ネコと分子遺伝学の表紙

ネコと分子遺伝学


本書の要点

  • 100年前ぐらいからブリーダーの手により、ネコの品種改良が行われてきた。多彩な毛色のネコがいるのは進化によるものではなく、人手によるものである。

  • 多彩な毛色のネコをサンプルにしたことで、毛色遺伝子の研究が急速に進展してきた。主要な毛色遺伝子として、w、o、A、B、C、D、T、i、sの9種類が知られている。

  • ヒトの遺伝子研究も進んだことで、ネコの毛色遺伝子がヒトの疾病にも関連していることも明らかになってきた。ヒトの毛色との共通点や相違点も判明し、進化のことを考えるヒントとなっている。

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ペットとして愛された故の、豊富なネコの毛色の知識

ネコは、現代の分子遺伝学と出会うことで、毛色研究のパイオニアとなった

生き物は長い時間をかけて、遺伝子の配列情報を変化させ、少しずつ性質の異なった生物に変化していく。これを進化といい、例えばチンパンジーとヒトは共通の祖先から出発して500万年ほどかけて現代までの姿になっていると言われている。このように外側の形質にまで変化がわかるような進化には、長い年月がかかるのが通常だ。しかし、短い時間でも見た目が変わってくる例もある。毛色はその典型例であり、ネコの毛色の多様化は人の手が介入した結果の変化である。すなわち毛色が少し変化したネコをわざわざ選んで残して子孫をつくらせ、その変化を蓄積してきた。自然界ではウマに白馬、栗毛、芦毛、黒毛などが存在するぐらいで、シマウマやライオン、キリンなどのように、同じ種内であれば毛色の違いはほとんど見られないのが通常だ。現在では、シャムネコやペルシャネコなどさまざまな品種のネコがいる。およそ100年前ごろから、ネコのブリーダーによってペットとして喜ばれる独特の体型や毛色を持つさまざまなネコが創りだされ、品種として確立されてきた。これらは生物学的にはイエネコと呼ばれ、野生のリビアヤマネコを家畜化したものとされている。その先祖は同じである。我々はDNA配列を用いてネコの品種の親戚関係を推定することができる。アビシニアンの変異としてソマリが、またアメリカンショートヘアの突然変異としてアメリカンワイヤーヘアが生まれたとされている例は、DNA配列的にも証明されている。ネコのブリーダーたちによる品種改良の結果とこれまでの遺伝学の研究により、ネコの毛色を司る遺伝子としては、w、o、A、B、C、D、T、i、sの9種類が知られている。また、毛の長さを決めているL遺伝子と呼ばれるものもある。

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ネコの毛色遺伝子についての新しい報告

黒ネコや白ネコ、ブルーやアンバーなど野生では多くない毛色について、遺伝子レベルでの説明が可能になってきた

キジネコ、茶トラ、黒ネコ、ぶちネコなど、さまざまな毛色のネコがいる。黒っぽい茶色の縦縞の入った毛色をもつキジネコが、家畜化される前の元々の毛色である。ここからは5種類の遺伝子の事例を取り上げる。A遺伝子は黒ネコをつくる遺伝子だ。

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要約公開日 2014.09.12
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