよい社会認識の第一歩になる。

  • 専門知の発展により、社会の仕組みは細分化・高度化していった。専門的な学問が発達するほど世の中は複雑になり「よくわからなく」なっていく。

  • 社会は意図した通りには変わらない。むしろ、意図せざる結果を引き起こすことが多い。

  • シンプルで体系的な陰謀論は人を惹きつけるが、それは、思考にかかるコストを減らしたいという合理性からきている。

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【必読ポイント!】 世界は「わからなさ」と「緩さ」でできている

出生率低下を引き起こしたのは誰?

日本の出生率は予想以上に低下しており、少子高齢化が加速している。出生率低下の理由についてはさまざまな研究がなされ、推論も出ている。しかし、出生率低下の「理由」は研究対象となっても、それを「誰が引き起こしたか」という問いは存在しない。少なくとも、「誰かが明確な意図をもって少子化を引き起こそうとした」と考える研究者は一人もいない。

世界で起こっている数多くの問題は、誰かが意図的に起こして生じたものではない。誰かが悪意を持って引き起こしているなら、むしろ解決しやすいだろう。しかし実際には、深刻な問題は「意図されない」うちに発生して進行し、その裏には複雑な要因が絡み合っている。研究者ですら、この絡み合いについてほとんど理解できていないのである。

緩くつながる社会

JamesBrey/gettyimages

社会を構成する様々な要素は、きちんと体系的につながっているわけではない。つまり、つながりが「緩い」のである。社会に存在する規則や制度、その背後にある理論もかなりの緩さを含んでいる。

世の中には多くの「仕事」があるが、日本の社会学が構築した分類のシステムによると、職業は700個ほどに分かれる。これだけ数が多い理由のひとつには「分業」がある。スマートフォンひとつを例にとっても、デザインをする人、部品を作る人、組み立てる人、販売する人、出資をする人など、実に様々な人が携わっている。

一方で、スマートフォンの製造・販売によって得られた利益の分配基準は明確ではない。スマートフォンの部品を作る会社にしても、社員への給与額は「年功序列」「資格の有無」などをもとに独自に判断される。しかし、これらの基準が適正かどうかの保証はなく、「よくわからない」のが実態だ。「この仕事は利益の何%にあたる」といった明確な規則の上で分配されているわけではなく、その基準は緩々(ゆるゆる)なのである。

「専門化」が社会をわからなくする

現代社会がよくわからなくなっているのは、私たちが「専門知識・専門的な仕組み」に取り囲まれていることも関係する。近代化以降、専門知識は細かく枝分かれして、その中でどんどん高度化していった。その知識を反映した仕組みやシステムが発展し、その一部は私たちの生活の土台となっている。

たとえば、会社経営は「会計」という専門知に支えられている。しかし、会計の基礎である複式簿記のことを、経営責任者である社長すらわかっていないことも多いだろう。また、現代医療は極めて高度化した専門知識によって運営されている。各分野で無数の論文が発表され、多額の資金を費やして開発研究が行われているが、専門家もその全容を把握することはできない。

身近な制度であっても専門的過ぎて理解できないことは多い。かと言って、専門知識を勉強しても世の中のことがわかるようにはならない。むしろ、専門的な学問が発達するほど世の中は複雑になり、「よくわからないもの」になっていくのである。

社会は動きつづけている

社会は動き続けており、私たちはその中に投げ込まれている。ここでは、社会で生活することを「止められない自動車に乗っている」ことに喩えてみよう。

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要約公開日 2021.07.24
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