生きのびるための流域思考

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生きのびるための流域思考
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出版社
出版日
2021年07月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「100年に一度の豪雨」という言葉を毎年のように聞くようになったのは、いつ頃からだろうか。2018年の西日本豪雨、19年の台風19号と21号、20年の熊本豪雨、そして21年7月に熱海を襲った豪雨と土石流災害。いずれも多くの被災者を出した大災害であり、思い出すだけでも恐ろしく、胸が痛む。

豪雨を生み出す主因は、地球規模の温暖化だと考えられる。温暖化によって世界各地が異常気象に見舞われ、記録的な猛暑や水害、熱による自然発火の森林火災などが頻発している。今後もこの傾向は続くだろうし、私たちも毎年「100年に一度の豪雨」に備えなければならない。

水土砂災害というと、私たちはつい「〇〇市で起きた」など、市町村単位で発生するかのように捉えてしまう。しかし、川は県をまたいで流れているし、川に集まる雨水はさらに広い地域から流れてきているはずである。本来「治水」とは行政区分で行うのではなく、それらをまたいだ「流域」単位で行わなければ、根本的な問題は解決できない――。これが本書の主旨である。

国もようやく動き出した。2020年、国土交通省の河川分科会は「流域治水」という方針を発表し、流域という枠組みでの治水をスタートさせた。本書では、流域の構造や水土砂災害が起こる仕組みについて丁寧に解説しながら、いち早く流域治水を始めた鶴見川流域(東京都町田市、神奈川県横浜市・川崎市)の取り組みも紹介している。

今や水害はとても身近な災害である。本書はその仕組みと対策を知ることのできる、良い教本となるだろう。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

岸由二(きし ゆうじ)
1947年東京生まれ。横浜市立大学生物科卒業。東京都立大学理学部博士課程修了。慶應大学名誉教授。進化生態学。流域アプローチによる都市再生に注力し、鶴見川流域、多摩三浦丘陵などで実践活動を推進中。NPO法人鶴見川流域ネットワーキング、NPO法人小網代野外活動調整会議、NPO法人鶴見川源流ネットワークで代表理事。著書に『自然へのまなざし』(紀伊國屋書店)『流域地図の作り方』(ちくまプリマー新書)、訳書にウィルソン『人間の本性について』(ちくま学芸文庫)、共訳にドーキンス『利己的な遺伝子』(紀伊國屋書店)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    ここ数年、豪雨による水土砂災害が続いている。水害は川が引き起こすのではなく、「流域」という地形や生態系が引き起こす現象である。
  • 要点
    2
    流域は雨水を集めて地表や地中に移動させ、川の水流に合流して海へ注ぐ働きをする。
  • 要点
    3
    日本の治水対策は河川や下水道の整備が中心であった。しかし豪雨時代の今、山地や田畑、町などを含めた流域全体で行う「流域治水」をしなければ対応できなくなっている。
  • 要点
    4
    鶴見川流域では1980年より流域の自治体が連携して流域治水を行っており、明らかな効果が出ている。

要約

【必読ポイント!】大規模豪雨と「流域思考」

「流域」が水土砂災害を引き起こす

ここ数年、豪雨災害が続いている。小さな川の氾濫だけではなく、鬼怒川、球磨川、最上川など大きな一級河川が氾濫し、被害が広がっている。この現象は一過性ではなく、地球規模の気候変動により今後さらに厳しくなっていくだろう。

水土砂災害が急増した第一の理由は強い雨が増えていることだ。ここ100年の深刻な地球温暖化が引き起こしているという意見が有力である。私たちはすでに、温暖化豪雨の時代の入り口に立っているのである。

しかしこの緊急事態ともいえる状況に国も社会も適切に対応できずにいた。まず、地図が問題である。

豪雨が引き起こす水土砂災害は、「流域」という地形や生態系が引き起こす現象だ。流域とは、雨の水を河川・水系の流れに変換する大地の地形のことである。流域の構造を知ることで、水土砂災害に備える考え方や行動ができる。しかし、私たちが利用する地図に流域は反映されていない。

これまで気象庁や国土交通省は「水土砂災害は河川が引き起こす」と強調してきた。しかし、その河川に大量の雨水を集めるのは流域であり、降り注ぐ雨を川の流れに変換するのは流域という地形・生態系である。

つまり、氾濫や水土砂災害を起こすのは川ではなく、流域なのである。

流域とは

流域の基本構造
yykkaa/gettyimages

私たちの暮らす地球は「水の惑星」だ。地表の7割は海であり、液体、気体、固体と様々なかたちをとる水は、太陽エネルギーや火山の熱などに駆動されて地球上を循環している。

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要約公開日 2021.08.05
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