最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方

未読
最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方
最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方
未読
最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方
出版社
SBクリエイティブ

出版社ページへ

出版日
2021年05月15日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
3.0
応用性
4.0
要約全文を読むには会員登録ログインが必要です
ログイン
本の購入はこちら
書籍情報を見る
本の購入はこちら
おすすめポイント

子どもの頃を振り返ってみると、思いのほか親や先生に叱られた記憶が鮮明に残っているものだ。それもそのはずである。感情を伴う記憶ほど、脳に保存されやすい性質があるからである。ここで注目すべきは、叱られたショックや不安感などの感情記憶は強烈に残りやすいものの、言われた内容はほとんど覚えていないという点だ。

本書は、ふたりの著者が各章を受け持つ形で構成されている。ひとりは千代田区立麹町中学校の改革の立役者である工藤勇一氏、もうひとりは神経科学の専門家である青砥瑞人氏だ。ふたりとも、最新の脳の研究結果を教育現場に落とし込んで実践し、理論と実践の両面から教育の本質を問い直そうと試みている。その研究結果の一部をまとめたものが本書である。

学校教育の最上位目標は、子どもたちに社会で生きていく力を身につけてもらうことのはずだ。しかし残念ながら、教育現場では「子どもたちにペーパーテストの点数を競わせる」という、手段の目的化が起こっている。また日本社会には過剰サービスが蔓延しており、これも子どもたちから自律する機会を奪っていると著者たちは警鐘を鳴らす。これでは、当事者意識を持った子どもが育たなくても無理はないというわけだ。そんな教育現場にメスを入れ、自律した子どもたちを育むためには、「心理的安全性」が確保され、「メタ認知能力」を高める訓練が必要だという。まったくもって同感である。

自律する子の育て方は、職場の人間関係や自己実現を考えるうえでも役に立つ。ビジネスパーソンにとっても、多くの教訓が得られる一冊である。

ライター画像
金井美穂

著者

工藤勇一(くどう ゆういち)
横浜創英中学・高等学校長。元・千代田区立麹町中学校校長。1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。教育再生実行会議委員、経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会委員等、公職を歴任。2020年3月まで千代田区立麹町中学校で校長を務め、教育改革に取り組む。宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止を次々に打ち出した改革は、文部科学省が視察に訪れ、新聞各社・NHK・民放各局などがこぞって取り上げるなど、教育関係者・メディアの間で話題となった。初の著書『学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)は10万部を超えるベストセラーに。その他の著書に『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』(SBクリエイティブ)、『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』(かんき出版)などがある。

青砥瑞人(あおと みずと)
株式会社DAncing Einstein代表。日本の高校を中退。米国大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。脳の知見を、医学だけでなく人の成長に応用し、かつAIの技術も活用する、NeuroEdTech®とNeuroHRTech®という新しい分野を開拓。同分野において、幾つもの特許を取得する脳神経発明家。新技術も活用し、ドーパミン(DA)が溢れてワクワクが止まらない新しい学び体験と教育・共育をデザインすべく、株式会社DAncing Einsteinを2014年に創設し、Founder CEOも務め、学校、企業、学生、先生、社会人などの垣根を越えた人の成長とウェルビーイングのデザインに携わっている。著書に『BRAIN DRIVEN』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『HAPPY STRESS』(SBクリエィティブ)『4 Focus』(KADOKAWA)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    教育の本質的な目標は、子どもたちが自分自身を成長させ、幸せな状態をつくり出せるようになることだ。その実現に不可欠なのが、「心理的安全性」と「メタ認知能力」である。
  • 要点
    2
    否定されない環境を用意することで、子ども自身がストレス反応との付き合い方を見つけ、自力で心理的安全状態をつくれるように導くべきだ。
  • 要点
    3
    メタ認知能力を高めるために必要なのが内省だ。自分を俯瞰的に見る訓練を繰り返すのである。その際は、いたずらに「反省しない」ことがなにより大切だ。

