ネコと分子遺伝学

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ネコと分子遺伝学
ジャンル
出版社
コロナ社
出版日
2013年06月01日
評点
総合
3.3
明瞭性
4.0
革新性
3.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

猫といえばペットとして世界中で愛されている、とても身近な動物だ。猫は数多のブリーダーによって品種改良がおこなわれており、特に「毛色」に関して様々なパターンが知られている。この知見を活かして、猫は毛色と遺伝子の関連がよく調べられてきた。

通常、遺伝子の研究に使う哺乳類といえば圧倒的にネズミのケースが多い。だが、ネズミは毛色に注目して繁殖されたことが少なく、猫の知見のほうが役に立つ。「毛色遺伝子」研究においては猫がパイオニアなのだ。「DNAは生命の設計図で、ここに書かれた情報を読み解けば、生命の理解が飛躍的に進むようになる」。このように言われるようになってから久しい。本書を読めば猫の毛色研究からその一端を知ることができる。

近年、遺伝子検査のサービスが広まるなど、遺伝子研究の成果に触れる機会が増えている。これを機会に遺伝子研究とはどういうものなのか是非知っていただきたい。本書は、遺伝子の研究成果を身近かつ愛らしいネコの事例と共に読める、入門書としての役割を果たすだろう。本書中にはネコの品種名が数多く登場するので、手元にネコのカタログのようなものを置き、実際のネコの写真と見比べながら読めば、多彩な毛色の特徴についての興味や関心も否応なく深まっていく。本書では猫の毛色のこと以外にも、病気との関連性でわかってきたことも紹介されている。

著者

仁川 純一(にかわ・じゅんいち)
1974年大阪大学理学部化学科卒業。1979年大阪大学大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学(有機化学専攻)。理学博士(大阪大学)。1979年群馬大学助手。1987年群馬大学講師。1991年九州工業大学助教授。2002年九州工業大学教授。2012年九州工業大学名誉教授。

本書の要点

  • 要点
    1
    100年前ぐらいからブリーダーの手により、ネコの品種改良が行われてきた。多彩な毛色のネコがいるのは進化によるものではなく、人手によるものである。
  • 要点
    2
    多彩な毛色のネコをサンプルにしたことで、毛色遺伝子の研究が急速に進展してきた。主要な毛色遺伝子として、w、o、A、B、C、D、T、i、sの9種類が知られている。
  • 要点
    3
    ヒトの遺伝子研究も進んだことで、ネコの毛色遺伝子がヒトの疾病にも関連していることも明らかになってきた。ヒトの毛色との共通点や相違点も判明し、進化のことを考えるヒントとなっている。

要約

ペットとして愛された故の、豊富なネコの毛色の知識

iStock/Thinkstock
ネコは、現代の分子遺伝学と出会うことで、毛色研究のパイオニアとなった

生き物は長い時間をかけて、遺伝子の配列情報を変化させ、少しずつ性質の異なった生物に変化していく。これを進化といい、例えばチンパンジーとヒトは共通の祖先から出発して500万年ほどかけて現代までの姿になっていると言われている。

このように外側の形質にまで変化がわかるような進化には、長い年月がかかるのが通常だ。しかし、短い時間でも見た目が変わってくる例もある。毛色はその典型例であり、ネコの毛色の多様化は人の手が介入した結果の変化である。すなわち毛色が少し変化したネコをわざわざ選んで残して子孫をつくらせ、その変化を蓄積してきた。自然界ではウマに白馬、栗毛、芦毛、黒毛などが存在するぐらいで、シマウマやライオン、キリンなどのように、同じ種内であれば毛色の違いはほとんど見られないのが通常だ。

現在では、シャムネコやペルシャネコなどさまざまな品種のネコがいる。およそ100年前ごろから、ネコのブリーダーによってペットとして喜ばれる独特の体型や毛色を持つさまざまなネコが創りだされ、品種として確立されてきた。これらは生物学的にはイエネコと呼ばれ、野生のリビアヤマネコを家畜化したものとされている。その先祖は同じである。

我々はDNA配列を用いてネコの品種の親戚関係を推定することができる。アビシニアンの変異としてソマリが、またアメリカンショートヘアの突然変異としてアメリカンワイヤーヘアが生まれたとされている例は、DNA配列的にも証明されている。

ネコのブリーダーたちによる品種改良の結果とこれまでの遺伝学の研究により、ネコの毛色を司る遺伝子としては、w、o、A、B、C、D、T、i、sの9種類が知られている。また、毛の長さを決めているL遺伝子と呼ばれるものもある。

ネコの毛色遺伝子についての新しい報告

Stockbyte/Thinkstock
黒ネコや白ネコ、ブルーやアンバーなど野生では多くない毛色について、遺伝子レベルでの説明が可能になってきた

キジネコ、茶トラ、黒ネコ、ぶちネコなど、さまざまな毛色のネコがいる。黒っぽい茶色の縦縞の入った毛色をもつキジネコが、家畜化される前の元々の毛色である。ここからは5種類の遺伝子の事例を取り上げる。

A遺伝子は黒ネコをつくる遺伝子だ。

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要約公開日 2014.09.12
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