リアル店舗の奇蹟の表紙

リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街


本書の要点

  • 飯田屋は、ノルマなし、売上目標なし、飛び込み営業なし、経営目標なしながら経営難から回復し、業績を大きく伸ばした。

  • 飯田屋は、ネット通販にお客様を奪われるという心配はない。目の前のお客様に寄り添える人間味のある接客という、ネット通販には決して真似できない強みがあるからだ。

  • 売上目標の設定をやめ、目の前のお客様を喜ばせることに集中すると、売上も客単価も買上点数もリピート客も増えた。

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経営者失格、後継者落第

記憶に残る幕の内弁当はない

東京の浅草と上野の真ん中あたりに、世界最大級の飲食店用品問屋街、「かっぱ橋商店街」がある。著者が経営する「飯田屋」はこの街で100年以上、料理道具の専門店を営んでいる。店舗はコンビニをひと回り小さくしたほどの大きさだ。食器、白衣、看板など、飲食店で使われるさまざまな道具を取り扱っている。著者は2009年、母が経営していた飯田屋に入社することを決めた。このころ、たくさんの商品を取り扱っているのに、店頭で聞かれるのは「欲しいものがない」「ここは何屋なの?」「何を買ったらいいのかわかんないよ!」という声ばかりだった。たくさんの商品が揃っていてもお客様は何も買ってくれず、売上の減少が止まらない。長い歴史の中でさまざまなお客様の要望にこたえてきた結果、品ぞろえが無秩序になっていたのだ。あまりにマニアックな商品の取り扱いをやめようとしても、先輩社員から「誰々さんが買いに来るから、必ず在庫を持っておくように」と注意されてしまう。AKB48のプロデューサーとして知られる秋元康氏の言葉を借りれば「記憶に残る幕の内弁当はない」という状態だった。つまり、「これは!」という特長がなかったのである。

2人の神様との出会い

runin/gettyimages

売上を回復させるため、飯田屋は安売りに手を出し、どこよりも安い店をめざした。しかし売上は変わらず、得たのは、質が下がったというクレームだけだった。そんなとき、2人の「神様」がお客様として来店する。一人は軟らかい食感の大根おろしを求める料理人、もう一人はアレルギーの子どものため、ニッケルが含まれていない製菓道具を探しているスーツ姿の男性だった。著者は料理人のために奔走し、最高のおろし金を見つけたが、スーツ姿の男性にはベストな商品を提案することができなかった。2人の神様が気づかせてくれたのは、「一人のお客様が求める、たった一つの最高の商品を提案できれば、値引きなど不要で、笑顔あふれる商売ができるはずだ」ということだ。そう考えると、飯田屋には強みがあった。たった一個から商品を仕入れることができ、前日17時までに注文すれば開店前には商品が届くことだ。これは近隣のお店でも同じだが、徹底的な品揃えと商品知識でお客様を満足させようとするなら、このなんでもない強みがまたとない宝に変わる。

フライパンのネタだけで100記事

あるとき、仕入れた道具はすべて、とことん試すと決めた。実際にやってみると、商品のパッケージやクチコミからはわからない個性が見えてくる。その気づきをブログで発信することにした。最初にテーマとして選んだのは、フライパンだ。選び方やフッ素加工のフライパンを長持ちさせる秘訣、いろいろなフライパンを徹底比較する記事などを公開していった。フライパンのネタだけで100記事ほど発信したころ、奇蹟が起きる。

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要約公開日 2021.07.28
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