要約

子どもの自律を阻む日本の学校教育

行き過ぎた親心は子どもの自律を阻害する

科学技術の発展とともに、経済や社会の構造は大きく様変わりし、かつて常識だったことが通用しない時代に突入した。そこにコロナ禍である。自ら考え、判断し、行動できる「自律」が何より求められるようになった。はたして日本の学校教育は、こうした時代の変化に合わせてアップデートできているだろうか。

日本財団による「18歳意識調査」を紐解くと、日本の若者は「自分が社会や国を変えることのできる存在だ」と思っていない。そのため、社会に対して「責任を負う」という意識がなく、社会課題への関心も低い。

なぜ日本の若者には、当事者意識が欠如しているのだろうか。その原因は、日本の社会全体がサービス産業化したことにある。自分で考えることなく、過剰なサービスを受けて育った子どもには、自分でなんとかしようという思考回路が生まれない。課題の解決に必要な「より良いサービス」を求めるだけで、満足がいかなければ「サービスの質」に文句を言うばかりだ。

子どもの自律と学力向上は両立する
pinstock/gettyimages

子どもの自律性を養うことは、文部科学省の上位目標でもある。しかしそれが教育の現場で実践されているかというと、残念ながらそうとは言えない。本来であれば、知育(勉強)・徳育(道徳)・体育でバランスを取るべきにもかかわらず、現状の教育内容は知育に偏り、学校はペーパーテストの点数を上げることに躍起になっている。手段が目的化しているのが、教育現場の現状なのだ。

点数アップが学校教育の目的だと勘違いすると、子どもにつまずいたところを繰り返し復習するよう「命令」してしまう。本来なら子ども自身が「ここはよく理解できていないからもう一度勉強しておこう」と判断し、必要に応じて復習すべきにもかかわらずだ。

学力向上が目的化すると、「勉強時間を増やそう」という勘違いが生まれる。OECD(経済協力開発機構)の学習到達度調査で、フィンランドに大きく差をつけられたとき、日本の学校は宿題を増やして挽回した。しかし当のフィンランドでは宿題は多くないし、放課後の塾通いもない。子どもの主体性にまかせ、少ない学習時間で結果を出している。

子どもの自律と学力向上を両立させるキーワードは、「心理的安全性」と「メタ認知能力」だ。これらをもとに、いまいちど教育の本質に立ち返ってみよう。

【必読ポイント!】 キーワードその1「心理的安全性」

過剰なストレスは不適切行動を引き起こす

「心理的安全性」とは、文字通り「心理的に安全な状態」を意味する。その反対は「心理的危険」だ。脳はある程度のストレスを許容できるようになっているが、ストレスが許容量を上回ると扁桃体が過剰活性を起こし、脳内に「緊急事態宣言」が発令される。この状態を「心理的危険状態」という。

心理的危険状態になると、人は戦闘モードに入るか逃走モードに入る。すると体は危険回避のため、必要な臓器に血流を集中しようとし、人の思考や感情抑制などを司る前頭前皮質に血液が回らなくなってしまう。

身近に自殺者が出ると、「なんであの人が」「自殺するような人に見えなかった」などという感想をよく耳にするが、それはその人の「平時」の人物像でしかない。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3051/4383文字
会員登録(7日間無料)

3,400冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2021.08.12
Copyright © 2024 Flier Inc. All rights reserved.
一緒に読まれている要約
14歳の自分に伝えたい「お金の話」
14歳の自分に伝えたい「お金の話」
藤野英人
未読
GENIUS LIFE ジーニアス・ライフ
GENIUS LIFE ジーニアス・ライフ
江口泰子(訳)マックス・ルガヴェア
未読
気にしない練習
気にしない練習
名取芳彦
未読
HAPPY STRESS
HAPPY STRESS
青砥瑞人
未読
子どもの才能を引き出す
子どもの才能を引き出す
李雅卿(リー・ヤーチン)ワン・チャイ(訳)
未読
チームが自ずと動き出す 内村光良リーダー論
チームが自ずと動き出す 内村光良リーダー論
畑中翔太
未読
決断力
決断力
橋下徹
未読
考え方
考え方
稲盛和夫
未読
法人導入をお考えのお客様